第347話|なぜ、データをビジネスインサイトに変換するのが難しいのか?

第347話|なぜ、データをビジネスインサイトに変換するのが難しいのか?

今やデータはビジネス活動の至る所に存在し、それをより良い意思決定のために活用したいと考えている人も少なくありません。

しかし、多くの経営陣やマネジメント層などの多くは、生のデータをどのように料理するかを必ずしも理解していません

なぜならば、多くの経営陣やマネジメント層が、データ周りの専門家ではないからです。専門家である方が、珍しいです。

そのため、データ専門家(データサイエンティストなど)が実行力のあるビジネスインサイトを提供する役割を担う必要があるのが現状です。

ではどうすれば、データをビジネスインサイトに変換することができるのでしょうか?

今回は、「なぜ、データをビジネスインサイトに変換するのが難しいのか?」というお話しをします。

そもそもビジネスインサイトとは何?

ビジネスインサイトは、企業がより良い意思決定を行うために使用する、データ分析から得られる価値ある情報や知識です。

これらのインサイトは、企業が市場の動向を理解し、競争力を維持し、パフォーマンスを改善し、新しい機会を発見するのに役立ちます。

例えば、ビジネスインサイトは企業に、以下のような利益をもたらします。

ビジネスインサイトの活用領域 説明
意思決定の改善 企業がより情報に基づいた意思決定を行い、リスクを最小限に抑えつつ最大の利益を得る。
パフォーマンスの最適化 例えば、販売データの分析から特定の製品が売れ行きが良い時間帯や地域を特定することが可能。
競争優位性の獲得 市場の動向や競争状況に関するインサイトは、企業が競争優位性を獲得するのに役立つ。
リスク管理 財務データの分析から、企業が財務危機に直面する可能性がある警告信号を特定することができる。
顧客理解の深化 企業が顧客の行動、嗜好、ニーズをより深く理解し、顧客体験を改善し顧客ロイヤルティを向上させる。
新しいビジネス機会の発見 新しい市場の機会、新しい製品やサービスの可能性、または新しいビジネスモデルを発見する。

 

では、具体的に何をどうすれば、データをビジネスインサイトに変換することができるのでしょうか?

 

ビジネスインサイト変換プロセス

データをビジネスインサイトに変換するとは、簡単に言うと「生のデータを取得し、それを分析して意味のある情報(ビジネスインサイト)に変ること」です。

ビジネスインサイトを得ただけでは、何もいいことは起こりません。

アクションです。

しっかりアクションにまで結び付けて初めてビジネス成果が生み出されます

では、どのようなプロセスを踏めばいいのでしょうか?

例えば、次のようなプロセスです。

プロセス 説明
目的の定義 目的は、ある行動をとる理由やその背後にある意図を指します。これは、より抽象的で広範な概念であり、通常は特定の行動や結果に直接結びついていないことが多いです。
目標の設定 目標は、達成したい具体的な結果や成果を指します。これは、通常、明確な基準や期限を持ち、達成可能で測定可能なものでなければなりません。
データ収集 これは、各種のデータソースからデータを取得するプロセスです。データソースは、企業内のデータベース、ソーシャルメディア、顧客の購買履歴、市場調査など、さまざまなものがあります。
データクレンジング 収集されたデータは、重複、不一致、欠損データなどの問題があるかもしれません。データクレンジングは、そのような問題を修正し、分析が正確に行われるようにするためのステップです。
データ分析 クレンジングされたデータは、さまざまな統計的手法や機械学習アルゴリズムを使用して分析されます。目的は、データ内のパターン、トレンド、関連性などを特定し、それを基に予測や推測を行うことです。
インサイト抽出 分析の結果から、ビジネスにとって価値のある情報、すなわち「インサイト」を抽出します。これはデータが示しているトレンド、未来の可能性、問題点、ビジネスチャンスなどが含まれます。
アクションプランの作成と実施 最後に、抽出されたインサイトを基にアクションプランを作成し、そのプランを実行することで、ビジネスのパフォーマンスを改善します。

 

これらのプロセスを通じて、企業はデータを有用なビジネスインサイトに変換し、それを戦略的な意思決定に活用することができます。

データドリブンな意思決定は、企業が市場の変化に迅速に対応し、競争優位を獲得するための重要な手段となっています。

 

データサイエンス・プロジェクトの目的と目標

前回、データサイエンス・プロジェクトを実施するときに設定すべき、目的と目標について簡単に説明しました。

第346話|上手くいかない「データサイエンス・プロジェクト」に共通する「目的があるのに目標がない」という怪奇現象

 

