以下を見て、どのような印象を持つでしょうか?
- 90%の有効性のある新型コロナワクチンが登場しました!
- 日本の離婚率35%だから、今や3組に1組が離婚する時代だ!
この「有効性」は「ワクチン有効率」という指標を指しています。この「離婚率」は「特殊離婚率」という指標を指しています。
ワクチン有効率90%は、ワクチン接種をすると90%罹患しないということではありません。
特殊離婚率35%は、結婚したカップルの35%が離婚したわけではありません。
言葉の威力はすごいです。指標名称の付け方で、データの印象が異なります。指標の名称の付け方で、分析結果の印象操作ができてしまいます。
今回は、「ワクチン有効率90%、離婚率35%ってなんだ? 指標の名称の付け方で印象操作ができてしまう 」というお話しをします。
Contents
離婚率あれこれ
説明の簡単な方から取り上げます。
特殊離婚率
離婚率という指標名から想像するに、「結婚したカップルの離婚する割合」と感じる人もいるかもしれませんが、「特殊離婚率」とは、結婚したカップルの離婚する割合ではありません。
「今や3組に1組が離婚する時代だ!」的な記事や論調は、意図的に面白おかしくしているのか、単にデータリテラシーがないだけなのかは不明ですが、データから得られたファクトを正しく捉えていません。
「特殊離婚率」は、以下のように定義されます。
特殊離婚率=離婚届/婚姻届
一見正しそうに見えますが、「特殊離婚率」とは、「婚姻届に対し離婚届が何倍あるのか?」という指標です。
そのため、婚姻届けよりも離婚届が多ければ100%以上になります。「特殊離婚率」が100%未満の場合、婚姻者数が増加していることになります。
結婚したカップルの離婚する割合を知るためには?
「結婚したカップルの離婚する割合」を知りたい場合には、どうすればいいのでしょうか?
ある年に結婚したカップルの一生を追い、死ぬまでに離婚したかどうかを確かめる必要があります。
そうすれば、1980年に結婚したカップルの離婚率は○○%ということが分かります。
人生100年時代、なかなかしびれます。
ある年齢に限定して計算した離婚率のようなもの
離婚率ではありませんが、ある年齢に限定し「離別者数/(有配偶者数+死別者数+離別者数)」を計算する方法があります。
少なくとも、「特殊離婚率」よりは、離婚率という用語からイメージするものに近い気がします。
政府の統計データから、50歳時の「離別者数/(有配偶者数+死別者数+離別者数)」を計算することが出来ます。
- 2015年の50歳男性:8.17%
- 2015年の50歳女性:11.85%
50歳までに結婚したことのある人の内、男性は8.17%、女性は11.85%が離別状態にある、ということです。
熟年離婚というのもありますし結婚と離婚を繰り返す人もいるので、この数字も正確ではありませんが…… ざっくり10組に1組は離婚する時代だと言うことが分かります。
ちなみに、100年前の1920年は次のようになります。
- 2015年の50歳男性:2.36%
- 2015年の50歳女性:2.93%
少なくとも離婚は増えていそうです。
普通離婚率
ちなみに、「普通離婚率」(人口千人あたりの離婚件数)という指標もあります。
こちらは、1.65%(2018年)ぐらいと低いので、あまりメディア的に面白おかしく取り上げられません。国際比較をするときに利用されているのを、よく目にします。
通常は、一般に離婚率として使用する場合は、この「普通離婚率」を指します。
-人口統計資料集(2020)-
表6-1 初婚・再婚別婚姻数および婚姻率:1883~2018年
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2020.asp?fname=T06-01.htm表6-2 種類別離婚数および離婚率:1883~2018年
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2020.asp?fname=T06-02.htm表6-23 性別,50歳時の未婚割合,有配偶割合,死別割合および離別割合:1920~2015年
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2020.asp?fname=T06-23.htm
ビジネスで考えてみる
この「特殊離婚率」をビジネスの既存顧客数で考えてると、次のようになります。
特殊離反率=離反顧客数/新規顧客数
特殊離反率が35%の場合、どうでしょうか?
