第405話|データ探偵入門:ビジネスパーソンのための3ステップEDA(探索的データ分析)

第405話|データ探偵入門:ビジネスパーソンのための3ステップEDA(探索的データ分析)

データ分析って難しそう…… そう思っていませんでしょうか?

実は、あなたも知らないうちにデータ探偵の素質を持っているかもしれません。

日々の業務で直感的に行っている「状況把握」や「問題解決」、それこそがデータ分析の本質なのです。

今回は、ビジネスの現場で使える「探索的データ分析(EDA)」の基本をご紹介します。

あなたの直感を活かしながら、データから有益な洞察を得る方法です。

3つの簡単なステップを身につければ、あなたもデータ探偵になれます。

データ探偵としてのEDAの重要性

 EDAって何? なぜ大切なの?

EDA、つまり探索的データ分析(Exploratory Data Analysis)は、難しく聞こえるかもしれません。

でも、これは要するに「データを丹念に観察して、そこから有益な情報を見つけ出す」ということなんです。

例えば、こんな状況を想像してみてください。

あなたは新しい商品の販売戦略を立てる必要があります。そこで、過去の販売データを眺めてみると……

  • あれ? 20代の女性の購買が予想以上に多いぞ
  • 夏場の売り上げが他の季節より突出してる!
  • この商品、なぜか北海道での売れ行きがいまいちだな

こういった「気づき」を得て、それを基に戦略を練る。これこそが、EDAの本質なのです。

 好奇心と批判的思考

優秀な探偵には2つの特徴があります。それは「鋭い観察眼」と「論理的な推理力」。データ探偵も同じです。

  • 好奇心旺盛な観察眼: データの中の「普通じゃない」ところに気づく。「なぜだろう?」と疑問を持つ。
  • 批判的な思考: 「この数字、本当に正しいのかな?」「別の見方はないだろうか?」と、常に疑いの目を持つ。

例えば、ある商品の売上が急に伸びたとします。データ探偵なら、こう考えるでしょう。

  • 季節的な要因?
  • 競合他社の動きは?
  • もしかして、データ入力ミスじゃないか?

こうした視点で数字の裏側を探ることで、ビジネスに役立つ真の洞察が得られるのです。

 あなたもデータ探偵になれる!

EDAは、特別な人だけのものではありません。

日々の業務で数字と向き合っているあなたは、すでにデータ探偵の素質を持っているのです。

これから、具体的なEDAの手法を学んでいきますが、大切なのは「好奇心」と「批判的思考」です。

この2つさえあれば、あなたも立派なデータ探偵になれます。

第1のステップ:質問から始める

 宝探しの地図を描く

データ分析を始める前に、まずは「宝探しの地図」を描くことから始めましょう。

想像してみてください。あなたは海賊の財宝を探しに無人島にやってきました。

  • さて、どうしますでしょうか?
  • いきなりスコップを手に取ってあちこち掘り始めるでしょうか?
  • それとも、まず島の地形を確認し、手がかりを探すでしょうか?

そうです。効率的に宝を見つけるには、まず「どこに宝がありそうか」を考え、探す場所を絞り込むことが大切です。

データ分析も同じなのです。

 ビジネス課題を具体的な質問に落とし込む方法

では、ビジネスの文脈で考えてみましょう。

売上を上げたい」というのは、よくある課題ですよね。

でも、これだけでは漠然としすぎています。宝の地図で言えば、「島のどこかに宝がある」程度の情報でしかありません。

そこで、この大きな課題を、より具体的な質問に分解していきます。

  • どの商品の売上が最も貢献しているか?
  • 売上の季節変動はあるか?
  • 顧客層ごとの購買傾向に違いはあるか?
  • 競合他社の動向が売上に影響を与えているか?

こうした具体的な質問を用意することで、データ分析の方向性が明確になります。

つまり、「宝の地図」がより詳細になるわけです。

 質問リストの作り方

あなたの会社や部署が抱える課題について考えてみましょう。

その課題に関連して、どんな質問が思い浮かびますか?

以下のステップで質問リストを作ってみてください。

  • Step 1 : 大きな課題を1つ選ぶ(例:「顧客満足度を上げたい」)
  • Step 2 : その課題に関連する具体的な質問を5つ以上考える
  • Step 3 : それぞれの質問に答えるために必要なデータは何か考える

例えば……

  • 質問:「リピート率の高い顧客の特徴は?」 ⇒ 必要なデータ: 顧客の購買履歴、顧客属性(年齢、性別など)
  • 質問:「どの商品がクレーム率高いか?」 ⇒ 必要なデータ: 商品別の売上数、クレーム件数

 良い質問が良い分析を生む

「答えは質問の中にある」とよく言いますが、データ分析も同じです。

適切な質問があれば、そこからどんなデータを見るべきか、どうデータ分析すべきかが自然と見えてきます。

良い質問とは……

  • 具体的で明確なもの
  • 測定可能なもの
  • ビジネス課題と直接関連するもの

質問を練ることで、データの海の中から本当に価値ある「宝」を見つけ出すことができるのです。

第2のステップ:全体像を把握する

 森を見てから木を見る

データ分析を始めるとき、多くの人が陥りがちな罠があります。

それは、細かい数字にすぐに目を奪われてしまうことです。これは、「木を見て森を見ず」という諺そのものです。

例えば、広大な森の中にある特定の木を探すとき、どうしますか?

