第346話|上手くいかない「データサイエンス・プロジェクト」に
共通する「目的があるのに目標がない」という怪奇現象

第346話|上手くいかない「データサイエンス・プロジェクト」に共通する「目的があるのに目標がない」という怪奇現象

ビッグデータだの、データサイエンスだの、機械学習だの、DXだの、AIだの…… と叫びながら、データサイエンス・プロジェクトは、不必要に複雑さの罠に陥ることが多いです。

期待の表れなのか、得体のしれないものへの恐れなのか、よく分かりませんが「どうしてそうなるの!」と心で叫びたくなるほど、複雑怪奇になることがあります。

データサイエンスで成功するための鍵は、シンプルさと効率性です。

複雑さの罠とそれに伴うネガティブな結果を避けるためには、明確な目標を設定し、小さな範囲から始めることが重要です。

小さな範囲から始めることで、結果を早く得ることができ、問題が発生した場合もより簡単にトラブルシューティングを行うことができます。

複雑さの罠を避け、目標をより効果的に達成しましょう!

今回は、「上手くいかない『データサイエンス・プロジェクト』に共通する『目的があるのに目標がない』という怪奇現象」というお話しをします。

複雑怪奇へ

複雑怪奇一直線となるケースには、いくつかの共通点があります。

例えば以下です。

不明確な目標設定
プロジェクトの目的や目標が明確に定義されていない場合、どの作業が必要でどの作業が不必要なのかを判断することが難しくなり、プロジェクト全体が複雑化する可能性があります。目的がないのは論外ですが、最近よく目にするのが「目的があるが目標がない」というケースです。

大規模なスタート
プロジェクトを大規模に始めると、問題が発生した場合の対応が難しくなり、全体の管理が複雑になる可能性があります。社内調整のためのコミュニケーションや、予算確保、外部ベンダーの選定など。最悪なのが、責任者多数による責任者不在(関係各部門のエライ人が多数いるため一見良さそうだが、責任を全面に被ってまで意思決定するリーダーがいない)という現象です。

一度に完璧な解決策を求める
完璧な解決策を一度に見つけ出そうとすると、多くの時間とリソースを消費し、プロジェクト全体が複雑化する可能性があります。昔の(今もあるが)ウォーターフォール的なアプローチで、完成形を描けないと先に進めず、描いた後にはさらに、可能な限り完璧な体制、完璧なプラン、完璧なITインフラ、完璧な分析ツールなどを求め遅々と進まず、という現象です。

手作業の過度な依存
繰り返し行う作業を自動化せずに手作業で行うと、エラーが発生しやすくなり、作業の効率が低下する可能性があります。IT化したはずなのに、手作業部分を残すケースが昔から多々あります。データサイエンス・プロジェクトは、データの収集から前処理、レポート作成、予測モデル学習や更新など、データに対し高度な作業が発生しますが、多くは自動化できます。

不適切なツールの使用
問題に最適なツールを選択せず、一つのツールで全ての問題を解決しようとすると、作業の効率性と精度が低下する可能性があります。データサイエンス・プロジェクトは、データの収集から前処理、レポート作成、予測モデル学習や更新など、データに対し高度な作業が発生します。同じツールで無理して行う必要はありません。適材適所はツールにも当てはまります。

これらのアプローチは、プロジェクトを不必要に複雑にし、時間とリソースの無駄につながる可能性があります。

複雑さの罠

複雑化したプロジェクトは、以下のような「複雑さの罠」に陥ります。

時間とリソースの浪費
複雑な手法やプロセスは、しばしば多くの時間とリソースを必要とします。これは、プロジェクトの進行を遅らせ、コストを増加させる可能性があります。

問題解決の困難
複雑な手法やプロセスは、問題が発生したときにそれを解決するのが困難になる可能性があります。これは、問題の原因を特定し、適切な解決策を見つけるのが難しくなるためです。

コミュニケーションの障害
プロジェクトが複雑になると、チームメンバーやステークホルダーとのコミュニケーションが難しくなる可能性があります。これは、プロジェクトの目標や進行状況を明確に伝えるのが難しくなるためです。

これらの理由から、シンプルさと効率性を重視することが、データサイエンス・プロジェクトの成功にとって重要です。

では、シンプルなアプローチとは?

