第416話|小さなカフェの「売上データ」で実現した ムリ・ムダのないシフト作り

第416話|小さなカフェの「売上データ」で実現した ムリ・ムダのないシフト作り

また今日も、お昼のラッシュで大パニック…

夕方はガラガラなのに、人が余ってる?

パートさんから『シフトが不規則で困る』って言われちゃった…

駅前で24席のカフェ「おひさまコーヒー」を営む田中さん(仮名)は、毎日のシフト管理に頭を悩ませていました。

売上は順調なのに、なぜかスタッフみんな、なんか疲れている。

このままじゃいけない。でも、どうすれば?

そんな時、何気なく見ていたPOSレジのデータを見る画面に、思わぬ「発見」が。

えっ、火曜日の15時って、こんなに暇だったの!?

水曜日の朝は、意外と混んでる…

特別な分析ソフトも必要ありません。難しい計算も必要ありません。普段何気なく記録している売上データの中に、実は「シフト改善のヒント」が隠れていたのです。

今回は、私が中小企業診断士として支援した、小さなカフェが取り組んだ「データ活用」の事例を、できるだけ物語風でご紹介。

人手不足に悩む飲食店の皆様に、すぐに始められる改善のヒントをお伝えします。

うちみたいな小さな店でも、できるのかな…

そんな不安は無用です。田中さんも、最初は「データなんて」と思っていました。でも、始めてみたら意外と簡単。

しかも、こんな効果が……

  • 人件費率が35%→30%に改善
  • パートさんの定着率アップ
  • お客様の待ち時間が半減

データ分析の経験がなくても大丈夫。

売上の数字を「違う角度」で見てみるだけで、新しい発見があります。

きっかけは「人が足りない」の一言

田中さん、このシフトじゃ、もう限界です

ベテランパートの山田さんから、そう告げられたのは2023年の春のこと。

駅前のカフェ「おひさまコーヒー」を営む田中誠一さん(42歳)は、その言葉に胸が詰まりました。

確かに、このままじゃマズイ…

 お店の状況

【基本データ】
場所:東京都内の私鉄駅前
席数:24席(カウンター6席、テーブル18席)
営業時間:8:00-20:00
定休日:水曜日
スタッフ:社員2名、パート6名程度
客単価:850円

 抱えていた3つの課題

課題1:時間帯による波が激しい

【特に困っていた時間帯】
朝8:00-10:00:出勤客の波
昼11:30-14:00:ランチの大混雑
夕方17:30-18:30:帰宅客の波

一日の中でも、これだけ波があるんです。でも、その対応が後手後手に…」(パートさん談)

課題2:人員配置の難しさ

【シフトの課題】
・朝と夕方は1人体制
・昼休憩が取れない日も
・突然の欠勤に対応できない

昼休憩の時間帯、キッチンもホールも大パニック。でも、他の時間は暇だったり。この差が激しすぎるんです」(パートさん談)

課題3:スタッフの不満が増加

【よく聞かれた声】
・「シフトが不規則で生活が乱れる」
・「忙しい時は忙しすぎる」
・「暇な時間が苦痛」

 限界を感じていた日常

ある平日の様子です。

朝8時

状況:出勤客の列
人員:早番1名
結果:待ち時間15-20分

昼12時

状況:ランチピーク
人員:3名体制
結果:オーダーミス続出

午後3時

状況:閑散
人員:2名体制
結果:スタッフの持て余し時間

夕方6時

状況:帰宅客の来店
人員:遅番1名
結果:オーダーストップも

 転機は偶然から

課題は次々と表面化していきました。

  • 人件費:売上の35%を超過
  • 離職:半年で3名が退職
  • 評判:SNSで待ち時間の苦情

田中さんは振り返ります。

なんとなくシフトを組んで、忙しくなったら追加投入。暇になったら我慢。この場しのぎの対応を繰り返していました

ある日、閉店後の売上集計中、POSレジのデータを見る画面をぼんやり眺めていた田中さん。

あれ?火曜日の15時って、こんなに…

何気ない「気づき」が、改革の第一歩となります。

POSレジに眠る「お宝データ」

こんな情報が、ずっと目の前にあったなんて…

閉店後のカフェで、POSレジのデータを見る画面を見つめる田中さん。

毎日何気なく見ていた数字の中に、思わぬ発見がありました。

 データとの出会い

きっかけは、何気ない疑問からでした。

火曜日の午後、いつも暇だなぁ…

そう思ってPOSレジの売上データを見てみると…。

【火曜15時台の1時間データ】
来客数:平均4名
売上高:平均3,400円
客単価:850円

えっ、こんなに少ないの!?