顧客が年々増えていくことを指します。
離反率は、通常次のように定義することが多いと思います。
離反率=離反顧客数/(継続顧客数+離反顧客数)
ワクチン有効率あれこれ
ワクチン有効率90%と聞くと、ワクチン接種をすると90%罹患しないのではないか、と思ってしまう人もいることでしょう。
BBC NEWS JAPAN (2020年11月9日)
新型コロナウイルスの「画期的な」ワクチン、9割以上に効果
https://www.bbc.com/japanese/54869478新型コロナウイルスのワクチンを開発中の米製薬大手ファイザーと独ビオンテック(BioNTech)は9日、治験の予備解析の結果、開発中のワクチンが90%以上の人の感染を防ぐことができることが分かったと発表した。
ワクチン有効率の定義
ワクチン有効率の定義です。
有効率=(1-相対リスク)
「相対リスク」(relative risk, risk ratio, RR)という、データ分析をある程度している人でないと見慣れない、ワードがでてきました。
以下、「相対リスク」の定義です。
相対リスク=「ワクチン接種あり」の人の発症率/「ワクチン接種なし」の人の発症率
ワクチン有効率90%の簡単な説明
例えば、被験者をランダムに2群(ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群)に均等に分けます。
その後、2群(ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群)を比較します。
比較と言っても、色々な比較方法があります。例えば、「差で比較する方法」と「比で比較する方法」などです。
比で比較するのが「相対リスク」です。発症するリスクをどの程度減らせたのか、ということを見る比で見る指標になります。
例えば、次のようになったとします。
- 「ワクチン接種あり」の人:10人発症
- 「ワクチン接種なし」の人:100人発症
2群(ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群)の被験者数は同じとした場合、「相対リスク」は次のようになります。
- 相対リスク=10/100=10%
「有効率」は次にようになります。
- 有効率=(1-相対リスク)=1-0.1=90%
新型コロナウイルスのワクチンの場合
ファイザー プレスリリース(2020年11月19日)
ファイザーとBioNTech、COVID-19ワクチン候補の国際共同第3相臨床試験ですべての主要な有効性評価項目を達成
https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2020/2020_11_19.html
- 有効性に関する主解析において、BNT162b2は1回目接種から28日経過した時点以降のCOVID-19の予防に95%の有効性を示した。本解析は確定診断された170例のCOVID-19発症例を対象とし、プラセボ群で162例、ワクチン群で8例の感染がそれぞれ認められた。
- 有効性は年齢、性別、人種・民族で一貫しており、65歳を超える成人では94%を超える有効性が認められた。
- 米国食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可(EUA)に求めている安全性データの収集を達成した。
- 43,000人を超える参加者を組み入れ、すべての集団においてワクチンの忍容性は良好であることを示すデータが得られた。重大な安全性の懸念は認められず、グレード3の有害事象で頻度が2%を超えるものは、疲労3.8%と頭痛2.0%のみであった。
- 両社は数日以内にFDAにEUAの申請を行い、世界中の規制当局にもデータを共有することを計画している。
- 両社は2020年に最大5,000万回分、2021年末までに最大13億回分のワクチンを世界で生産することを見込んでいる。
- ファイザーは豊富な経験、専門知識と既存のコールドチェーンのインフラを活用し、世界中にワクチンを流通できると確信している。
ファイザー プレスリリース(2020年11月19日)をもとに考えてみます。
- 「ワクチン接種あり」の人:8人発症
- 「ワクチン接種なし」の人:162人発症
2群(ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群)の被験者数は同じとした場合、「相対リスク」は次のようになります。
- 相対リスク=8/162=4.94%
「有効率」は次にようになります。
- 有効率=(1-相対リスク)=1-0.094=95.06%
ファイザー プレスリリース(2020年11月19日)によると、参加者は43,000人以上となっています。
正確な数字が分からないので、43,000人が参加したとし、2群(ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群)の被験者数は同じとした場合、次のようになります。
被験者数 | 発症の有無 | 発症率 | 発症しない率 | ||
発症 | 非発症 | ||||
ワクチン接種あり | 21,500 | 8 | 21,492 | 0.04% | 99.96% |
ワクチン接種なし | 21,500 | 162 | 21,338 | 0.75% | 99.25% |
要するに、ワクチン接種することで、発症率が0.75%から0.04%に下がります。
少なくとも、ワクチン接種をしたときの発症しない率ではないことは分かると思います。
今回のまとめ
今回は、「ワクチン有効率90%、離婚率35%ってなんだ? 指標の名称の付け方で印象操作ができてしまう 」というお話しをしました。
- 90%の有効性のある新型コロナワクチンが登場しました!
- 日本の離婚率35%だから、今や3組に1組が離婚する時代だ!
この「有効性」は「ワクチン有効率」という指標を指しています。この「離婚率」は「特殊離婚率」という指標を指しています。
ワクチン有効率90%は、ワクチン接種をすると90%罹患しないということではありません。特殊離婚率35%は、結婚したカップルの35%が離婚したわけではありません。
恐ろしいことに、指標の命名によって数字の印象が変化します。
適切な名称を指標に付けないと、数字が独り歩きしたときに、事実が捻じ曲がり大いなる誤解を生むことでしょう。
そうならないためにも、指標に名前を付けるとき非常に気を付ける必要がありますし、他者が命名した指標の場合にはその定義をしっかり確認しましょう。