今年の春ごろ、データ分析系の講座で、OODAループの話しをしました。私は、「データのビジネス活用で上手くいきたいならOODAループを回せ!」ということを、その講座の中で申しました。
もともと、私は国で安全保障系のデータ分析をしていたので、OODAループは身近だったのですが、一般のビジネスの世界では、あまり馴染みのないもののようです。
その後、受講生の中の熱心な方から、次のような質問をメールで受けました。
「OODAループを色々調べていたのですが、
『PDCAサイクルは時代遅れで、OODAループの時代だ!』
『PDCAは古く、OODAループが新しいやり方だ!』
『PDCAを捨て、OODAに移行しないとダメだ!』
ということで、正しいですか?」
私は正直驚きました。PDCAサイクルなどのマネジメント・サイクルと、OODAループなどのオペレーショナル・サイクルは全く違うものだからです。
データ活用にとって、マネジメント・サイクルとオペレーション・サイクルの適切なコラボレーションは必要です。どちらかが欠けると、データ活用が上手くいかない可能性が高くなります。
今回は、PDCAサイクルとOODAループの根本的な違いについてお話しいたします。
PDCAサイクルの復習
ある程度、ビジネス経験のある方であれば、PDCAサイクルは非常に馴染みの深いものでしょう。PDCAサイクルは、マネジメント・サイクルの1つで、仕事を進めるうえで非常に便利なツールです。
- P(Plan、計画)
- D(Do、実行)
- C(Check、評価)
- A(Act、改善)
簡単に復習します。
P(Plan、計画)で計画を作り、D(Do、実行)で計画に沿って実行します。D(Do、実行)した結果を、C(Check、評価)で振り返り、問題があればA(Act、改善)で改善します。それを繰り返すだけです。
多くの方は、何気なく日常生活の中で実施していることでしょう。
例えば、受験勉強。P(Plan、計画)で学習計画を作り、D(Do、実行)で日々勉強をし、C(Check、評価)でその勉強の成果を模擬テストなどで評価します。問題があれば、A(Act、改善)で勉強のやり方を変えたり、学習計画を見直したり、志望校を変えたりします。
このように、多くの人は子供のころから何気なくPDCAサイクルを回しています。
PDCAサイクルは、マネジメント・サイクルの1つで、ものごとを管理するためのサイクルです。「管理」というところに焦点を置いています。「実行(Operation)」ではなく「管理(Management)」です。
ちなみに、マネジメント・サイクルには他にも色々あります。私がよく使うのが、PDSサイクル(Plan-Do-See)です。イメージとしては、PDCAサイクルのCheckとActがSeeに該当します。
OODAループとは何?
軍事行動をオペレーション(Operation)と言います。オペレーション(Operation)を管理するのが、マネジメント(Management)です。OODAループはオペレーション(Operation)に該当し、PDCAサイクルはマネジメント(Management)に該当します。
要するに、PDCAサイクルとOODAループは全く別物で、どっちが優れているとか、どちらに移行すべきとか、そういう議論は、おかしなことになります。
OODAループは以下の4つからなります。
- O(Observe、観測)
- O(Orient、方向付け)
- D(Decide、評価決定)
- A(Act、実行)
O(Observe、観測)で、起こっていることを観測します。データを使う場合には、指標のモニタリングになります。観測した結果、何か問題があれば、その問題の要因を考えます。ちなみに、O(Observe、観測)はあくまでも過去の話しで、未来のことについては何も語りません。
O(Orient、方向付け)で、未来を考えます。そのまま、今まで通りに実行するとどうなるのか? とか、問題が起こっているので、対策したらどうなるのか? などです。現在から未来に向けた方向性を考えます。
D(Decide、評価決定)で、何をやるのかを決断します。今まで通り実行するのか? 問題を解決するために別の何かを実行するのか? などです。
A(Act、実行)では、D(Decide、評価決定)で決めたことをただ実行するだけです。このとき、データなどの情報を収集されます。