普段はなんとなく「暇そう」と感じていた時間帯。

実際の数字を見ると、想像以上に客足が少ないことが分かりました。

 POSデータの基本

以下、POSレジのデータで確認できる基本情報です。

  • 時間帯別の売上
  • 商品別の販売数
  • 来客数の推移
  • 客単価の変化

 小さな工夫から

まずは簡単なことから始めました。

時間帯別の記録

日々の動きを数字で押さえることから始めました。記録は簡単なメモ程度から。初めは完璧を目指さず、続けることを重視しました。

【記録項目】
・1時間ごとの来客数
・売上金額
・客単価
・天気

気づきのメモ

数字だけでなく、現場の「感覚」も大切にしました。「感覚」を「記録」に残すことで、後から振り返った時のヒントになります。

【チェックポイント】
・特に混んだ時間
・待ち時間発生
・スタッフの忙しさ
・お客様の声

週単位での振り返り

1週間分のデータをもとに、短時間でポイントを確認。毎週月曜の朝15分、これだけの振り返りから始めました。

【確認事項】
・パターンの確認
・予想外の動き
・スタッフの意見
・改善アイデア

このような小さな一歩から、データ活用は始まりました。「とにかくやってみる」その積み重ねが、後の大きな改善につながっていったのです。

最初は面倒くさいと思いました。でも、自分の『感覚』が『数字』で確認できるようになって、仕事が楽しくなりましたね」(パート佐藤さん)

 見えてきた3つのパターン

時間帯による波

【平日の時間帯別来客数(1時間あたり)】
8-9時:18人
9-10時:12人
10-11時:8人
11-12時:15人
12-13時:32人 ←ピーク
13-14時:28人
14-15時:10人
15-16時:6人  ←最少
16-17時:9人
17-18時:16人
18-19時:14人
19-20時:8人

ランチタイムとそれ以外で、これほどの差が…」(田中店長)

曜日による違い

【曜日別の特徴】
月曜:朝が特に混む
火曜:午後が閑散
水曜:定休日
木曜:比較的安定
金曜:夕方が混む
土日:昼過ぎがピーク

曜日ごとに、こんなにはっきりとしたパターンが!」(田中店長)

天候の影響

【天気による変化】
晴れ:通常営業
雨 :来客数15%減
雪 :来客数30%減

 意外な発見も

データを見ていくと、私たちの「当たり前」が、実は思い込みだったことが分かってきました。

  「混んでる」の誤解

夕方はすごく忙しい!

そう感じていた17-18時台。確かに、バタバタとした雰囲気は否めません。

【体感と実態の差】
夕方17-18時
・体感:とても忙しい
・実態:1時間12名程度
※ランチタイムの3分の1

でも、実際の数字を見ると意外な事実が。来客数はランチタイムの3分の1程度なんです。

なぜ、これほど忙しく感じていたのか?

理由を探ってみると……

  • 1人勤務が多い時間帯
  • テイクアウトの注文が集中
  • レジ作業と接客が重なる
  • 商品の補充なども必要

つまり、お客様の数は多くないものの、1人当たりの作業量が多いことが「忙しさ」の正体でした。

  「暇」の再定義

この時間帯、いつも暇だよね…

スタッフの間で”持て余し時間“と呼ばれていた14-16時。

【閑散時間帯の活用】
14-16時
・従来:スタッフが持て余し時間
・発見:仕込み最適タイム

ところが、この時間帯こそ、実は「宝の時間」だったんです。

なぜなら……

  • お客様が少ないので集中作業が可能
  • 夕方の準備に最適な時間帯
  • スタッフ間の引き継ぎにもベストタイミング
  • 新メニューの練習もできる

  「効率」の新発見

時間帯による売上の違いも、想像以上でした。

【時間帯別の売上効率】
朝:客単価が低め(400円) → コーヒーとパンがメイン
昼:客単価が高め(1,200円) → ランチセットが人気
夕:客単価が中程度(800円) → スイーツとドリンクが中心

この発見から……

  • 朝:回転率重視の商品配置
  • 昼:セット商品の品揃え強化
  • 夕:テイクアウトメニューの充実

など、時間帯に合わせた戦略が見えてきました。

数字って、こんなことまで教えてくれるんですね

スタッフの一人がつぶやいた言葉が、印象的でした。

この「意外な発見」を活かすため、私たちは小さな工夫から始めることにしました…。

このように、データは私たちの「思い込み」を覆し、新しい視点を与えてくれました。

データを活用したシフト改革

まずは、これを見てください

月曜の朝礼で、田中さんがスタッフに見せたのは一枚の表でした。

 新しいシフト計画の始まり

この理想の人員配置表をもとに、本当にこれでいいのかを考えていきます。

 具体的な改善策:データから見えた「3つの改革」

時間帯別の適正人数

人が足りない」という声の裏には、時間帯によって全く異なる課題が隠れていました。

とにかく大変」という漠然とした悩みを、時間帯別に分解してみると、具体的な対策が見えてきました。

業務の再配分

売上データを基に、時間帯別の忙しさを「見える化」。それを基に業務を再設計しました。

シフトの組み方改革

データ分析から、「急な変更」にも対応できる柔軟なシフト体制の必要性が見えてきました。

以下、従来の問題点です。

  • 前月末に一括作成→直前の変更が困難
  • 急な変更が多発→代替要員が見つからない
  • スタッフの希望が反映されにくい→モチベーション低下

3段階シフト管理の仕組みを導入しました。

この新しい仕組みを導入してことで、次のようになりました。

  • スタッフの満足度向上
  • シフト調整の手間が減少
  • 緊急時の対応がスムーズに

 現場からの声と具体的な変化

山田さん(パート・5年目)の声です。

以前は『次は何をすれば…』と常に考えていて疲れていましたが、今は次の動きが明確で余裕を持って仕事ができます

以下、具体的な変化です。

【業務効率の向上】
・準備時間:30分短縮
・休憩取得率:65%→95%
・残業時間:月平均5時間減少

ただ、新たな課題も……

【実際に起きた事例】
・土曜の雨天時に予想以上の来客→近隣イベントの屋内移動による
・シフト確定後の体調不良続出→インフルエンザの流行
・季節メニュー投入時の人員不足→予想以上の人気による