詳細は、前回の記事を参考にしていただければと思いますが、簡単に述べると以下のようになります。

  • 目的は「なぜ」
  • 目標は「何を、いつまでに」

目的は目標設定の基礎を提供し、目標はその目的に向けて具体的な進行方向を示します。

そのため、1つの目的に対し、複数の目標が対応します。

例えば、以下のようになります。

ビジネスのタイプ 目的 目標
化粧品 ブランドの認知度とリーチの拡大
  • ウェブサイトの訪問者数を30%増加
  • ソーシャルメディアのフォロワー数を25%増加
  • PRキャンペーンを通じてメディア露出を50%増加
電子機器メーカー 製品品質の向上と顧客満足度の確保
  • 製品の不良率を5%以下にする
  • 製品のリターン率を10%減少させる
  • 製品の機能改善を行い、顧客評価を4.5以上にする
ソフトウェアベンダー 新規顧客獲得とビジネスの拡大
  • 新しいマーケティングキャンペーンを通じてリードの獲得数を50%増加
  • 新規市場への進出を行い、新規顧客数を20%増加
  • パートナーシップを通じてリードの獲得数を30%増加
小売企業 顧客ロイヤルティの強化とリピートビジネスの促進
  • 顧客満足度を80%に向上させる
  • リピート購入率を15%増加させる
  • 顧客ロイヤルティプログラムの参加者数を25%増加
スタートアップ企業 新製品の成功と市場での地位の確立
  • 新製品の販売数を1000個にする
  • 新製品の市場シェアを10%にする
  • 新製品の顧客評価を4.5以上にする
製造業 利益率の改善とビジネスの持続可能性の確保
  • 新規顧客獲得コストを20%削減
  • オペレーションコストを10%削減
  • 製品のマージンを15%向上
モバイルアプリ開発会社 ユーザーエンゲージメントの向上と長期的なユーザー保持
  • 新しいユーザー向けのオンボーディングプロセスを開発し、ユーザーの離脱率を15%減少
  • ユーザーエンゲージメントを20%増加
  • ユーザーのリテンション率を10%向上
家庭用電化製品製造・販売会社 市場での競争力の強化とブランドの地位の向上
  • 製品の市場シェアを5%増加
  • ブランド認知度を20%増加
  • 競合他社との価格競争力を10%向上

 

ビジネス事例

今回例として、以下の目的と目標を設定した事例を使い、先ほど紹介したプロセスについて説明します。

ビジネスのタイプ 目的 目標
化粧品 ブランドの認知度とリーチの拡大
  • ウェブサイトの訪問者数を30%増加
  • ソーシャルメディアのフォロワー数を25%増加
  • PRキャンペーンを通じてメディア露出を50%増加
電子機器メーカー 製品品質の向上と顧客満足度の確保
  • 製品の不良率を5%以下にする
  • 製品のリターン率を10%減少させる
  • 製品の機能改善を行い、顧客評価を4.5以上にする
ソフトウェアベンダー 新規顧客獲得とビジネスの拡大
  • 新しいマーケティングキャンペーンを通じてリードの獲得数を50%増加
  • 新規市場への進出を行い、新規顧客数を20%増加
  • パートナーシップを通じてリードの獲得数を30%増加

 

 化粧品

エコフレンドリーなコスメティックブランドを展開しています。

このブランドは、自然と環境に配慮した製品を提供する美容ブランドで、環境への影響を最小限に抑えることを目指し、持続可能性とエシカルな製造方法に重点を置いており、消費者に対してその価値を強く訴えています。

