ある超大企業(部品メーカー)では、それこそ売上分析のためのツールが、わんさか導入されていました。BtoB(法人)向けのECサイトも立ち上げ、売上は好調です。
売上分析系のITツールでは、Webサイトのアクセス解析用のAdobe Analytics(昔のサイトカタリスト)、MA(マーケティングオートメーション)ツールが複数(高機能で高額なMarketoから低額のものまで)、メルマガ管理ツール、Web広告管理系のツール、DMP(データマネジメントプラットフォーム)、もちろんCRM(顧客関係管理システム)も導入済み。
これだけのツールを導入しているので、色々なデータが毎日のように集まってきます。さらに、外部からデータを購入し、データ量というかデータの種類が半端ない状況です。
これらのデータを使いこなしているのかと言えば、案の定使いこなしてはいません。恵まれていることに、専任の担当者が、それぞれのツールやシステムにいます。それでも、思うように活用できていない。
このように色々なツールが一通り揃っていますが、この企業で一番使われているのがExcel(エクセル)です。どちらかというと、各種のツールは専任の担当者の玩具化していました。
結局、売上分析の初心者も上級者も、結局Excel(エクセル)が大好きなのです。Excel(エクセル)レベルでデータ活用を実現させるのが、データ活用の一番の成功の早道かもしれません。
では、どのようにExcel(エクセル)レベルのデータ活用を実現させればよいのか。
いくつかのExcel(エクセル)レベルのデータ活用で上手くいった事例をもとに、説明させていただきます。売上分析がExcel(エクセル)レベルで実現し、より良いデータ分析活用があなたの会社で実現できれば幸いです。
Contents
Excel(エクセル)でできること
先ず、Excel(エクセル)でできることは何でしょうか。
売上分析の視点で言えば……
- データ加工
- 集計値(Excel関数で平均などを求める)
- クロス集計(ピボットテーブル)
- グラフ化
- 簡単な統計分析(分析ツールで回帰モデルや統計検定などをする)
- 回帰型の統計モデル(ソルバーで構築できる)
- 予算の最適化など(ソルバーで求められる)
……などなど。
実は、Excel(エクセル)って色々なことができます。やろうと思えば、多くの統計モデルを構築することすらできます。今流行りのディープラーニング(ニューラルネットワーク)だって、できます。
Excel VBAでプログラムを組めば、いくらでも機能を拡張できます。Excel統計というアドインツールすら発売されているぐらいですから、拡張しようと思えば、かなり拡張できるのです。
Excel(エクセル)自体は有料ですが、どこの企業にも必ずあり、誰もが一度は使ったことがあるため、非常に身近で馴染みが深い分析環境でありツールです。
大手企業には一人や二人、ものすごいExcel(エクセル)の達人が必ずいるぐらいです。
そして、ものすごいExcel(エクセル)って、ものすごいデータ分析者だったりします。SASやSPSSなどの高度な分析ツールも扱えるし、Excel(エクセル)もものすごく扱えるということです。そして、RやPythonなどのフリーの分析ツールもきっちりマスターし使えたりします。
Excel(エクセル)で、どうやって「潜在クラスモデル」を「ブートストラップ」で推定しているのですか? と聞かれて……
私は、ものすごいExcel(エクセル)の達人ではありませんが、分析で使うローデータがどんなものか確認するときや、分析後の結果を加工しまとめグラフ化するとき、Excel(エクセル)を使います。
企業のエライ人向けのパワポのグラフは、ほぼExcel(エクセル)作り貼り付けています。パワポなどのレポート作業と、Excel(エクセル)の分析結果の集計作業やグラフ化作業時間は、比例するぐらいです。
昔、あるコンサルティング会社にいたときです。
若手のコンサルタントから……
「Excel(エクセル)で、どうやって『潜在クラスモデル』を『ブートストラップ』で推定しているのですか?」
……と聞かれたことがあります。
