キャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を適切に評価するには、ベース販売高を見積もる必要があります。
ベース販売高とは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高です。
短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動による販売高を、販促増分販売高といいます。
短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するときに、まず実施すべきはこの分解です。
今回は、「マーケティング活動を評価するための『ベース販売高』と『販促増分販売高』」というお話しをします。
たまに見る間違い
短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するとき、たまに見る間違いがあります。
それは、全体の販売高をキャンペーンや広告宣伝などのマーケティングコストで割って、評価することです。
これでは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価はできません。
なぜならば、ベース販売高が高い商品やサービスであれば、どのようなマーケティング活動を実施しても好成績な値が弾き出されます。逆に、ベース販売高が低い商品やサービスであれば、どのようなマーケティング活動を実施しても悪い値が弾き出されます。
多くの場合、販売高には季節性があり、この季節性はベース販売高に含まれます。夏売れる商品やサービスは、ベース販売高は高くなり、この計算方法だと好成績な値が弾き出されます。
そのため、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高であるベース販売高を、何かしらの手段を通じて見積もっておく必要があります。
販売上昇率
何かしらの手段を通じて、販売高を以下のように分解できたとします。
このとき最初に見るべきは、販売上昇率です。
要は、ベース販売高を基準に、どれだけ販売高を短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動で上昇させたか、という指標です。
販促増分販売高をさらに分解する
ここまで、販促増分販売高を1つの塊として表記してきました。
もちろん、1つの塊として考えて評価するのもいいですが、データ分析をするときは、さらに分解したほうがいいでしょう。
例えば、広告宣伝と消費者向け販促、流通向け販促などに分けたりします。
= 広告宣伝による増分販売高
+ 消費者向け販促による増分販売高
+ 流通向け販促による増分販売高
さらに、広告宣伝による増分販売高をテレビCMや新聞広告、ネット広告などにさらに細分化したり、消費者向け販促による増分販売高をクーポンや会員限定値引き、ポイント2倍キャンペーンなどにさらに細分化したりします。
どこまで細分化するのかは、どのくらいの粒度の情報が現場で求められているのか、そもそもデータがどのくらいの粒度で存在するのかに依存します。
細分化したら、例えば以下のように、細分化した粒度で販売上昇率を計算することができます。
増分販売高あたりコスト
販促増分販売高や販売上昇率などが高いからといって、良い販促手段とは限りません。コストパフォーマンスも重要です。
こちらも、販促増分販売高を1つの塊として表記していますが、データ分析をするときは、さらに分解するのが一般的です。
以下は、テレビCMの例です。
加法アプローチと乗法アプローチ
では、具体的にベース販売高と販促増分販売高をどのように見積もるのか?
一番簡単なのは、線形回帰モデルをベースにモデル構築する方法です。そのモデルは、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と呼ばれることが多いです。
MMMには、ざっくり加法アプローチと乗法アプローチの2アプローチのモデルがあります。
以下、加法アプローチのモデリング例です。
= ベース販売高
+ 広告宣伝の販促増分販売高
+ 消費者向け販促の販促増分販売高
+ 流通向け販促の販促増分販売高
もしくは、以下のようにも表現できます。
= ベース販売高
+ ベース販売高 × 広告宣伝による販売上昇率
+ ベース販売高 × 消費者向け販促による販売上昇率
+ ベース販売高 × 流通向け販促による販売上昇率
以下、乗法アプローチのモデリング例です。
= ベース販売高
× (1 + 広告宣伝による販売上昇率)
× (1 + 消費者向け販促による販売上昇率)
× (1 + 流通向け販促による販売上昇率)
対数変換(log)して、以下のようにも表現できます。
= log(ベース販売高)
+ log(1 + 広告宣伝による販売上昇率)
+ log(1 + 消費者向け販促による販売上昇率)
+ log(1 + 流通向け販促による販売上昇率)
数理モデル
ここで1点注意点があります。
それは、MMMは、説明変数同士の相関が非常に高くなる傾向があるため、単純な線形回帰モデルだとマルチコという問題が起こるケースが多いです。
そもそも、なぜ説明変数同士の相関が非常に高くなる傾向があるかというと、多くの企業では、キャンペーン期間と称し同時期に色々な広告や販促手段を用いるからです。
そのため、MMMの数理モデルを構築するとき、マルチコを緩和するモデルが用いられます。
例えば……
- 正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)
- 主成分回帰モデル
- 部分的最小二乗回帰モデル
- 階層線形回帰モデル
……など。
他にも、顧客行動を組み込んだ共分散構造モデルや、ネステッドロジットモデルなど、色々なものがあります。
さらに、SARIMAX(説明変数X付き季節性を考慮したARIMAモデル)といった時系列解析系のモデルもあります。
この中で最もシンプルなのが正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)です。
通常の線形回帰モデルで構築するのと大差ないと思います。ただ、線形回帰も正則化回帰も、時系列成分(季節性や周期性など)を説明変数として組み込む必要があります。
販売高の予測精度が高いのは、私の経験上、SARIMAXです。
SARIMAX の場合、時系列成分(季節性や周期性など)は組み込まれた状態になっています。ただ、通常のSARIMAXのXの部分は正則化されていないので、正則化を絡めたほうがいいです。
正則化を絡め方が分からないという方は、先ずSARIMAモデル(説明変数Xを考慮しないモデル)を構築し、次にSARIMAモデルの残差を正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)でモデリングするといいでしょう。これは、正則化regSARIMAモデルと呼ばれています。
今回のまとめ
今回は、「マーケティング活動を評価するための『ベース販売高』と『販促増分販売高』」というお話しをしました。
キャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を適切に評価するには、ベース販売高を見積もる必要があります。
ベース販売高とは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高です。
短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動による販売高を、販促増分販売高といいます。
短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するときに、まず実施すべきはこの分解です。
分解したら、以下の2つの指標を深堀分析することが多いいです。
- 販売上昇率 = 販促増分販売高 ÷ ベース販売高
- 増分販売高あたりコスト = 増分販売高に要したコスト ÷ 増分販売高
実務的には、販促増分販売高を1つの塊としてだけでなく、さらに分解するのが一般的です。例えば、媒体別やエリア別など。
ここで肝になるのが、ベース販売高と販促増分販売高を見積もる方法です。
一番簡単なのは、線形回帰モデルをベースにモデル構築する方法です。そのモデルは、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と呼ばれることが多いです。
MMMには、ざっくり加法アプローチと乗法アプローチの2アプローチのモデルがあります。
利用できる数理モデルはいくつかあります。
- 線形回帰モデル
- 正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)
- 主成分回帰モデル
- 部分的最小二乗回帰モデル
- 階層線形回帰モデル
- 共分散構造モデル
- ネステッドロジットモデル
- SARIMAX
実務的には、正則化回帰モデルかSARIMAXが良いかと思いますので、興味のある方は試してみてください。
データを使ったモデリング例は、別の機会にお話しします。