「ビッグデータ活用が、上手くいかない……」
オバマ前大統領時代の米政府によるビッグデータ・イニシアティブ(Big Data Research and Development Initiative)以来、ビッグデータが一つのキーワードになっています。
わたしの印象では、ここ5年間でデータ活用に向けたIT投資が非常に進んだ印象があります。
例えば、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールの導入や、CRM(顧客管理システム)の普及、MA(マーケティング・オートメーション)の発展など、営業・販売促進周辺だけでも、様々なIT投資がなされているようです。
データは増えて、汚く溜まるだけ
ビッグデータというキーワードとともに、ただただデータを蓄積する企業が増えたような気がします。
「とりあえず、データを溜めておけばよい」、「あとで、どのようにデータを料理するのかを考えればよい」、「溜めないぐらいなら、溜めておいた方がよい」という感じで、どんどん蓄積していく。
しかし、多くの場合、ただ蓄積したデータは、そのままでは使い物になりません。その一番いい例がCRMのデータです。
セールスフォース・ドットコム社の安価なクラウド上のCRMの普及もあり、今やCRMは大企業だけでなく中小企業、さらには個人事業主まで使っている人がいる時代です。安いライセンスだと、1ユーザ数千円~1万円/月ぐらいです。
私は過去に、色々な企業のCRMデータを見てきました。ハッキリ言ってしまうと、「このままではデータ分析では使えないぐらい汚いデータ」がほとんどです。データは後から綺麗にする手段はありますが、ちょっと手間暇がかかります。
何を言いたいかと言いますと、重要性を意識せずにただ溜めたデータの多くは、「データ分析では使えないぐらい汚いデータ」になるということです。実際データを蓄積する段階で、これから蓄積するデータがどれほど重要なのかを意識することは、非常に重要です。その意識があるかないかで、蓄積されたデータが「綺麗」なのか「汚い」のかが決まるぐらいです。
例えば、受発注に関するデータを、正しく入力する人がほとんどです。なぜならば、正しく入力しないと、取引先に迷惑を掛けますし、営業職であれば自分の成績を左右しますし、会社のことを考えれば決算や財務諸表に影響を及ぼすことが、ほとんどの人が分かっているからです。要するに、多くの人が受発注に関するデータの重要性を意識しているからこそ、多くの人は受発注に関するデータを正しく入力しようと意識するのです。
つまり、データの重要性を意識しないことには、綺麗なデータは溜まらず、データ分析で使えない汚いデータが溜まり続けることになるのです。
これでは、ビッグデータどころかリトルデータ活用すらままなりません。
「見える化」という怖い合言葉
ここ数年、「見える化」という合言葉で、データ蓄積を進める企業を、何社か見たことがあります。
非常に「ヤバい」兆候です。「見える化」という合言葉で、データ蓄積を推し進めた多くの企業は、今も昔もデータ活用で失敗します。
確かに、データを蓄積することのメリットの一つに「見える化」があります。しかし、「見える化」しただけでは何も起こりません。何かを目の当たりにしたぐらいでは、人は動きません。どうせやるなら、「見える化」ではなく「動ける化」でなくてはなりません。
データ活用が上手くいくケースとして、活用イメージをもっているかどうかという点が、非常に重要になってきます。活用イメージがあって初めて、今蓄積しているデータだけで十分なのかどうか、どのようなデータが足りないのかが分かるからです。
多くの企業では、「見える化された状態」をデータ活用イメージととらえているケースは少ないと思います。しかし、「見える化」の先の活用イメージが不透明なために、実際にデータを蓄積する段階で、いつの間にか「見える化された状態」が活用イメージに入れ替わっているのです。
要するに、蓄積したデータを「レポート」や「ダッシュボード」という形で「見える化された状態」で、ひと段落してしまうのです。
先ほども言いましたが、データが「見える化」したどころで、何も始まりません。なぜならば、「レポート」や「ダッシュボード」などを眺めても、現場の人間が何をすればよいのかが分からないからです。
最も重要なのが、「レポート」や「ダッシュボード」などを通して蓄積したデータを見て、方向性を定めて、やりべきことを決定し、そして実行することです。
つまり、次のデータを見る(Observe)以降の流れが欠けているのです。
- データを見る(Observe)
- 方向性を定める(Orient)
- やるべきことを決定する(Decide)
- 実行する(Action)
恐らく、この4つ流れ(OODAループ)に沿って、具体的にどのように動き、具体的にどのようなメリットがあるのかがイメージされれば、データの重要性が意識してくるようになるのではないでしょうか。
データ活用のOODAループ
米軍では、PDS(Plan-Do-See)サイクルと言われている運用サイクルを主に利用してきました。日本で浸透しているPDCA(Plan-Do-Check-Act)とほぼ同じものです。
近年、敵地で破壊工作などを少数で行うゲリコマ(ゲリラコマンド)で代表されるように、戦闘が本部主導の消耗戦から、現場主導の駆動戦へと変化しました。このような中、本部主導のPDSサイクルでは、現場主導の駆動戦に対応できるほどのスピード感がありません。
そのような中、OODA(Observe-Orient-Decide-Action)ループが登場しました。OODAループの特徴は、環境変化の激しい駆動戦に対応できるほどのスピード感があるということです。なぜならば、PDSサイクルは本部主導の運用サイクルですが、OODAループは現場主導の運用サイクルだらかです。
本部から与えられたミッションに対し、現場でOODAループを回しながら、そのミッションを達成するために、現場が自ら考え動きます。
このOODAループの、「Observe(観測)」がまさに「レポート」や「ダッシュボード」などを通して蓄積したデータを見ること、つまり「見える化」に相当します。
そしてその後に、Orient(方向付け)し、Decide(やることの決定)をし、そしてAction(実行)するのです。
「見える化」の後のOrient(方向付け)、Decide(やることの決定)、Action(実行)が抜けていると、ビッグデータ活用どころか、リトルデータ活用すらできないでしょう。では、具体的にどのようにOrient(方向付け)し、Decide(やることの決定)するのでしょうか。そもそも、Observe(観測)で見るべき指標とは何でしょうか。
OODAループに関しては、別の機会にお話しいたします。現場でデータ活用するのきの肝になりますので、知っていて損はないです。
ちなみに、会社全体や事業部、部などの大きな組織単位のでは従来のPDSサイクル、係やグループ、個人などの小さな単位ではOODAループ、という使い分けです。データ活用では、PDSサイクル(もしくはPDCAサイクル)もOODAループも重要ですが、多くの場合、OODAループが抜けています。
つまり、OODAを実現できると、データ活用は上手く回りだします。