シンプルなアプローチとは、先ほど述べた「複雑怪奇一直線となるケース」の逆のことを行えばいいのです。

例えば、以下のようなアプローチです。

明確な目標設定
プロジェクトの目的と目標を明確に定義します。これにより、プロジェクトの進行方向が明確になり、必要な作業と不必要な作業を区別することができます。

スモールスタート
大規模なプロジェクトを一度に始めるのではなく、小さな範囲から始めます。これにより、問題が発生した場合のトラブルシューティングが容易になり、成功体験を早く得ることができます。

反復的なプロセス
完璧な解決策を一度に見つけ出すのではなく、反復的に改善を行いながら進めます。これにより、途中での調整が容易になり、プロジェクトの進行に柔軟性を持たせることができます。

自動化
繰り返し行う作業は自動化することで、手作業のエラーを減らし、時間を節約します。

適切なツールの選択
全ての問題を一つのツールで解決しようとするのではなく、問題に最適なツールを選択します。これにより、作業の効率性と精度を向上させることができます。

シンプルなアプローチを採用することで、プロジェクトの範囲を管理しやすくなり、問題が発生した場合のトラブルシューティングも容易になります。これにより、時間とリソースを節約し、プロジェクトの効率を向上させることができます。

では、シンプルさを実現するには、先ず何をすべきでしょうか?

それは、「明確な目標設定」です。

明確な目標設定

プロジェクトの成功に向けて具体的で明確な目標を設定することは重要です。

明確な目標は、プロジェクトの方向性を示し、チームの努力を一致させ、進行状況を評価する基準を提供します。

方向性
明確な目標は、プロジェクトの進行方向を示します。これにより、チームは何に焦点を当て、どのタスクを優先すべきかを理解することができます。

モチベーション
明確な目標は、チームのモチベーションを高めます。目標が達成可能で具体的であると、チームメンバーはその達成に向けて努力する意欲を持つことがより可能になります。

進行状況の評価
明確な目標は、プロジェクトの進行状況を評価する基準を提供します。これにより、プロジェクトが予定通りに進んでいるか、または調整が必要かを判断することができます。

意思決定
明確な目標は、プロジェクトに関する重要な意思決定を行う際のガイドラインを提供します。これにより、各決定がプロジェクトの目標に対してどのように影響を与えるかを評価することができます。

データサイエンス・プロジェクトに限ったことではありませんが、プロジェクトの成功に向けて具体的で明確な目標を設定することは重要です。

では、どのように目標設定をすればいいのでしょうか?

SMART原則

SMART原則は、目標設定における一般的なフレームワークで、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性がある(Relevant)、時間制限がある(Time-bound)目標を設定することを示しています。

Specific(具体的)
目標は明確で具体的であるべきです。何を達成したいのか、どのように達成するのかを具体的に定義することで、目標に向かって進むための明確な道筋を作ります。

Measurable(測定可能)
目標は測定可能であるべきです。これにより、進行状況を追跡し、目標が達成されたかどうかを確認することができます。

Achievable(達成可能)
目標は現実的で達成可能であるべきです。不可能な目標を設定すると、モチベーションが低下し、目標達成の可能性が減少します。

Relevant(関連性がある)
目標はあなたのビジネスや個人的なニーズに関連性があるべきです。関連性のない目標は、重要なリソースを無駄にする可能性があります。

Time-bound(時間制限がある)
目標は具体的な期限を持つべきです。期限を設定することで、目標達成のための緊急性を作り出し、先延ばしにすることを防ぎます。

この原則に従うことで、明確で効果的な目標を設定することができ、目標達成のための戦略を計画し、実行することが容易になります。

明確な目標設定例

SMART原則(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-bound)に基づいて、データサイエンス・プロジェクトの目標設定例を幾つかあげます。

目標:顧客の離反率を20%減少させる
この目標は具体的で、数値によって測定可能です。また、達成のための戦略や手段を考えるための明確な方向性を提供します。

目標例:製品の推奨システムを開発し、売上を10%増加させる
この目標は、具体的なアクション(推奨システムの開発)とその結果(売上の10%増加)を明確にしています。

目標例:6ヶ月以内にウェブサイトの訪問者数を30%増加させる
この目標は具体的な期間(6ヶ月)と数値目標(30%の増加)を設定しています。

目標例:1年以内に製品の不良率を5%以下にする
この目標は、具体的な期間(1年)と数値目標(5%以下)を設定しています。

目標例:次の四半期までに、新しいマーケティングキャンペーンを通じてリードの獲得数を50%増加させる
この目標は、具体的な期間(次の四半期)、アクション(新しいマーケティングキャンペーンの実施)、数値目標(リードの獲得数の50%増加)を設定しています。

