企業規模があまり大きくない経営者から、よく次のようなこと言われます。
「うちのような中小企業、分析するほどデータがないんだよね……」
私の経験上、企業規模が小さいほどデータ活用のスピードが速く、成果に繋がりやすい。「データ分析やそのデータ活用は、大企業が実施することであり、中小企業には関係ない」と、思っているかたも少なくありません。
ある程度の企業年数があれば、データ蓄積量ゼロということはありません。個人商店でさえ、レジスターを通して販売データが蓄積されています。営業活動であれば、売上伝票の明細データであれば、多くの企業に蓄積されているはずです。
そして、次のようなことも、よく言われます。
「うちのような中小企業、分析できる人財なんていないよ……」
取引履歴である売上伝票の明細データがあったとしても、分析する人がいないというのです。
データ分析自体は、それほど難しいものではありません。簡単にやろうと思えば、いくらでも簡単にできますし、難しくやろうと思えば、いくらでも難しくできます。難しい分析手法が、実務上優れているわけでもありません。
難しいのは、「データ分析すること」ではなく、そのデータ分析を「実務に活かすこと」です。
データ分析をどのように活かすのかは、その企業の現場の人でないと見えてきません。外部のデータ分析者では限界があります。内部に専任のデータ分析者がいても、限界があります。現場の営業パーソンやマーケター、もしくは、すぐ近くにいる人が、自ら分析できるよういなるのが理想です。
今回は、そこそこの社歴があれば、おそらくどのような企業にもあるであろう「売上伝票の明細データ」を使い、営業データの分析力のトレーニングをしつつ、業績もあげていこう! というお話しになります。
売上伝票の明細データ
取引履歴である売上伝票の明細データ、どのようなことがわかりでしょうか。もちろん企業によって異なりますが、例えば以下の点は分かることでしょう。
- 販売年月日
- 営業部門
- 営業担当
- 顧客名
- 商品名
- 売上額
- 単価
- 原価
- 点数
などなど。
つまり、
- いつ(販売年月日)
- 誰が(営業担当)
- 誰に(顧客名)
- 何を(商品名)
- どのくらい(点数)
- いくらで(売上額)
が分かります。
もう少しまとめると、
- 顧客
- 営業担当
- 商品
の軸で、
- 売上 or 粗利
が時系列で分かります。
もっとも簡単な営業データ分析は、顧客・営業担当・商品の3つの軸で、売上(or 粗利)のデータ分析をしていくことです。
営業データ分析の「タテ」と「ヨコ」
取引履歴である売上伝票の明細データは、時系列のデータです。時系列のデータには、「タテ」と「ヨコ」の分析があります。
- 「ヨコ」のデータ分析 … 時間の流れに沿ったデータ(タイムシリーズ)の分析
- 「タテ」のデータ分析 … ある時期のデータ(クロスセクション)の分析
例えば、商品ごとに売上額を時系列でモニタリングするとき、そのデータはタイムシリーズなデータです。
例えば、昨年1年間の商品の売上データを使い商品間の併売状況を分析するとき、そのデータはクロスセクションなデータです。
データ分析上、どちらの視点(「タテ」or「ヨコ」)かどうかを意識することは、非常に重要です。分析から見えてくることが、異なるからです。
例えば、2つの商品の月別の売上推移が連動して動いていても、このタイムシリーズのデータから2つの商品が併売されているかどうかは分かりません。もしかしたら、別々の顧客がそれぞれの商品を購入しているだけかもしれないからです。
例えば、2つの商品を購入している顧客が非常に多くても、このクロスセクションのデータから2つの商品の月別の売上推移が連動して動いているかどうかは分かりません。もしかしたら、商品Aを購入数か月後に、商品Bを購入しているかもしれないからです。
すぐやるべき「タイムシリーズ」の営業データ分析
営業部隊を抱えている企業であれば、企業の規模に関係なく、少なくとも月別の売上や週別の契約件数などのタイムシリーズなデータのモニタリングをしていることでしょう。
今月の売上はヤバい! であるとか、今週の契約件数の調子が良い! であるとか…… 売上や契約件数などのデータを、会社全体で見たり、エリア別で見たり、商品別で見たり、部署別に見たり、営業担当者別で見たり、顧客の業界別で見たりしていると思います。
