第83話|データ分析のビジネス貢献を阻害する7つの問題

第83話|データ分析のビジネス貢献を阻害する7つの問題

何のためにデータ分析するのでしょうか。

ビジネスの世界で考えた場合、ビジネス貢献する必要があります。多くの場合に、収益やコスト、利益、生産性、品質といったものに対し、良いインパクトをもたらすことでしょう。

そもそも、ビジネスの世界では、データ分析は必須ではありません。データ分析をする必要はありません。そのようなビジネスの世界で、データ分析するからには何か違いを見せる必要があります。

例えば、上手くデータ分析を活用することで、無駄が減り効率的になります。ストレートに言うと、利益率が向上します。データ分析の得意分野です。

最近、データの蓄積コスや分析コストが減り、多くの企業でデータ分析を、安価に活用することができるようになりました。しかし、多くの企業は上手くいっていません。

今回は、「データ分析のビジネス貢献を阻害する7つの問題」というお話をします。

IT化の目的

多くのIT化は、恐らく効率化を目的にしていることが多いでしょう。そのIT化で不効率になったら目も当てられません。

世界的にIT化は進みましたが、日本のGDPは約20年間ほぼ同じで、日本生産性本部が出している日本の生産性の統計値もほぼ20年間変化がありません。

国全体でみたとき、IT化によって効率的になったとは思えません。何が起こっているのでしょうか。実際、あなたの業務はどうでしょうか。

私の知っている範囲では、IT化することで、ある業務の時間が余計に増え、今まで以上に時間がかかることも、少なくないようです。もしかしたら、IT化によって不効率になっている面があるのかもしれません。

2つの効率化

では、そもそも効率化とは何でしょうか。色々な定義があることでしょう。私は、ざっくり2種類で考えています。1つはコスト面の効率、もう1つはスピードの効率。

コスト面の効率化とは、費用対効果(コストパフォーマンス)の向上のことです。スピード面の効率化とは、時間が短縮されることです。

人的な業務の工数の場合、この両面が含まれます。

例えば、工数が短縮されれば、その短縮された工数分だけコストが減り、スピードが速くなったことになります。逆に、工数が増えれば、その増えた工数分だけコストが増え、スピードが遅くなったことになります。

ITコスト

多くの人がITコストとしてイメージするのは、主にシステムの導入コストと、そのシステムの運用コストでしょう。
しかし、重要なのは、そのIT化によって影響を受ける人の工数です。IT化によって、何かしら工数が増えたなら、業務スピードは阻害され、余計なコストとして企業にのしかかってきます。そして、多くの人は、IT化によって「何やら余計な業務が増えたかも?」と感じることでしょう。

このような、IT化が進むほど不効率になる現象を、私は「IT化の不効率」と呼んでいます。
程度の大小はありますが、効率化を目指したIT化が、不効率の元凶になり、余計なコスト増というものを産みだしているケースは、少なくないような気がします。特に、データ分析の世界で、最近目の当たりにします。ビッグデータブーム以後です。

もちろん、このようなIT化の不効率化は、すでにビッグデータブーム以前からありました。私は、ビッグデータブーム時に耳に心地よいカタカナ用語とともに、拍車がかかったのではないかと感じています。悔しいことに、データで効率化を実現するデータ分析の世界で起こったと感じています。

ちょっとした一例

例えば、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール。

BIツールは非常に素晴らしいデータ分析の活用ツールです。誰もが簡単にデータを色々な切り口で集計し分析できます。

しかし残念なことに、導入さえすればデータを使って色々な問題が解決するかのような錯覚を、いくつかの企業にもたらしました。魔法の箱のような扱いをする企業さえありました。DMP(データマネジメントプラットホーム)やデータレイク、プラットフォームなども同様です。

魔法の箱ではないことは、導入し使ってみればすぐに分かります。何も嬉しいことは起こりません。ただ蓄積したデータが見えるだけです。当然ですが、データを見ただけでは何も起こりません。

何が足りないのでしょか。それは、データ分析の「活用の視点」です。

活用の視点が欠落しているデータ分析者

以下は、活用の視点が欠落しているデータ分析者の、典型的なケースです。

1. 流行のスゴイ分析にこだわる
2. ほんのわずかな精度向上にこだわる
3. 現場のことを知らなすぎる
4. 分析結果を現場に丸投げする
5. データが絡まない課題は自分の仕事ではないと考える
6. 成果を数字で示せない
7. 信頼を得る努力を怠る

他にもありますが、私が見ている限りこの7つが非常に多い気がします。これは個人だけの問題だけではありません。組織的な問題でもあります。

ここ10年、データ分析やデータサイエンス、ビジネスアナリティクスなどの専門組織が、大企業を中心に設置されました。思うようにビジネス貢献できていない、これらの専門組織に共通する問題でもあります。

これが、「データ分析が企業内で機能しなくなる7つの問題」です。

要するに、データ蓄積基盤や分析基盤などのハード問題ではなく、意識のデータ分析する側の姿勢や意識の問題です。

1. 流行のスゴイ分析にこだわる

データ分析従事者の、特に若手に多いのが、今流行のデータ分析手法で分析をしたがること。私自身にも身の覚えがあります。正直ろくな目にあいません。苦労した割に成果が出ないのです。