有名な競合するブランドに、“Biossance”, “Herbivore Botanicals”, “Youth To The People” などがあります。

この企業は、このブランドの認知度とリーチの拡大に問題を抱えていました。

以下のプロセスを踏むことで、データをビジネスインサイトに変換し、ビジネス成果を獲得しました。

プロセス 説明
目的の定義 ブランドの認知度とリーチの拡大
目標の設定
  • ウェブサイトの訪問者数を30%増加
  • ソーシャルメディアのフォロワー数を25%増加
  • PRキャンペーンを通じてメディア露出を50%増加
データ収集 初めに、ウェブサイトの訪問者データ、ソーシャルメディアのインタラクションデータ(いいね数、シェア数、コメント数等)、以前のPRキャンペーンのメディア露出データなどを収集します。これらのデータは、顧客の行動や反応、及びブランドへの認知度を理解するための基礎となります。
データクレンジング 次に、データクレンジングを行い、不完全または誤ったデータを修正または除去します。これにより、分析の精度と信頼性を確保します。
データ分析 クリーンなデータを用いて、ウェブサイト訪問者の行動、ソーシャルメディアのエンゲージメント、メディア露出の効果などを分析します。これにより、マーケティングとPR戦略のどの部分が機能していて、どの部分が改善が必要かを明らかにします。
インサイト抽出 データ分析から得られた情報を元に、ウェブサイト訪問者の増加、ソーシャルメディアのエンゲージメント向上、メディア露出の拡大につながる具体的なインサイトを抽出します。これには、最もエンゲージメントを生むコンテンツの種類、最適な投稿時間、有効なPR戦略などが含まれる可能性があります。
アクションプランの作成と実施 得られたインサイトを基に、ウェブサイトのユーザーエクスペリエンスの改善、ソーシャルメディアのコンテンツ戦略の改定、PRキャンペーンの調整など、具体的なアクションプランを作成し、これを実施します。実施結果を定期的に評価し、必要に応じてプランを調整することで、目標達成に向けた最善の道筋を探求します。

 

 電子機器メーカー

電子機器の製造を行っている企業です。

様々な種類の電子デバイスや関連製品を製造し、販売しています。例えば、パソコン、スマートフォン、テレビ、ゲーム機、家電製品、半導体、センサーなど、幅広い製品を扱っています。

ある製品で、品質と顧客満足度の確保に問題を抱えていました。

以下のプロセスを踏むことで、データをビジネスインサイトに変換し、ビジネス成果を獲得しました。

プロセス 説明
目的の定義 製品品質の向上と顧客満足度の確保
目標の設定
  • 製品の不良率を5%以下にする
  • 製品のリターン率を10%減少させる
  • 製品の機能改善を行い、顧客評価を4.5以上にする
データ収集 初めに、製造プロセスデータ、製品の不良率データ、顧客のリターンデータ、顧客評価データなどを収集します。これらのデータは、製品の品質と顧客満足度を理解するための基礎となります。
データクレンジング 次に、データクレンジングを行い、不完全または誤ったデータを修正または除去します。これにより、分析の精度と信頼性を確保します。
データ分析 クリーンなデータを用いて、製品の不良率、リターン率、顧客評価などを分析します。これにより、製品の品質問題や顧客満足度に関連する課題を明らかにします。
インサイト抽出 データ分析から得られた情報を元に、製品の不良率を減少させ、リターン率を下げ、顧客評価を向上させるための具体的なインサイトを抽出します。これには、製品不良の主要な原因、リターンの多い製品の特性、高評価を得るための重要な製品特性などが含まれる可能性があります。
アクションプランの作成と実施 得られたインサイトを基に、製造プロセスの改善、製品デザインの改定、顧客対応の強化など、具体的なアクションプランを作成し、これを実施します。実施結果を定期的に評価し、必要に応じてプランを調整することで、目標達成に向けた最善の道筋を探求します。

 

 ソフトウェアベンダー

B2B(企業間取引)のソフトウェアソリューションを提供している企業とします。

他の企業を対象に、そのビジネス運営や組織的課題の解決に役立つソフトウェアや関連サービスを提供しています。

最近は、Software as a Service (SaaS)やPlatform as a Service (PaaS)などのクラウド上のソリューションを開発し提供しています。

あるコミュニケーションとコラボレーションを簡素化するためのクラウド上のプラットフォームを新規に立ち上げましたが、競合するSlackなど出遅れ、新規顧客の獲得とビジネス拡大に問題を抱えていました。

