少し実践的なデータ分析・活用の話題をしたいと思います。
小売店です。
小売店であれば、1店舗からでも使えますし、1,000店舗の大手小売りチェーンでも使える話題です。
しかも、利用するのは2つの指標だけです。
これだけで結構なことを考えることができます。もちろん、ただ考えただけではダメです。どう活かすのかまで考え、そして実行に移す必要があります。
しかも、利用するデータは売上データ(POSデータや日販など)のみでOKです。
今回は、「小売の売上分析、2つの指標だけで考える小売業の『データ分析的な戦略』」というお話しをします。
先ずは、商品ごとに売上の時系列推移を見る
あなたは、手元に売上データがあれば、先ず何をするのでしょうか?
多くの人は、時系列推移を見ることでしょう。人や立場によって、年単位で見る人や月単位で見る人、週単位で見る人や日単位で見る人、さまざまです。
店舗全体をの売上の推移を見たり、商品カテゴリーごとに売上推移を見たり、SKU単位で売上推移を見たり、場合によっては生産工場単位で売上推移を見たりします。
残念ながら、売上全体を見ることがあっても、SKU単位で売上の推移を見ている人は、少ない気がします。
最低限、SKU単位で売上の時系列推移を見ることをお勧めします。そこで、色々な示唆を得ることができるかと思います。
1日あたりの売上点数(日販の平均)
例えば、売上の時系列推移を月単位で見たとしましょう。
月によって日数が異なるため、「1日あたりの売上点数(日販の平均)」を計算し月単位の時系列推移を見るための指標として使うことがあります。もちろん「売上点数の月合計」でも構いません。
ここで面白いことが分かります。SKUによって売上の時系列推移の挙動が異なるのです。
多くの場合、大きく以下の3つに分かれます。
- (1) ジョットコースター型の推移(急激に売上が急上昇 したり 急下降したりする)
- (2) 季節型の推移(夏場に売れる、冬場に売れる、といった季節商品)
- (3) 横ばい型の推移(販促の影響などで変動するも、ほぼ変化せずほぼ一定して横ばい)
(1)は一時的な流行商品に多く、(2)は季節性の高い商品に多く、(3)は地味な商品に多い感じです。
ある別の見方をすると、(1)は不安的な商品で、(2)はやや不安定な商品で、(3)は安定した商品です。
安定・不安定を見る指標に、「標準偏差」というものがあります。
日販の標準偏差
「日販の平均」という指標は、水準の高さを表現します。しかし、「日販の平均」はあくまでも平均値であり、日々の日販ではありません。
例えば、「日販の平均」が80万円であっても、現実は日販10万円の日もあれば、日販200万円の日もあります。色々な日販を平均したら80万円だったということにすぎません。
「日販の標準偏差」とは、日々の日販が「日販の平均」を中心に上下に変動するのかの程度を表した指標です。
したがって、「日販の標準偏差」の値が大きければ大きいほど、日々の日販が「日販の平均」を中心に上下に大きく変動することになります。
つまり、日販が不安定ということになります。
参考に、「日販の標準偏差」の計算式を載せておきます。
「日販の分散」=(日販-「日販の平均」)の2乗の合計÷日数
「日販の標準偏差」は、「日販の分散」の平方根
※Excelなどで簡単に計算できる(計算用のExcel関数がすでにある)
迷ったら、1年間で見てみよう
ここまで、月単位の話しをしました。ここで、話しを簡単にするために1年単位で話しを進めます。
SKU単位で、その売上点数の「日販の平均」と「日販の標準偏差」を計算してみましょう。計算したら、「日販の平均」(横軸)と「日販の標準偏差」(縦軸)の散布図を作りましょう。
そうすると、以下の4種類に分かれます。
- (1) 散布図の「右下」:売上大 かつ 売上が安定しているSKU
- (2) 散布図の「右上」:売上大 だが 売上が不安定なSKU
- (3) 散布図の「左下」:売上小 だが 売上が安定しているSKU
- (4) 散布図の「左上」:売上小 かつ 売上が不安定なSKU
(1)のような商品はほとんどありません。ほとんどないどころか、まったくない場合もあります。もしあるならば、大事にすべきでしょう。その店舗の主力商品の可能性が高いからです。
(4)のような商品は、他の商品との兼ね合いや、企業としての方向性や、ブランディングなどを考慮し、どのような扱いをすべきか検討すべきかを、決める必要があることでしょう。
悩ましいのは、(2)と(3)の扱いです。
あなたらなら、どのような戦略をとるだろうか?
