第36話|MA(マーケティング・オートメーション)ってどうよ! と聞かれて……

第36話|MA(マーケティング・オートメーション)ってどうよ! と聞かれて……

最近、MA(マーケティング・オートメーション)が流行しています。私の周りでも、とりあえず導入した企業も少なくありません。

MAにはオープンソースの無料で使えるMauticから、有料で高機能なMarketoまで、様々なものがあります。共通しているのは、デジタル・マーケティングの力を活用して営業効率をあげるということです。

しかし、多くの企業では、単なるメール配信ツール化している企業も少なくありません。メール配信だけであれば、従来からある、メール配信ツールだけで十分です。

MAは、何が嬉しいのか?

そもそもMA(マーケティング・オートメーション)とは何なのか。名前から推察する通り、マーケティング活動を完全自動化してくれるツールなのか。

ザックリ言うと、昔からあるOne to Oneマーケティングという個客対応の思想を、デジタル・コミュニケーションで実現したもの。とくに、新規顧客の開拓に強みを発揮しているようです。

ちなみに、デジタル・コミュニケーションとは、インターネット上の顧客接点で行われるコミュニケーションです。例えば、WebサイトメルマガSNSPDF資料のダウンロードなどです。

インターネット上にいる見込み顧客は、とくかく実態が掴みにくいです。顔が見えないからです。しかし、行動した軌跡だけは記録として残ります。例えば、Webサイトのアクセスログやメールの開封、クリック履歴、資料ダウンロードの有無、Webからの問い合わせ履歴などです。これは、デジタル・コミュニケーションの履歴でもあります。

デジタル・コミュニケーションで、自社顧客するためのマーケティング活動を半自動化するのが、MAです。あくまでも、半自動化であって完全自動化ではありません

MAツールを使ったことのある方は分かると思いますが、上手く使わないと、余計な作業工数ばかり増え大変な思いをします。MAツールで実現する効率化以上の作業コストが発生してしまうと、生産性という観点から考えると、良くはありません。

見込顧客はネットにいるアノニマス(匿名者)

多くの人は、高価なものほど時間をかけてインターネットで調べるようになりました。ビジネスの世界でも同様で、何かを仕入れたり購入したり導入したりするとき、とりあえずネットで調べることが多いと思います。

つまり、インターネット上には顔の見えない匿名の見込み顧客アノニマス)が、たくさんいます。

最初、インターネット上には顔の見えない匿名の見込み顧客アノニマス)の多くは、自社の商材を存在を知らないかもしれません。知っていても、興味も関心もないかもしれません。

ところが、そのような顔の見えない匿名の見込み顧客アノニマス)でも、自社のWebサイトの特定の商材ページを何度も閲覧し、PDFの資料をダウンロードし、メルマガも購読するようになっていれば、かなりの有望な見込み顧客と言えるでしょう。デジタル・コミュニケーションがになっている見込み顧客です。ホット・リードHot leads)と呼ばれます。

そのような有望な見込み顧客であるホット・リードHot leads)に対し、営業活動を仕掛けます。有望かどうか分からない見込み顧客に、営業を仕掛けるのに比べ、かなり営業効率はあがります。

これが、MAの最大のメリットです。つまり、営業パーソンの営業生産性を高める。ECサイトのようなものであれば、ECサイトそのものが営業パーソンを兼ねているため、ECサイトの販売効率が高めるということになるでしょう。

デジタル・コミュニケーションで、ホット・リードを生み出す

インターネット上の匿名の見込み顧客アノニマス)であるアノニマス・リードAnonymous leads)対し、半自動でデジタル・コミュニケーションを仕掛け、受注確度の高いホット・リードHot leads)に育て上げるのが、MAの最大のメリットです。

当然ですが、いきなりアノニマス・リードAnonymous leads)が、ホット・リードHot leads)になるわけではありません。多くの場合、間にコールド・リードCold leads)という段階が入ります。

コールド・リードCold leads)とは、氏素性が分かっている見込み顧客だが、受注確度が十分に高まっていない見込み顧客です。

先ずMAは、氏素性の分からないアノニマス・リードAnonymous leads)を氏素性の分かるリード見込顧客)であるコールド・リードCold leads)にすることを目指します。よくあるのが、WebサイトからPDFファイルのダウンロードや、問い合わせ、メール配信などです。

デジタルだけでなく、名刺交換やセミナー開催、イベント出展なども有効な手段です。名刺に記載されているメールアドレスに対し、お礼のメールを送り相手が開封するとMAツールに記録され、他のデジタル・コミュニケーションと連携されます。

次にMAツールは、コールド・リードCold leads)をホット・リードHot leads)にするデジタル・コミュニケーションを仕掛けていきます。

ジェネレーション(獲得)とナーチャリング(育成)

MAを使い、インターネット上の匿名の見込み顧客であるアノニマス・リードAnonymous leads)を氏素性の分かるリード見込顧客)であるコールド・リードCold leads)にすることを目指し、さらにコールド・リードCold leads)を受注確度の高いホット・リードHot leads)にすることを目指します。

