「予測分析」(Predictive Analytics)を実務で活用するとき、今までをファクト(事実)ベースで振り返り次に活かす「振返り分析」と、「やり方」がちょっと異なります。
「やり方」はちょっと異なるだけですが、「考え方」が大きく異なります。
「今まで」をベースに次を考えるのか、「これから」をベースに次を考えるのか、の違いです。
この考え方を変えることが、非常に難しいのです。
今回は、「振返り分析と予測分析の運用上の違い」というお話しをします。
Contents
振返り分析とは?
そもそも「振返り分析」とは何なのか、というところからお話しします。
簡単に言うと、「何をしたのか、そして、その結果どうなったのか」を都度振返りながら、実務運用していきます。
例えば、販促活動の効果測定などの、計画した施策の効果があったのかなかったのか、効果があったならばどのくらいあったのか、といったものです。
そこでよく用いられるマネジメントサイクルが、PDCAサイクル系のものです。
- P:Plan、計画
- D:Do、実行
- C:Check、実行結果の評価
- A:Act、改善検討
振返り分析のメインは「C(Check)」と「A(Act)」
振返り分析は、「C(Check、実行結果の評価)」と「A(Act、改善検討)」で実施します。
「C(Check、実行結果の評価)」でデータなどを使い「D(Do、実行)」の実行結果を評価し、問題があれば「A(Act、改善検討)」でどうすべきかを検討します。
「C(Check、実行結果の評価)」は、あくまでも「今まで」のお話しです。
「A(Act、改善検討)」は、これからどうすべきかを検討するため、予測モデルなどを使いシミュレーションを実施することもあります。
予測分析(Predictive Analytics)とは?
予測分析(Predictive Analytics)は、「事前に予測モデルを構築し、どうなりそうかと予測モデルを活用しながら次のアクションを考え実行する」というものです。
そのため、「今までどうだったのか」を振返りながら運用する「振返り分析」とは大きく違います。
正確な表現ではないですが、「過去を振り返る」というよりも「未来を振り返る」という感覚です。
そこでよく用いられるオペレーションサイクルが、OODAループ系のものです。
- O:Observe、観測
- O:Orient、方向性検討
- D:Decide、何をするのかを決定
- A:Act、実行
予測分析は「A(Act)」のためにある
予測分析は「A(Act、実行)」のためにあります。
要は、「O(Observe、観測)」「O(Orient、方向性検討)」「D(Decide、何をするのかを決定)」でデータを活用します。
「O(Observe)」で現状を理解するためのデータ活用が実施されます。
この「O(Observe)」は、振返り分析の「C(Check)」と非常に似ていますが、「C(Check)」よりも簡易的です。
「O(Orient)」で今後の方向性をデータを活用し検討し、「D(Decide)」でネクストアクションを決定します。
この「O(Orient)」は、振返り分析の「A(Act)」の中で予測モデルを活用した場合、ほぼ同じことをするかもしれません。
そう考えると、PDCAサイクルとOODAループは、サイクル(もしくはループ)の出発点と用語が異なるだけで、実質的に同じようなものなのかもしれません。
「OODA×データ活用」とは「現場の動き×データ活用」
私が初めてOODAループを知ったのは、20年以上前、国の機関で安全保障系の仕事をしていたとき(米国国防総省と絡みがあったとき)です。
うる覚えですが…… 現場の兵隊さんの動きを観察したら、OODAループのような動きを自然にしている人が非常に多いことに気づいたそうです。この現場の兵隊さんに適切にデータなどでサポートするなら、「この現場の人の自然な動きであるOODAループに沿った形で、サポートするのがいいだろう」ということのようです(私見)。
「OODA×データ活用」とは、「現場の動き×データ活用」です。
現場がPDCAサイクルで動いて問題がないのなら、「PDCA×データ活用」≒「現場の動き×データ活用」となります。
何を言いたいのかというと、現場の動きがOODAループな動きをしていないところに、OODAループ的な動きを押し付けるのは、本末転倒になりかねません。
OODAループを押し付けるのなら、本当にOODAループが現場にとって正しいのかを、よくよく考えた方がいいのかもしれません。
PDCAとOODAは似ていてるが大きく違うところもある
PDCAサイクルを、C(Check)から始めると、OODAループ的なものになります。
ただ、PDCAサイクルにあって、OODAループにないものがあります。
それは、P(Plan)です。OODAループは計画ではなくミッション(到達目標)があるだけです。
軍事オペレーションで考えると分かりやすいかもしれません。
むかしむかし、日露戦争のときのお話しです。
203高地を占領したことで旅順要塞は陥落しました。その203高地占領にとって、重砲部隊の陣地変換が重要な役割を演じました。
以下は、そのとき総参謀長(児玉源太郎)から第三軍に出された命令です。
「命令。二十四時間以内に重砲陣地転換を完了せよ」
「その後、二十八サンチ榴弾砲をもって、一昼夜十五分間隔でぶっとおしに二百三高地に援護射撃を加えよ」
果たすべきミッション(到達目標)が明確に提示されるだけです。
要は、大きな計画を知って行動するというよりも、今果たすべきミッション(到達目標)だけで知って行動する、という感じです。その手段は、適時自ら判断し決め行動しろ、ということです。今に集中しろ、という感覚に似ています。
OODAループに必ず必要だが、PDCAサイクルでは必ずしも必要でないものがあります。
それはO(Orient)で実施する予測的なアプローチです。単に過去の振返りのみで検討するなら、予測的なアプローチは必ずしも必要ではありません。
そのため、予測分析(Predictive Analytics)では、主に機械学習アルゴリズム(数理モデル)を使用し、将来のイベント(例:受注、離反、故障、異常などが起こる)と傾向(例:売上や問い合わせ件数などが上がる・下がる・横ばい)を予測するための、数理モデルを構築しておく必要があります。
今回のまとめ
今回は、「振返り分析と予測分析の運用上の違い」というお話しをしました。
「予測分析」(Predictive Analytics)を実務で活用するとき、今までをファクト(事実)ベースで振り返り次に活かす「振返り分析」と、「やり方」がちょっと異なります。
「やり方」はちょっと異なるだけですが、「考え方」が大きく異なります。
「今まで」をベースに次を考えるのか、「これから」をベースに次を考えるのか、の違いです。
この考え方の転換が意外と難しいようです。
特に、PDCAサイクルによる振返り分析がそれなりに上手くいった組織ほど、難しいような気がします。
どうしても、今までどうだったのか、という思考の呪縛から抜け出せないようです。