目標例:3ヶ月以内に顧客満足度を80%に向上させる
この目標は、具体的な期間(3ヶ月)と数値目標(顧客満足度80%)を設定しています。

目標例:次の四半期までに、新製品の販売数を1000個にする
この目標は、具体的な期間(次の四半期)と数値目標(販売数1000個)を設定しています。

目標例:1年以内に、新規顧客獲得コストを20%削減する
この目標は、具体的な期間(1年)と数値目標(コスト削減20%)を設定しています。

目標例:6ヶ月以内に、新しいユーザー向けのオンボーディングプロセスを開発し、ユーザーの離脱率を15%減少させる
この目標は、具体的な期間(6ヶ月)、新しいオンボーディングプロセス(新規ユーザーが製品やサービスを初めて使用する際に、その機能や利用方法を理解し、最大限に活用できるようにするためのプロセス)の開発、数値目標(離脱率の15%減少)を設定しています。

目標例:次の2四半期で、製品の市場シェアを5%増加させる
この目標は、具体的な期間(次の2四半期)と数値目標(市場シェアの5%増加)を設定しています。

何となく、データサイエンス・プロジェクトで、どのような目標設定をすればいいのか、イメージできたのではないでしょうか。

目的と目標何が違うの? と感じた方もいたかもしれないので、最後にその違いについて簡単に捕捉します。

目的と目標の違い

目的」と「目標」は、しばしば互換的に使用されますが、それぞれ異なる意味を持ちます。

目的
目的は、あなたが何を達成しようとしているのか、なぜそれを達成しようとしているのかを示す広範で抽象的な概念です。これは、あなたの行動や決定の背後にある基本的な理由や動機を表します。例えば、企業の目的は「顧客の生活を改善する」や「持続可能な環境を促進する」など、その存在理由を示すものです。

目標
一方、目標は、その目的を達成するために具体的に何を達成する必要があるのかを示す具体的で測定可能な宣言です。目標は通常、特定の期間内に達成するための明確な基準を設定します。例えば、「次の四半期までに売上を10%増加させる」や「1年以内に新製品を市場に投入する」などが目標の例です。

したがって……

  • 目的は「なぜ」
  • 目標は「何を、いつまでに」

……を示します。

目的は目標設定の基礎を提供し、目標はその目的に向けて具体的な進行方向を示します。

そのため、1つの目的に対し、複数の目標が対応します。

目的 目標
顧客満足度の向上と長期的なビジネス成長の確保
  • 顧客の離反率を20%減少させる
  • 次の四半期までに顧客満足度を85%に向上させる
  • 1年以内にリピート購入率を15%増加させる
顧客体験の改善と売上の増加
  • 製品の推奨システムを開発し、売上を10%増加させる
  • 6ヶ月以内にウェブサイトのユーザビリティを改善し、コンバージョン率を20%向上させる
  • 次の四半期までに顧客サポートの応答時間を50%短縮する
ブランドの認知度とリーチの拡大
  • 6ヶ月以内にウェブサイトの訪問者数を30%増加させる
  • 1年以内にソーシャルメディアのフォロワー数を25%増加させる
  • 次の四半期までにPRキャンペーンを通じてメディア露出を50%増加させる
製品品質の向上と顧客満足度の確保
  • 1年以内に製品の不良率を5%以下にする
  • 次の四半期までに製品のリターン率を10%減少させる
  • 6ヶ月以内に製品の機能改善を行い、顧客評価を4.5以上にする
新規顧客獲得とビジネスの拡大
  • 次の四半期までに、新しいマーケティングキャンペーンを通じてリードの獲得数を50%増加させる
  • 1年以内に新規市場への進出を行い、新規顧客数を20%増加させる
  • 6ヶ月以内にパートナーシップを通じてリードの獲得数を30%増加させる
顧客ロイヤルティの強化とリピートビジネスの促進
  • 3ヶ月以内に顧客満足度を80%に向上させる
  • 次の四半期までにリピート購入率を15%増加させる
  • 1年以内に顧客ロイヤルティプログラムの参加者数を25%増加させる
新製品の成功と市場での地位の確立
  • 次の四半期までに、新製品の販売数を1000個にする
  • 6ヶ月以内に新製品の市場シェアを10%にする
  • 1年以内に新製品の顧客評価を4.5以上にする
利益率の改善とビジネスの持続可能性の確保
  • 1年以内に、新規顧客獲得コストを20%削減する
  • 次の四半期までにオペレーションコストを10%削減する
  • 6ヶ月以内に製品のマージンを15%向上させる
ユーザーエンゲージメントの向上と長期的なユーザー保持
  • 6ヶ月以内に、新しいユーザー向けのオンボーディングプロセスを開発し、ユーザーの離脱率を15%減少させる
  • 次の四半期までにユーザーエンゲージメントを20%増加させる
  • 1年以内にユーザーのリテンション率を10%向上させる
市場での競争力の強化とブランドの地位の向上
  • 次の2四半期で、製品の市場シェアを5%増加させる
  • 1年以内にブランド認知度を20%増加させる
  • 6ヶ月以内に競合他社との価格競争力を10%向上させる