このとき、見ている今月の売上や今週の契約件数などの数字に問題があるかどうかを判断することでしょう。数字の値を見て、単にその値の印象で語たり判断したり、単に課された予算と比較し語り判断することも、少なくありません。
その数字に問題があるのかどうかを調べるのが、「異常検知」というデータ分析です。「タイムシリーズ」の営業データ分析で、すぐできるデータ分析の一つです。
やったことの無い方は、一度「異常検知」というデータ分析をやってみると、良いと思います。少なくとも、数字の値を見て印象で語ることは少なくなると思います。
今月は売上が悪い! 今月の売上は良い! といっても、「異常検知」の結果そうでもないというケースは多々あります。問題でないものを問題だと騒いだところで、問題は解決しません。問題ではないからです。
今月は売上がまぁまぁ‥‥ といっても、、「異常検知」の結果からっみたらヤバい! というケースもあります。問題を見逃すことを防いでくれます。
「異常検知」という営業データ分析は、すぐ簡単に始められるため、やってみても損はないと思います。「異常検知」のやり方は、他のコラム(「DELTA法」のコラム)で具体的な手順を説明しますので、ここでは割愛します。
すぐやるべき「クロスセクション」の営業データ分析
クロスセクションの営業データ分析で、顧客・営業担当・商品の関係性が見えたら素敵だと思います。
例えば、この商品の売れ行きがよいのから、あの顧客にも紹介してみよう! とか、この業界の企業は自分にあっているから、新規営業かけてみよう! とかを、何となく感覚的に実施していると思います。しかし、あくまでも感覚値でデータの裏付けがない。
営業データ分析を上手く活用すれば、このような顧客はこのような商品を買う傾向にあるとか、このような担当者とこのような顧客は相性が良いであるとか、このような商品はこのような担当者がよく売る傾向にあるとか、が分かります。
営業担当にとって、自分がどのような顧客を得意とし、どのような商品を得意としているのか知ってて、損はないと思います。組織編成上からも知っていて損はないでしょう。
さらに、この顧客にこの商品を勧めるとよいというレコメンドまでデータ分析でできると、かなり良いでしょう。
クロスセクションの営業データ分析で、顧客・営業担当・商品の関係性を見るための、簡単にできるデータ分析手法に、対数線形モデルというものがあります。さらに、一般化した一般化線形モデルというものであります。「クロスセクション」の営業データ分析で、すぐできるデータ分析の一つです。
わけわからん! と思った方も多いと思いますが、それほど難しいものではありません。具体的なやり方は、他のコラム(「DELTA法」のコラム)で説明します(すみません……)。
そして、この顧客にこの商品を勧めると良いというレコメンドも、比較的簡単な営業データ分析で実現できます。このレコメンドのデータ分析も、「クロスセクション」の営業データ分析で、すぐできるデータ分析の一つです。
協調フィルタリングという分析手法で実現できます。Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」などのイメージです。具体的なやり方は、他のコラム(「DELTA法」のコラム)で、こちらも説明します(すみません……)。
今回のまとめ
要するに、売上伝票の明細データで、どのような分析なら、比較的簡単にすぐにできるのか。
まとめると……
- タイムシリーズに対する異常検知
- クロスセクションに対する関係性分析(要因分析)
- クロスセクションに対するレコメンド
なら、すぐできるし、それなりの成果を得ることができると思います。
ここで言う売上伝票の明細データとは、
- いつ(販売年月日)
- 誰が(営業担当)
- 誰に(顧客名)
- 何を(商品名)
- どのくらい(点数)
- いくらで(売上額)
の分かる取引履歴データです。それなりの社歴のある企業であれば、企業の大小関係なく、何かしらの形で蓄積されていると思います。
ぜひ一度チャレンジし、データ分析のパワーを感じていただければと思います。
先ほどの3つの分析(異常検知・関係性分析・レコメンド)であれば、お金のかかる分析ツールが新たに必要になるわけでもありません。無料で使えるRやPythonなどのデータ分析ツールだけで、十分に実現できます。
今回は、具体的な分析手順について説明していませんでした。具体的なやり方は、他のコラム(「DELTA法」のコラム)で説明する予定です(すみません……)。