以下のプロセスを踏むことで、データをビジネスインサイトに変換し、ビジネス成果を獲得しました。

プロセス 説明
目的の定義 新規顧客獲得とビジネスの拡大
目標の設定 新しいマーケティングキャンペーンを通じてリードの獲得数を50%増加<br>新規市場への進出を行い、新規顧客数を20%増加<br>パートナーシップを通じてリードの獲得数を30%増加
データ収集 初めに、過去のマーケティングキャンペーンのデータ、顧客データ、市場リサーチデータ、パートナーシップに関連するデータを収集します。これらのデータは新規顧客獲得とビジネス拡大の計画に役立つ基礎データとなります。
データクレンジング 収集したデータは必ずしも完全ではないため、不完全や誤ったデータを修正または除去するデータクレンジングを行います。これにより、分析の精度と信頼性を確保します。
データ分析 クリーンなデータを用いて、過去のマーケティングキャンペーンの効果、新規市場の潜在的なビジネスチャンス、パートナーシップの成果などを分析します。これにより、新規顧客獲得とビジネス拡大のための重要なインサイトを得ることができます。
インサイト抽出 データ分析から得られた情報を元に、リード獲得数を増加させるためのマーケティング戦略、新規市場進出の可能性、パートナーシップの拡大などの具体的なインサイトを抽出します。
アクションプランの作成と実施 得られたインサイトを基に、新しいマーケティングキャンペーンの立案、新規市場進出の戦略、パートナーシップの強化などの具体的なアクションプランを作成し、これを実施します。アクションプランの効果は定期的に評価し、必要に応じてプランを調整することで、目標達成に向けての最善の道筋を模索します。

 

ビジネスインサイトへの変換の壁と、その解決策

データをビジネスインサイトに変換することが難しい理由はいくつかあります。

問題 難しい理由 解決策
データの量 現代のビジネスは大量のデータを生成し、これを一貫性のある形にまとめるのが困難である。 ビッグデータを扱うためのツールと技術(データレイク、クラウドストレージ、Hadoopなど)を導入し、自動化ツールやAIを使用してデータを効率的に処理する。
データの品質 データが欠損していたり、不正確であったりすると、それを使って信頼できるインサイトを得ることが困難。 データクレンジングやデータの前処理を行い、欠損値や不正確なデータを修正。これらのプロセスを自動化するツールも利用する。
適切なスキルの欠如 データを解析し、それをビジネスインサイトに変換するためには、専門的なスキルが必要であり、これらのスキルを持つ専門家が不足している。 データ分析のスキルを持つ専門家を採用するか、社内の従業員に対するトレーニングを実施。ユーザーフレンドリーなデータ分析ツールを使用する。
解釈の困難 データから得られる結果やパターンをビジネスコンテキストに適切に適用することは困難であり、しばしば専門知識を必要とする。 データ科学者とビジネスリーダーが協働して、分析の結果をビジネスコンテキストに適用。データリテラシーを向上させる。
プライバシーとセキュリティ 個人のプライバシーを保護し、データを安全に保つことは、データを活用する上で重要な課題であり、これらを適切に管理しないと、法律違反につながる可能性がある。 法規制を理解し、適切なデータガバナンスポリシーを導入。データ暗号化、アクセス制御、監査トレイルなどの技術を使用してデータセキュリティを強化する。

 

問題の難易度は、組織の特性や状況によって大きくなります。

最近では、次の問題が大きくなっています。

  • データの量の問題
  • 適切なスキルの欠如の問題
  • プライバシーとセキュリティの問題

 

データの量の問題
ビッグデータテクノロジーの進歩により、大量のデータを扱うためのツールと技術が進化しています。しかし、その導入と適切な管理は依然として複雑なプロセスであり、専門知識を必要とします。また、データの量が増えるほど、その管理と解析に必要なリソースも増えます。

適切なスキルの欠如の問題
データ分析は専門的なスキルを必要とし、その教育と採用は時間と費用を必要とします。特に、ビジネスとデータサイエンスの両方に精通した人財もしくは繋ぐ人財を見つけることは難しいとされています。

プライバシーとセキュリティの問題
これは技術的な問題だけでなく、法規制や倫理的な問題も含むため、解決が特に難しいとされています。特に、国や業界によって異なる法規制を遵守しなければならない場合、適切なデータ管理が更に複雑になる可能性があります。

 

今回のまとめ

今回は、「なぜ、データをビジネス・インサイトに変換するのが難しいのか?」というお話しをしました。

ビジネス活動で得られたデータで、市場の動向を理解し、顧客の行動を予測し、製品やサービスの改善につなげることができます。

そのためには、例えば以下のようなプロセスを踏む必要があります。

  1. 目的の定義
  2. 目標の設定
  3. データ収集
  4. データクレンジング
  5. データ分析
  6. インサイト抽出
  7. アクションプランの作成と実施

しかし、実現するにはいくつかの壁があります。

データの品質や完全性、スキルの不足、データのプライバシーとセキュリティなどが挙げられます。これらの壁を克服するためには、適切なツールとスキルを持つ専門家の支援が必要となります。

そして、データ分析は、AIや機械学習の進歩により、今後ますます重要な役割を果たすようになります。これらの技術は、大量のデータを迅速に分析し、より深い洞察を提供することが可能になります。