重要なのはビジネス成果を出すことです。スゴイ分析よりも成果のでるデータ分析です。多くの場合、従来の分析手法で十分です。

2. ほんのわずかな精度向上にこだわる

データ分析の精度のこだわる人も少なくありません。予測精度や判別精度などです。

その精度がビジネス上大きな意味を持つならば問題ないのですが、多くの場合ビジネスを左右するほどではありません。

データ分析系のコンテストでは、よく精度を競いますが、ビジネスの現場では精度よりも費用対効果です。0.1%の精度を実現するのに、コストが1桁多くなったことがあります。恐ろしいことです。

それ以来、私は無意味に精度を追わなくなりました。

3. 現場のことを知らなすぎる

多くのデータ分析者に言えることです。大企業に多いです。機能分化しているからです。

中小企業などでは、現場の担当者がデータ分析も担当するというオーバーワークの現象が起こり、十分な分析ができずデータ分析が活かされないことも少なくありません。

しかし、現場の担当者とデータ分析担当者が分かれている場合、これはこれで問題で、データ分析担当者が現場を知らずに分析し、とても使いにくい分析結果を量産するのです。

現場で起きていることの多くはデータ化されていません。つまり、データ分析で言えることも活用できることも限られています。

さらに、現場の知らないデータ分析担当者の出す分析結果は、微妙に的を外すことが多く、現場で活用してもらえません。そして、現場からの信頼を失います。

4. 分析結果を現場に丸投げする

データ分析担当者の中には、データ分析結果を出しておしまい、と考える人も少なくなりません。分析した結果をどう使うかは、現場で考えて実行してくれというスタンスです。

言葉は悪いですが、最悪です。信頼関係を無くなります。丸投げだからです。使える結果ならばよいのですが、多くの場合、現場から見たらわけのわからない結果です。

データ分析担当者たるもの、データ分析の活用まで責任をもって付き合うべきです。少なくとも、現場で上手く活かせるようになるまでは。

現場と言っていますが、経営の現場であれば、その現場の担当者は経営者になります。例えば、分析結果を社長に渡し、あとは自分で考えろ! とは言わないはずです。必ず説明をすることでしょう。

現場の担当者から、きつい突っ込みがあるかもしれません。反応がないよりましです。より良いデータ分析の活用に向けた一歩です。

5. データが絡まない課題は自分の仕事ではないと考える

データ分析者の中には、データが絡まない部分は自分の仕事でないと考える人もいます。

課題解決のためのデータ分析をしているのであれば、目的は課題解決です。意思決定のためのデータ分析をしているのであれば、目的は意思決定です。

つまり、データを使うか使わないかに限らず、課題解決や意思決定に役立つ何かをすればよいわけで、データという縛りに縛られる必要はないでしょう。

そもそも、多くの課題解決や意思決定は、データ以外の要素も少なくない。データ以外の要素も考えないと、データ分析そのものも活きてきません。

6. 成果を数字で示せない

データ分析の一つの利点として、数字でスバっと客観的に示す、というのがあります。本当に客観的か、というのはありますが、少なくとも数字で示します。

しかし、データ分析そのものの成果を数字でズバッっと示せないデータ分析者も少なくありません。

できれば、金額で示すべきです。例えば、「データ分析をすることで、1億円の成果が出た!」ということを言うということです。それは売上アップかもしれませんし、コストカットかもしれません。利益アップかもしれません。もちろん、利益率でも構わないことでしょう。

7. 信頼を得る努力を怠る

データ分析者の中には、受け身のデータ分析者も少なくなりません。データ分析に限ったことではありませんが。

データ分析そのものは、比較的に新しい社内業務と受け止められている企業も多いことでしょう。いわゆる新参者です。

新参者ですから、先ずすべきは信頼を得ることです。

信頼を得るためには、データ分析を活用する現場と一緒に、解決すべき課題を積極的に考えていく必要があります。

間違っても、データ分析のテーマを現場に求めてはいけません。テーマそのものを、何もないところから一緒に生み出し考えていく必要があります。

そして、最初は丁寧に一歩一歩地道に歩んでいきます。必要があれば、分かりやすい説明資料を用意したり、勉強会を開いたり、分かるまで付かあったりします。

今回のまとめ

今回は、「データ分析が企業内で機能しなくなる7つの問題」というお話をしました。

厳密には、「データ分析のビジネス貢献を阻害するデータ分性者やデータ分析組織の7つの姿勢や意識の問題」です。

今まで以上に、安価にデータを蓄積したり分析できるようになった現在、この姿勢や意識の問題が、非常に大きな問題としてのしかかってくることでしょう。

昔から効率化を目指したIT化によって不効率になるという「IT化の不効率」という現象はありました。

悔しいことで、ビッグデータブームとともに、データ活用に関するIT投資が増え、効率化を実現するはずのデータ活用のIT投資が「IT化の不効率」を生み出しているのです。もちろん、すべてではありませんが、そのような現象をちらほら見かけます。

何が足りないのでしょか。それは、データ分析の「活用の視点」です。

今回は、活用の視点が欠落しているデータ分析者の、典型的なケースをいくつか上げました。以下の7つのケースです。

1. 流行のスゴイ分析にこだわる
2. ほんのわずかな精度向上にこだわる
3. 現場のことを知らなすぎる
4. 分析結果を現場に丸投げする
5. データが絡まない課題は自分の仕事ではないと考える
6. 成果を数字で示せない
7. 信頼を得る努力を怠る

多くの場合、個人の問題だけでなく、データ分析専門の組織そのものの姿勢の問題でもあるようです。