まず高い丘に登って森全体を見渡すはずです。そうすることで、「あの辺りに目的の木がありそうだ」という見当をつけられます。

データ分析も同じです。

まずは森全体(データの全体像)を把握してから、個々の木(細かいデータポイント)を見ていくのが効率的なのです。

 基本的な統計量とグラフの見方

では、どうやって「」を見るのでしょうか?

ここでは、基本的な統計量とグラフを使います。難しく聞こえるかもしれませんが、実はとてもシンプルなものです。

基本的な統計量

  • 平均値:データの中心的な値
  • 中央値:データを順に並べたときの真ん中の値
  • 最大値と最小値:データの範囲を示す
  • 標準偏差:データのばらつきを示す

よく使うグラフ

  • ヒストグラム:データの分布を視覚化
  • 箱ひげ図:データの分布と外れ値を一目で把握
  • 散布図:2つの変数の関係を視覚化

これらを使うことで、データの「」の形や特徴を素早く把握できます。

 ケーススタディ:売上データの全体像把握

具体例で見てみましょう。

ある会社の月間売上データを分析するとします。

まず、基本統計量を確認

  • 平均売上:500万円
  • 中央値:480万円
  • 最大値:800万円(12月)
  • 最小値:300万円(2月)
  • 標準偏差:150万円

次に、ヒストグラムを作成

  • 400-600万円の月が多い
  • 800万円の月が1つだけある(外れ値?)

月ごとの箱ひげ図を作成

  • 夏(6-8月)と冬(11-1月)の売上が高い
  • 春(3-5月)の売上が低い

これらの情報から、以下のような「」の特徴が見えてきます。

  • 売上には季節性がある
  • 12月の売上が特に高い(おそらくクリスマス商戦の影響)
  • 春に向けて対策が必要かもしれない

 全体像から洞察を得る

森を見る」ことで、どの部分に注目すべきか、どんな特徴や問題があるかが見えてきます。

そこから、より詳細な分析の方向性が決まります。

以下、全体像を把握する際のポイントです。

  • 基本統計量とシンプルなグラフを組み合わせる
  • 予想外の値や傾向に注目する
  • 時系列での変化を意識する

第3のステップ:繰り返し掘り下げる

 謎解きの糸口を見つける

データ分析を「謎解き」に例えてみましょう。

全体像の把握は、事件現場の概要をつかむようなものです。そこから怪しい点や興味深い部分を見つけ、それを深く掘り下げていくのが探偵の仕事です。

例えば、古い屋敷で起きた殺人事件を調査するとします。

  • 最初に屋敷全体を見回したところ、書斎の窓が開いていることに気づきました。
  • そこで、書斎を重点的に調べ始めます。
  • 本棚の並びが乱れていることに気づき、さらにそこを詳しく調べると…… というように、少しずつ謎を解いていくのです。

データ分析も同じです。

全体像から気になる点を見つけ、そこを深く掘り下げ、新たな発見をする。

そしてまた別の角度から見てみる。この繰り返しが、データから真の洞察を得るコツなのです。

 データの絞り込みと新たな関係性の発見

では、具体的にどうやって「掘り下げる」のでしょうか?

ここでは、2つの重要なテクニックを紹介します。

データの絞り込み

  • 全体のデータから、特定の条件に合うものだけを抽出して分析します。
  • 例:「20代の顧客だけ」「東京都の店舗だけ」「新商品のみ」など

新たな関係性の探索

  • 異なるデータ同士を組み合わせて、新しい視点を得ます。
  • 例:「天気と売上の関係」「社員の勤続年数と生産性の関係」など

これらのテクニックを使って、データを様々な角度から見ていきます。

 ケーススタディ:売上データの掘り下げ分析

先ほどの売上データの分析を深めてみましょう。

絞り込み分析の例

  • 12月の売上が特に高かったことに注目
  • 12月の売上を商品カテゴリ別に集計
  • 「冬物衣料」と「ギフト商品」が大きく貢献していたことを確認

新たな関係性の探索例

  • 春の売上が低いことに注目
  • 春の月(3-5月)の天気データと売上データを組み合わせて分析
  • 雨の日の売上が晴れの日より20%高いことが判明

掘り下げ例

  • 判明した関係性(雨の日に売上が高い)を掘り下げることに
  • 雨の日に売れる商品のランキングを作成
  • 「傘」「レインコート」だけでなく「書籍」「室内遊具」も上位に

