第29話|指標を制する者がデータ分析を制する

第29話|指標を制する者がデータ分析を制する

蓄積されたデータを活用しろ!」といわれたら、多くの人が最初にやることといえば、恐らく手元にあるデータを何かしら集計し、とりあえず数字を眺めることでしょう。

この何気なく見ている数字が「指標(KPIなど)」であり、定期的に指標を見ることを「モニタリング」といいます。そして、多くの人はモニタリングするとき、指標の推移を折れ線グラフや棒グラフなどで表現します。

つまり、蓄積したデータから作った指標(KPIなど)をモニタリングすることが、ビジネスにおけるデータ活用の第一歩です。そこから、その先にあるデータ分析に進み、具体的なアクションへとつなげていくのです。

この「今週の小ばなし」でも何度か説明している、データ活用の実践サイクルである「OODA(Observe-Orient-Decide-Action、観察-方向付け-決定-行動)ループ」でも、このような指標(KPIなど)のモニタリングを、O(Observe、観察)の中で最初に実施します。

なぜ、指標がデータ分析の「キー」になるのか?

指標(KPIなど)は1つだけとは限らず、多くの場合、複数の指標(KPIなど)をモニタリングすることになるでしょう。

そのため、指標(KPIなど)間の関係を押さえておく必要があります。以下のようなツリー状で、指標(KPIなど)間の関係を表したりします。

例えば、ビジネス上重要な利益である「営業利益」を出発点にしてツリーを作っていきます。営業利益は、限界利益から固定費を引き算することで求まります。限界利益は、売上高から変動費を引くことで求まります。

このように、指標(KPIなど)をツリー状で表現したものを「指標ツリー」と呼んだりします。

蓄積すべきデータ

指標が設計されると、どのようなデータを蓄積すべきかが見えてきます。

蓄積すべきデータには2種類あります。「指標(KPIなど)を作るのに必要なデータ」と「指標(KPIなど)に影響を与えそうなデータ」です。

例えば、小売店の「日販」(1日あたりの販売額)という指標を作るには、日々の売上データを蓄積する必要です。この日の売上データが「指標(KPIなど)を作るのに必要なデータ」です。さらに、売上金額に影響を与えるであろうチラシや天候などのデータも蓄積しておいたほうがよいでしょう。このチラシや天候などのデータが「指標(KPIなど)に影響を与えそうなデータ」です。

しかし、「蓄積すべきデータ」がすべて蓄積されているケースは少ないことでしょう。まだ蓄積されていないデータが、「これから蓄積すべきデータ」です。

当面は、「今すぐ使えるデータ」だけで指標を作りデータ分析を進めることになります。

「アクション」に導けないといけない

ビジネス上のデータ活用は、単に指標をモニタリングし分析をするだけでは意味がありません。最終的に、利益などのビジネス成果につながる「アクション」に導けないといけません。

指標(KPIなど)の良し悪しは、ビジネス成果につながるアクションを導けるかどうかで決まります。

つまり、「よい指標(KPIなど)」が設計されれば、蓄積すべきデータが分かるだけでなく、その指標をモニタリングすることで、ビジネス成果につながるアクションを導くことができるのです。

要するに、「指標(KPIなど)」はビジネスにおけるデータ活用の「要」になっています。

では、「よい指標(KPIなど)」とはどのような指標なのでしょうか。どのような条件を満たせば「よい指標(KPIなど)」をいえるのでしょうか。

成果の出るビジネス指標の5つの条件SMART

ビジネスで使う指標(KPIなど)に求められる、SMARTと呼ばれる「5つの条件」があります。

  • ① Specific:具体的な「アクション」との結びつきが明確である
  • ② Measurable:測定可能で「定量的」に数字で表現される
  • ③ Achievable:達成可能な「目標値」が定められている
  • ④ Relevant:利益などの「ビジネス成果と関連」している
  • ⑤ Time:目標達成までの「期限」が決められている

簡単にいうと、「ビジネス成果につながるアクションを導き出せる、定量的に計測された指標(目標値と期限がある)」ということです。

この5つです。この条件を満たす指標(KPIなど)を設計できれば、「よい指標(KPIなど)」といえることでしょう。

多くの場合、②(定量的である)と③(目標値がある)と⑤(期限がある)は満たされています。なぜならば、指標(KPIなど)なので「定量的」に表現されているであろうし、ビジネスで使う指標(KPIなど)は「目標値」と「期限」は計画されているからです。

問題になるのは、①(具体的なアクションとの結びつき)と④(収益などの成果との関連)です。データ活用上うまくいっていない指標(KPIなど)の多くが、①か④のどちらかが欠けています。どちらかが欠けていると、ビジネス成果につながるアクションを導くことができません。

では、どちらかが欠けているを、どのようにすれば確認できるのでしょうか。

簡単に確認する方法

①か④が欠けているかどうかを、簡単に確認する方法があります。

例えば、①(具体的なアクションとの結びつき)が欠けているかどうかを確認するために、「その指標(KPIなど)は、何のアクションの結果なのか?」や「その指標(KPIなど)から、どのようなアクションが導き出せるのか?」と問いただしてみればよいでしょう。

この問に答えられなければ、恐らく具体的なアクションとの結びつきが弱いです。

例えば、④(収益などの成果との関連)が欠けているかどうかを確認するために、「その指標(KPIなど)を変化させることで、いくら儲かるのか?」や「その指標(KPIなど)を変化さえることで、コストはどのぐらい削減できるのか?」、「その指標(KPIなど)を変化さえることで、どのぐらい効率化できるのか?」と問うてみればよいでしょう。

どの問いにも答えられなければ、恐らくビジネス成果との関連性が弱いです。

では、①か④のどちらかが欠けていることが分かったら、何をすればよいのでしょうか。

簡単にいうと、①(具体的なアクションとの結びつき)が欠けていれば、具体的なアクションが見えるまで指標を細分化すればよいでしょう。④(収益などの成果との関連)が欠けていれば、管理会計の視点で指標を再設計すればよいでしょう。

要するに、指標を設計もしくは再設計するとき、管理会計の視点で指標設計を開始し、具体的なアクションが見えるまで細分化していけば、①と④を満たすことができるのです。

具体的にどのようにして設計していくのかは、別の機会にお話しいたします。