データ分析の本分
なんとなくですが、散布図の「右上」の(2) の「売上大 だが 売上が不安定なSKU」に惑わされるケースが非常に多い気がします。
なぜならば、目立つからです。
「データ分析の本分」は何でしょうか?
人によって異なることでしょう。私が安全保障系のデータ分析をバックボーンにしているからかもしれませんが、私個人の考えでは「負のリスクを減らすこと」です。
ここで言うリスクとは「不確実性」のことです。売上が極端に大きくなるかもしれないし、売上が極端に低くなるかもしれない、博打なようなことを指しています。
「負のリスク」とは売上が極端に低くなるかもしれないこと、「正のリスク」とは売上が極端に大きくなることです。
要するに、「データ分析の本分」とは、どうなるか分からないことに対し「負のリスクを減らすこと」です。
「負のリスクを減らすこと」という視点で考えれば、先ほどの散布図の「左下」の(3) の「売上小 だが 売上が安定しているSKU」に注目し、そして注力すべきです。
データ分析的な戦略
以上を踏まえると、データ分析的な戦略の考え方は、「負のリスクを減らすこと」を第一に考えることになります。
ある程度の負のリスクを減らすことで、一定の安定性が得られます。売上で考えれば、ある一定の売上が担保されます。
次にすべきは、その担保された売上を元手に、「正のリスク」のあることにチャレンジします。
これが、私の考える「データ分析的な戦略」です。
データ分析の力は、リスクをどれだけ減らし、リスクのあることにどれだけ挑戦できるかにあると思います。
小売に限らず、多くの商材を抱えているB to B 企業でも、同じようなデータ分析が可能かと思います。SKU単位で2つの指標「平均」と「標準偏差」を計算し、次の打ち手を「あーだ、こーだ」と考えてみてはいかがでしょうか。
今回のまとめ
今回は、「小売の売上分析、2つの指標だけで考える小売業の『データ分析的な戦略』」というお話しをしました。
先ず、2つの指標とは「日販の平均」と「日販の標準偏差」です。
「日販の平均」という指標は、水準の高さを表現します。「日販の標準偏差」という指標は、リスクの大きさを表現します。
理想は、「日販の平均」が高く、「日販の標準偏差」が小さいことです。
例えば、SKU単位で、その売上点数の「日販の平均」と「日販の標準偏差」を計算し、「日販の平均」(横軸)と「日販の標準偏差」(縦軸)の散布図を作ると、以下の4種類に分かれます。
- (1) 散布図の「右下」:売上大 かつ 売上が安定しているSKU
- (2) 散布図の「右上」:売上大 だが 売上が不安定なSKU
- (3) 散布図の「左下」:売上小 だが 売上が安定しているSKU
- (4) 散布図の「左上」:売上小 かつ 売上が不安定なSKU
(1)のような商品は、その店舗の主力商品でしょう。(4)のような商品は、どのような扱いをすべきか検討すべきか決める必要があります。
問題は(2)と(3)です。
散布図の「右上」の(2) の「売上大 だが 売上が不安定なSKU」は目立ちます。しかし、注力すべきは散布図の「左下」の(3) の「売上小 だが 売上が安定しているSKU」です。
人によって考え方は異なりますが、私の考えでは、「データ分析の本分」とは「負のリスクを減らすこと」だからです。
データ分析を活用することで、どうなるか分からないことに対し、そのリスクを減らし確実性を高めることです。データ分析は、そのようなことが可能です。
そのためにも、「日販の平均」と「日販の標準偏差」という2つの指標を見る必要があります。
まだじっくり、「標準偏差」という指標を眺めたことがない方は、一度算出し眺めてみてください。面白い進展があるかもしれません。