このように、OODAループは、現場の人が動くためのオペレーション・サイクル(Operational Cycle)です。再度言いますが、PDCAサイクルは、マネジメント・サイクル(Management Cycle)であって、オペレーション・サイクル(Operational Cycle)ではありません。
そのため、ビジネス・プロセス(業務プロセス)という視点でも全く異なります。PDCAサイクルはマネジメント・プロセス(Management Process)であり、OODAループはオペレーション・プロセス(Operational Process)です。
OODAループも多くの方は、何気なく日常生活の中で実施していることでしょう。
例えば、受験勉強。PDCAサイクルのP(Plan、計画)で学習計画を作り、D(Do、実行)で勉強する。このD(Do、実行)で、先ず1日の学習時間や覚えた英単語数、問題集の進捗などが問題がないかどうかを確認します。O(Observe、観測)です。
もし問題があれば、今後に向けて対策を考えます。それが、O(Orient、方向付け)です。覚えるべき英単語数に問題があるとすれば、「覚える英単語数を減らす」「学習時間を増やす」「お風呂などの空き時間を活用する」「そのまま対策を打たず進める」などが対策案です。
その対策案の中から、実際に実行するのを選ぶのが、D(Decide、評価決定)です。これ以上学習時間を増やすのは無理だから「学習時間を増やす」という案は却下しよう、受験勉強を始めたばかりだから様子見のために「そのまま対策を打たず進める」でしばらくいこう、などと評価検討し決めていきます。
OODAループの結果を、PDCAサイクルのC(Check、評価)で振り返り、問題があればA(Act、改善)で改善します。
このように、多くの人は子供のころから何気なく、OODAループを実施しています。
私が、PDSサイクルを好む理由
OODAループはオペレーション(Operation)に該当し、PDCAサイクルはマネジメント(Management)に該当します。
つまり、OODAループとは、オペレーション(Operation)のためのサイクルで、PDCAサイクルのD(Do、実行)に該当します。D(Do、実行)を詳細化したものと捉えてもよいでしょう。
ここで1つ問題が起こります。
OODAループとPDCAサイクルに「A(Act)」という単語がでてくるのです。意味は全く違います。OODAループの「A(Act)」は「実行」を意味し、PDCAサイクルの「A(Act)」は「改善」を意味します。非常に紛らわしいことです。
PDCAサイクルの代わりに、PDSサイクルと使うとどうでしょうか? 「A(Act)」という単語が出てきません。私が、PDSサイクルを好んで使う理由です。
そのため、ビジネスデータを使い営業生産性や販促効率を高めるセールスアナリティクスを実現するときに使うツールとして、弊社では、マネジメント・サイクルとしてPDSサイクル、オペレーション・サイクルとしてOODAループを推奨しています。
今回のまとめ
最近、OODAループというツールに注目される方が増えています。
安全保障系の分野では、昔からあるオペレーション・サイクルの1つです。オペレーションとは、実際の軍事行動のことを意味します。例えばビジネスであれば、現場の営業パーソンの日々の営業活動や、現場のマーケターの日々の販促活動などです。
現場の営業活動や販促活動などを管理するツールとして、例えばPDCAサイクルが従来からあります。
このような中、「PDCAサイクルは時代遅れで、OODAループの時代だ!」「PDCAは古く、OODAループが新しいやり方だ!」「PDCAを捨て、OODAに移行しないとダメだ!」という風潮もあるそうですが、そもそもPDCAサイクルとOODAループは全く別物です。
OODAループはオペレーション(Operation)に該当し、PDCAサイクルはマネジメント(Management)に該当するからです。
現場が動くためのOODAループ、それを管理するためのPDCAサイクルといった感じになります。
あなたが、マネジメント・サイクルとオペレーション・サイクルの適切なコラボレーションで、データ活用が上手くいくことを願っています。