変化の実感 〜数字と声が教える成功のポイント〜

 改善効果(定量的)

データに基づくシフト管理を始めて3ヶ月。数字に表れた変化は予想以上でした。

人件費は売上比35%から30%へと改善。月額にして約15万円の削減効果が出ました。これは、繁忙時間帯への適切な人員配置と、閑散時間帯の効率的な人員活用が功を奏した結果です。

特に大きな変化が見られたのは休憩取得率。65%から95%まで改善し、特にピーク時の休憩が確実に取れるようになりました。これは作業の優先順位付けと、シフト間の引き継ぎがスムーズになったことが要因です。

残業時間も一人あたり月平均15時間から10時間へと削減。早め早めの準備と効率的な時間配分により、5時間の削減を実現できました。

数字以上に大きな効果は、スタッフの「ゆとり」が生まれたこと。心に余裕ができたことで、接客の質も自然と向上していきました。

 想定以上の効果

スタッフの意識変化

佐藤さん(パート・2年目)の声です。

数字を意識するようになってから、自分なりに工夫するようになりました。例えば、天気予報をチェックして、雨の日は傘立ての準備を早めにするなど

【具体的な変化例】
・売上データの自主的な分析
・次回のシフトへの提案
・新メニューのアイデア提供

チーム全体の成長

田中店長の声です。

個々の意識が変わることで、チーム全体の雰囲気も良くなってきました。特に、スタッフ同士のフォロー体制が自然とできてきたのは大きな変化です

 成功のカギとなった情報共有の取り組み

データ活用の成功には、2つの重要な取り組みがありました。

情報共有の仕組み化

朝礼を15分間の「情報共有タイム」として再構築。売上目標(3分)、注意点(5分)、引き継ぎ(7分)と、時間を区切って実施しました。

長すぎず短すぎない15分という時間設定が、スタッフの集中力維持と記憶定着に効果的でした。特に、立ったままの気軽な雰囲気を大切にしたことで、全員が発言しやすい環境が生まれました。

スタッフ参加型の改善

みんなの都合を聞いて、定休日である毎週水曜の15時から1時間に定例ミーティングを実施(もちろん、時給を出します)。店に来なくても参加しやすいよう、オンラインでも参加可能な環境(ミーティングの様子を後で確認できるように録画)を整えました。

言いたいことがあるのに、どうしても出席できないスタッフのために、店舗内にボードを設置して事前に意見を書き込めるようにしました。

また、前回の改善案の効果確認を必ず行い、PDCAサイクルを回すことで、提案が実際の改善につながる実感を共有できました。

これらの取り組みにより、月平均15件の改善提案が集まり、そのうち約70%が実際に実施されています。形式的な会議ではなく、全員が参加する「対話の場」を作ることで、自然と改善のサイクルが回り始めました。

 今後の課題と対策案

改善の成果が見えてきた一方で、まだ取り組むべき課題も見えてきました。

大きな課題は「季節変動への対応」と「人材育成」の2点です。

季節変動については、特に夏季繁忙期の対応が急務です。7-8月は来客数が30%増加するため、人員を20%増やす計画を立てています。そのために、研修生の早期育成と応援体制の確立を進めています。また、突発的な雨天時の対応として、オンコール体制の整備と近隣店舗との協力体制も構築中です。

人材育成では、より長期的な視点での体制作りを目指しています。3ヶ月でスキル習得ができる新人研修プログラムを整備し、その後のマルチスキル習得計画へとつなげていきます。また、次世代のリーダー育成も平行して進め、持続可能な店舗運営を実現したいと考えています。

これらの課題に対しても、データを活用しながら、一つずつ解決していく予定です。

今回のまとめ

今回は、「小さなカフェの『売上データ』で実現した ムリ・ムダのないシフト作り」というお話しをしました。

人手不足」「シフト管理」の課題に対して、POSレジの売上データを活用した改善事例をご紹介しました。特別な分析ツールは使わず、普段何気なく記録している売上データを少し違う角度で見ることで、大きな改善につながりました。

実際に3ヶ月の取り組みで、人件費率が5%減少し、休憩取得率は95%まで改善。さらに、スタッフの自主性が高まり、チーム全体の雰囲気も大きく変わりました。

重要なのは、データはあくまでも「判断の道具」だということ。数字に振り回されるのではなく、現場の声に耳を傾けながら、バランスの取れた改善を進めることが成功のポイントでした。

小さな一歩から始めた取り組みが、結果として大きな変化をもたらした事例として、皆様の店舗運営のヒントになれば幸いです。