潜在クラスモデルやブートストラップが何かを、ここでは説明しませんが、少なくともExcel(エクセル)で簡単にできるものではありません。やろうと思えばやれるかもしれませんが、かなりExcel VBAで作りこむ必要があるでしょう。
もちろん、私はExcel(エクセル)で『潜在クラスモデル』も『ブートストラップ』も実施していません。SPSSという分析ツールを使い、分析していました。
若手のコンサルタントから見ると、私がいつもパワポとExcel(エクセル)しかPCで開いていないので、すべての業務をこの2つソフトだけで実施しているように、見えていたようです。
私は、どちらかと言えば、売上分析の上級者(自称)ですが、結局Excel(エクセル)の使用率が高いです。
Excel(エクセル)を上手く使うと、データ活用が上手くいく
分析の流れを残し共有するために、先ほどのSPSSのシンタックス(SPSSの命令文を羅列したもの)や、フリーの分析ツールであるRのスクリプト(Rの命令文を羅列したもの)だと、多くの人は嫌がります。
しかし、Excel(エクセル)だと喜ばれます。正確には、喜ばれるというよりも安心されます。
Excel(エクセル)でも、十分ややこしいのですが、それでもExcel(エクセル)の方がよいという企業や個人が少なくなりません。
Excel(エクセル)の、圧倒的な心理的な壁の低さを上手く使えば、企業内のデータ活用も上手くいくのではないかと思います。
ある企業の、次のような取り組みをしました。
- すべての分析をExcel(エクセル)経由で管理する
- Excel(エクセル)は、基本4つのシートで構成する
- IPOシート(基本1シート)
- Iシート(複数シートになる場合あり)
- Pシート(複数シートになる場合あり)
- Oシート(複数シートになる場合あり)
IPOシートの「IPO」とは、ビジネスプロセスなどでお馴染みの、「Input-Process-Output」のことです。「分析の流れ」つまり「分析プロセス」を、「Input-Process-Output」で表現してあるシートです。
「Input」はProcessで使う入力データ、「Process」は加工・集計・分析などの処理、「Output」はProcessから生まれた結果である出力データです。
例えば、A列に「Input」、B列に「Process」、C列に「Output」、D列に「備考など」としています。このような表であれば、Excel(エクセル)でなくてもできますが、あえてExcel(エクセル)を使います。
次に「Iシート」「Pシート」「Oシート」の説明をします。
「Iシート」には入力データのサンプルとその意味、「Pシート」は処理の手順の説明、「Oシート」には出力データのサンプルと読み方が記載されています。
「Iシート」「Pシート」「Oシート」は、IPOの数だけ作ります。
簡単なイメージ例(因子分析→クラスター分析)
例えば、昔からある分析として、顧客のクラスター分析というものがあります。クラスター分析をする前に、クラスター分析で使うデータ同志の相関を小さくするために、よく因子分析をします。
この場合、因子分析で1つのIPOを作り、因子分析の「Output」を「Input」にしたクラスター分析でもう一つIPOを作ります。
因子分析のIPO例:
- Input 購買データ
- Process 因子分析(主因子法・直交回転)
- Output 因子分析結果(顧客ごとの因子得点)
クラスター分析のIPO例:
- Input 因子分析結果(顧客ごとの因子得点)
- Process 階層型クラスター分析(ウォード法)
- Output クラスター分析結果
ちょっとしたヒミツ
実は、「Pシート」に書かれている処理は、Excel(エクセル)以外の分析ツールも登場します。RやPythonなどの分析ツールが登場してくる場合が、あるということです。
面倒なことをしているな…… と思われますが。それでも、この企業ではデータ活用が広まり、RやPythonなどの分析ツールを使える人財も増えていきました。
そして、この企業だけではありません。幾つかの企業で、同じような現象を目の当たりにしました。
RやPython、SAS、SPSSなどの分析ツールがいきなり登場するよりも、分析の入り口にExcel(エクセル)があるだけで、心の障壁がだいぶ低くなるのです。