アノニマス・リードAnonymous leads

コールド・リードCold leads

ホット・リードHot leads

営業活動

アノニマス・リードAnonymous leads)をコールド・リードCold leads)にするための活動を、リード・ジェネレーション見込顧客の獲得)と言います。

少なくとも氏素性だけでも明かしてもらえる程度に、自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)を開拓し増やす活動です。

MAツールを使わないリード・ジェネレーション見込顧客の獲得)の活動は、単に自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)を開拓し増やすだけです。例えば、テレビCMや新聞広告、電車の中刷り広告などです。問題は、誰がテレビCMや新聞広告、電車の中刷り広告などを見て、自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)になったのかが分からないことです。

MAツールを使うことで、単に自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)を開拓し増やすだけではなく、誰が自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)になったのかが分かるようになったのです。

誰が自社の商材に興味を持ち、顧客となる可能性のあるリード(見込顧客)になったのかが分かるため、受注確度が十分に高まるための活動がしやすくなります。

このような、コールド・リードCold leads)をホット・リードHot leads)にするためのデジタル・コミュニケーションを、リード・ナーチャリング見込顧客の育成)と言います。

MAに有効な商材とは?

MAを実施してみると分かりますが、安価な食品や消費財はMAに向きません

例えば、のどが渇いたのでコンビニでソフトドリンクを購入するとき、インターネットで時間をかけて調べ検討することが少ないからです。

要する、インターネットで時間をかけて調べ検討するような商材でないと、MAは有効ではないでしょう。

そのため、BtoB(法人相手)企業であれば、多くの場合MAが有効です。BtoC(一般消費者相手)企業であれば、自動車や不動産、フィットネスクラブの会員、家電、定期購入するサプリメント、高価な化粧品などであれば、有効だと思います。

要するに、その商材を購入するとき、インターネットで時間をかけて調べるような商材かどうかで、MAが有効かどうかが分かります。

インターネットで時間をかけて調べるような商材でないと、十分なデジタル・コミュニケーションをし、コールド・リードCold leads)をホット・リードHot leads)にするリード・ナーチャリング見込顧客の育成)ができないからです。

お勧めのMAツールは?

よくお勧めのMAツールはないか聞かれます。

手っ取り早く始めるなら、オープンソースのMAであるMauticです。無料で使えます。クラウド版オンプレミス版があります。

クラウド版は、数分もあれば設定が完了し、すぐにMAを始められます。MAで管理するリード件数が少ない(5,000件以下)のであれば、クラウドの無料版が使えるため、MAを試してみたい企業にとってはうってつけです。MAで管理するリード件数が多い場合には、有料版が用意されています。

オンプレミス版は、自社のWebサーバーなどにインストールして使います。AWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)などのクラウド上にも構築できます。月数千円の安価なレンタルサーバー上にも構築できます。Mauticを本格的に使うのであれば、オンプレミス版が良いでしょう。

Mauticは、オープンソースのMAであるため、進化のスピードも速く、そして無料で使えます。しかし、操作画面などは日本語化されていますが、マニュアルなどは英語が基本なのが難点です。

Mautic以上のことをするのでああれば、高価ですが高機能なMarketoが良いでしょう。

しかし、Mauticですら十分にビジネスに活かせてない企業は、Marketoをビジネスで活かせるとは思えません。

私の知っている企業のいくつかは、Marketoを導入したが、単なるメルマガ配信ツールになっています。Mauticでも、メルマガ配信は可能です。もちろん、それ以上のこともできます。

先ずは、無料で使えるMauticでMAでビジネス成果を出し、その成果を加速させるためにMarketoを導入を検討するのが、良いと思います。

データ分析で、マーケティング・オートメーションを最適化する

そして、忘れてならないのが、MauticでもMarketoでもデータ分析をすることで、マーケティング・オートメーションを最適化していきます。

MAツールを使用した人はわかると思いますが、MAツールを半自動化し営業効率を高めるためのキモとなるのが、スコアです。このスコアが高いリード(見込み顧客)を、受注確度の高いリード(見込み顧客)と判断するからです。

多くのMAツールは、Webサイトを3回以上訪問したら「10点」、Webサイトから資料をダウンロードしたら「20点」、Webサイトからセミナー参加の申し込みがあったら「30点」などと、リード(見込み顧客)の行動に応じてスコアを決めます。

MAにデータを溜まるまでは、何となくスコアを決めるのもよいかもしれません。しかし、何となく決めたスコアには、データの裏付けのない感覚値です。データが蓄積されたら、データ分析を実施し、科学的にスコアを決めましょう。

統計モデルを使えば、一発でスコアの配点を決めることができます。実は、このような分析はMA以前から積極的に実施されてきたため、色々な統計モデルが用意されています。

専門的な話になりますが、例えば、ダニエル・マクファーデン教授(2000年にノーベル経済学賞受賞)のノーベル賞を受賞理由の一つになった業績である、ロジット・モデルで十分でしょう。正則化つきロジット・モデルがお勧めです。