こうした分析を繰り返すことで、「雨の日セール」や「春の読書キャンペーン」といった具体的な施策のアイデアが生まれてきます。

 掘り下げが洞察を生む

以下は、「繰り返し掘り下げる」ステップです。

  • Step 1 : 全体像から気になる点を見つける
  • Step 2 : その部分にフォーカスしてデータを絞り込む
  • Step 3 : 新たな関係性を探索する
  • Step 4 : 発見したことを基に、さらに別の角度から分析する

このプロセスを繰り返すことで、データの中に隠れていた「宝物」(=ビジネスに役立つ洞察)を見つけ出すことができます。

ビジネスインサイトへの道筋

 3ステップのEDAの復習

まずは、これまで学んできた3つのステップを簡単に振り返ってみましょう。

第1のステップ:質問から始める

  • ビジネス課題を具体的な質問に落とし込む
  • 「宝探しの地図」を描く

第2のステップ:全体像を把握する

  • 基本的な統計量とグラフを活用
  • 「森を見てから木を見る」

第3のステップ:繰り返し掘り下げる

  • データの絞り込みと新たな関係性の探索
  • 「謎解きの糸口」を見つけ、深堀りする

この3ステップを意識しながらデータと向き合うことで、単なる数字の羅列から、ビジネスに役立つ洞察を得ることができます。

 EDAから得られる具体的なメリット

EDAを実践することで、ビジネスにどんなメリットがあるのでしょうか?

以下、一例です。

予想外の発見

例:季節商品の売れ行きを分析していたら、特定の年齢層に人気が集中していることが判明。新たなターゲット層の発見につながった。

問題の早期発見

例:売上データを地域別に分析していたら、ある地域での急激な落ち込みに気づいた。迅速な対応で大きな損失を防いだ。

効果的な意思決定

例:新商品の販売戦略を立てる際、過去のデータから最も効果的な販促方法を特定。限られた予算で最大の効果を得られた。

コスト削減

例:在庫データを詳細に分析し、需要予測の精度を向上。過剰在庫を減らし、コストを大幅に削減できた。

新たなビジネスチャンスの発見

例:顧客の購買パターンを分析していたら、既存商品の新たな使い方が判明。そこから新商品のアイデアが生まれた。

これらの例からわかるように、EDAは単なるデータ分析ではなく、ビジネスの様々な側面に ポジティブ な影響を与える可能性を秘めています。

 データ分析チームとの協働

ここまでの内容は、一人一人のデータ探偵としての基本的なスキルです。

しかし、より複雑な分析や大規模なデータセットを扱う場合は、データ分析チームを組織化しメンバーの力を借りることも重要です。

以下、協働ポイントです。

  • 明確な質問を準備する : ビジネス課題を具体的な質問に落とし込んで伝える
  • 全体像を共有する : データの背景や現在の状況を分析チームと共有する
  • 発見を一緒に解釈する : 分析結果をビジネスの文脈で解釈し、実行可能な施策に落とし込む
  • 継続的なコミュニケーション : 分析の過程で新たな質問や仮説が生まれたら、随時共有する

関わるメンバーがデータの基本を理解していることで、チーム内でのコミュニケーションがよりスムーズになり、より価値のある分析結果を得ることができるでしょう。

 データ探偵としての心構え

データ探偵として成長し続けるためのアドバイスです。

好奇心を持ち続ける 

“当たり前”と思っていることにこそ、新たな発見のチャンスがあります。

批判的思考を忘れない

データは嘘をつきません。しかし、解釈を間違える可能性はあります。常に「本当にそうか?」と問いかけましょう。

実践あるのみ

理論を学ぶことも大切ですが、実際にデータと向き合うことでしか得られない学びがあります。

ビジネスとの結びつきを意識する

どんなに興味深い発見でも、ビジネスに活かせなければ意味がありません。常に「So what?」(それでどうなの?)と問いかけましょう。

チームで学び合う

データ分析の醍醐味は、多様な視点からの気づきです。同僚と分析結果を共有し、議論することで、新たな発見が生まれるかもしれません。

今回のまとめ

今回は、「データ探偵入門:ビジネスパーソンのための3ステップEDA(探索的データ分析)」というお話しをしました。

ビジネスの世界で成功するには、データを味方につけることが不可欠です。

しかし、専門知識がなくても、誰でもデータ探偵になれるのです。

探索的データ分析(EDA)の基本を学び、日々の業務に活かす方法を紹介しました。

鍵となるのは3つのステップです。

  1. 具体的な質問を立てる
  2. データの全体像をつかむ
  3. 興味深い点を掘り下げる

この シンプル なアプローチを使えば、エクセルなどの身近なツールでも、データから 価値のある洞察を得ることができます。

予想外の発見や問題の早期発見、効果的な意思決定など、ビジネスに直結するメリットがたくさんあります。

データ探偵の旅は、好奇心と批判的思考から始まります。

この スキルを磨けば、多くの方と上手く協働でき、より深い分析も可能になるでしょう。

データ探偵として、ビジネスの謎解きを始めてみませんか?