そして、Excel(エクセル)の商用のアドインツールだけで実現できるのであれば、そちらの方が喜ばれます。世の中恐ろしいことに、便利な商用のExcel(エクセル)アドインツールが山のようにあります。
さらに、Excel(エクセル)からフリーの分析ツールであるRを使うという技術もあります。RExcelというものです。正直言って、Rで直接分析した方が私には楽に感じられますが、ものすごく興味を持つ方が多いです。それぐらい、Excel(エクセル)の心理的壁を弱める力はすごいのです。
結局のところ、みんなExcel(エクセル)が大好きなんだと、思わずにはいられません。
心の壁が低くなる以外の理由
Excel(エクセル)を上手く絡めることで、なぜかデータ分析とその活用が好転する。なぜでしょうか。
今までお話ししたように、Excel(エクセル)を上手く絡めることで、データ分析に対し心の障壁が低くなり、心の余裕が生まれ、データ分析結果の解釈やその活用まで頭が回り、良い方向に行くのだと思います。
それだけではないようです。実際に、どのようなことをしているのかをExcel(エクセル)を見せて頂いたり、ヒアリングしたことがあります。
Excel(エクセル)の「Iシート」(入力データ例と意味)と「Oシート」(出力データ例と解釈)が、意外と効いているなとなと感じました。ただ単に、心の障壁を低くするだけでなく、Excel(エクセル)そのものがガッツリ活用されていたのです。
データ分析を使う現場で、分析そのもので試行錯誤したり、分析結果を解釈するとき、「Iシート」(入力データ例と意味)と「Oシート」(出力データ例と解釈)を、ものすごく活用しているのです。
その気になれば、データ分析作業をしていない人でも、Excel(エクセル)の「Pシート」(加工・集計・分析)通りに実施すれば、「Oシート」(出力データ例と解釈)を出せます。
ある企業様では、Pythonで基本的な分析プロセスを自動化し、Excel(エクセル)の「Oシート」を自動で出力させるようにしていました。実際は、CSVファイルというExcel(エクセル)で開けるファイル形式ですが。もちろん、「Iシート」(入力データ例と意味)と同じものがCSVファイルとして保存されています。
データ分析結果を活用する側が気になった時に、Excel(エクセル)の「Iシート」(入力データ例と意味)と「Oシート」(出力データ例と解釈)をいつでも見て確認できる状態にしてあるということです。そして、その意味や解釈の仕方などがサンプルとしてExcel(エクセル)の「Iシート」(入力データ例と意味)と「Oシート」(出力データ例と解釈)にあるので、ガッツリ見ていたのです。
少なくとも、データ活用の促すのに、Excel(エクセル)が非常に役に立っているということです。
今回のまとめ
今回は、Excel(エクセル)レベルでデータ活用を実現させるのが、ビジネス上でデータ活用するとき、一番の成功の早道かもしれないという話しをしました。
結局、売上分析の初心者も上級者も、結局Excel(エクセル)が大好きなので、結構使います。
レベルでツールを分けるのではなく、売上分析の初心者も上級者も大好きなExcel(エクセル)を入り口にすることで、社内のデータ活用が上手くいきます。
社内のデータ活用が上手くいっていないようでしたら、今さらExcel(エクセル)レベルのデータ活用なんて低レベルだ! と言わずに一度試してみてください。Excel(エクセル)レベルのデータ活用すらできないのに、高機能で高価な分析ツールなんて使いこなせないと、私は感じています。
ここでいう使いこなすとは、「単にデータ分析ができます」ということではなく、「データ分析を活用して、具体的なビジネス成果を得る」ということです。
どんなに素晴らしいツールで、どんなに素晴らしい分析をしても、企業活動としてデータ分析をするのならば、ビジネス成果につながらなけば無意味です。単なる、ツール代と工数(人件費)とデータ維持費の垂れ流しです。
売上分析が上手くいっていないようでしたら、ぜひ、Excel(エクセル)レベルで売上分析を実現させ、今まで以上のビジネス成果を得て頂ければと思います。