さらに目的は、経営の現場営業の現場マーケティングの現場生産の現場開発の現場などの様々なレイヤーや業務の「〇〇の現場」の「お困りごと(問題)」を解決するために設定されます。

1つだけ例を示します。

顧客満足度の向上と長期的なビジネス成長の確保」というデータサイエンス・プロジェクトの目的を設定するに際し、例えば現場では以下のような「お困りごと(問題)」が起こっていました。

  1. 顧客離反率の問題:これは、顧客がサービスや製品を使用するのを止め、競合他社の製品やサービスに移行する傾向が高いという問題です。製品の品質、価格、顧客サービス、ブランドの評判など、さまざまな要因によって引き起こされていました。
  2. 新規顧客獲得の問題:これは、新しい顧客を引き付けるのが難しいという問題です。市場の飽和、競合他社との競争、効果的なマーケティング戦略の欠如など、さまざまな要因によって引き起こされていました。
  3. 売上の伸び悩み問題:これは、ビジネスの収益が停滞または減少しているという問題です。市場の変化、顧客の需要の変化、製品のライフサイクル、経済状況など、さまざまな要因によって引き起こされていました。
  4. ビジネスの持続可能性の問題:これは、ビジネスが長期的に存続し、成長し続けることが難しいという問題です。財務の問題、経営戦略の問題、市場の変化、技術の進歩など、さまざまな要因によって引き起こされていました。

要は……

  • 顧客離反率の問題
  • 新規顧客獲得の問題
  • 売上の伸び悩み問題
  • ビジネスの持続可能性の問題

……というお困りごと(問題)」に対し、次のようなデータサイエンス・プロジェクトの目的を設定し……

顧客満足度の向上と長期的なビジネス成長の確保

……その目的のために、次のようなデータサイエンス技術で達成すべき目標を設定した、ということです。

  • 顧客の離反率を20%減少させる
  • 次の四半期までに顧客満足度を85%に向上させる
  • 1年以内にリピート購入率を15%増加させる

要は、お困りごと(問題)ドリブンということです。

今回のまとめ

今回は、「上手くいかない『データサイエンス・プロジェクト』に共通する『目的があるのに目標がない』という怪奇現象」というお話しをしました。

データサイエンス・プロジェクトは複雑になると上手くいかなくなるようです。

プロジェクトが複雑になる共通するのが……

  • 不明確な目標設定
  • 大規模なスタート
  • 一度に完璧な解決策を求める
  • 手作業の過度な依存
  • 不適切なツールの使用

……などがあげられます。

これらを避けるために、例えば以下のアプローチをとるといいでしょう。

  • 明確な目標設定
  • スモールスタート
  • 反復的なプロセス
  • 自動化
  • 適切なツールの選択

ことはじめは「明確な目標設定」です。

最近目にするのが、「目的があるのに目標がない」という状況です。

そのことがプロジェクトの失敗につながります。

目標設定にはSMART原則(具体的、測定可能、達成可能、関連性がある、時間制限がある)を用いるといいでしょう。

これにより、プロジェクトの範囲を管理しやすくし、問題が発生した場合のトラブルシューティングも容易になります。

要は、プロジェクトをシンプルに保ち、明確な目標を設定し、小さな範囲から始めることが重要です。