第402話|診断的分析で「なぜ」を解き明かす! 次の一手に向けたデータの深掘り

第402話|診断的分析で「なぜ」を解き明かす! 次の一手に向けたデータの深掘り

ビジネスにおけるデータ分析の重要性が増す中で、記述的分析(Descriptive Analytics)は、過去のデータから「何が起こったか」を理解するための基礎的なアプローチとして広く認識されています。

しかし、「なぜそれが起こったのか?」という問いに答えるためには、さらに一歩踏み込んだ診断的分析(Diagnostic Analytics)が必要です。

今回は、診断的分析の基本的な概念と手法を紹介し、どのようにしてデータの裏に潜む要因を探り、ビジネスに有用な洞察を得ることができるのかをお話しします。

これにより、単なる事実の把握から、次なる意思決定を支える深い分析へと進化するきっかけになることでしょう(たぶん)。

診断的分析の基本手法

診断的分析(Diagnostic Analytics)は、データの表層に留まらず、より深く「なぜそれが起こったのか?」という問いに答えるための手法を駆使します。

 因果関係の探索

データの相関関係は因果関係を示すものではありませんが、診断的分析では因果関係を特定することが重要です。

因果関係を特定するためには、次のような手法が有効です。

実験デザイン

  • ランダム化比較試験(RCT)は、因果関係を明確にするための強力な手法です。
  • 特定の要因が結果にどのように影響を与えるかを検証するために、対象をランダムに分けて異なる処置を施し、結果を比較します。

疑似実験

  • 実際の実験が難しい場合、自然発生的な出来事や政策変更を利用して擬似的な実験を行うことがあります。
  • 差分の差(Difference in Differences: DiD)や回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design: RDD)などの手法がこれに該当します。

 相関分析と因果分析

相関分析は、2つ以上の変数間の関係性を探る際に使用されますが、相関があるからといって必ずしも因果関係があるわけではありません。

診断的分析では、単なる相関ではなく、因果関係を明確にするための手法が重要です。

多変量回帰分析

  • 変数間の関係性を明らかにするために、多変量回帰分析を使用します。
  • これにより、他の変数の影響をコントロールしながら、特定の要因が結果に与える影響を評価できます。

因果推論手法

  • 傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching: PSM)や逆確率重み付け(Inverse Probability Weighting: IPW)などの手法を用いることで、処置と結果の間の因果関係を推定することが可能です。
  • 他にも、因果探索アルゴリズムや、構造化モデル、機械学習を活用したものなど、因果を関係をデータで推論するための手法があります。

因果推論と言っても、データから見えてくるのも因果のようなものが、何となく見えてくるだけです。厳密な因果ではないことに気を付けましょう。

人の解釈が最終的にものを言います。

 データ分割(層別)と比較分析(ABテストなど)

データ全体を一括で分析するのではなく、セグメントごとに分割して比較することも診断的分析の有効な手法です。

これにより、異なるグループや条件下での結果の違いを検証することができます。

サブグループ分析

  • 例えば、顧客データを年齢や地域、購入頻度などの属性で分割し、それぞれのグループでの結果を比較します。
  • これにより、全体のデータでは見えなかった特定のトレンドやパターンを明らかにできます。

A/Bテストの拡張

  • 典型的なA/Bテストをさらに拡張し、複数の変数や条件を組み合わせて検証することも可能です。
  • これにより、より複雑な要因の組み合わせが結果に与える影響を詳細に分析できます。

診断的分析のプロセス

診断的分析(Diagnostic Analytics)は、単にデータを分析するだけでなく、その結果を理解し、問題の原因を特定するための体系的なアプローチが求められます。

 Step 1. データ収集と前処理

診断的分析の第一歩は、適切なデータを収集し、それを分析可能な形に整えることです。

データ収集

  • 分析の目的に合ったデータを収集します。
  • 欠損データや異常値などを特定し、データの状態を確認します。
  • 必要に応じて、データを追加で収集します。

データクレンジング

  • 利用できるデータ、変数、レコードなどを検討します。
  • 必要があるば、欠損値の補完、異常値の処理、データ型の統一などを行います。

データ変換

  • 分析に適した形式にデータを変換します。
  • 具体的には、正規化、スケーリング、カテゴリー変数のエンコーディングなどを行います。

 Step 2. 仮説の立案と検証

診断的分析では、データを用いて特定の仮説を検証することが重要です。

仮説の立案

  • ビジネス上の問題に対して、可能性のある原因や要因を基に仮説を設定します。
  • 例えば、「売上が減少した原因は特定の商品カテゴリーの価格設定にある」など、具体的な仮説を立てます。

検証の準備

  • 仮説を検証するために、適切な分析手法やモデルを選択します。
  • 相関分析や回帰分析、因果推論など、仮説に適した手法を決定します。
  • 必要があれば、新たにデータを収集します。

仮説の検証

  • 選択した手法を用いてデータを分析し、仮説が正しいかどうかを検証します。
  • 結果が仮説と一致するか、または新たな洞察が得られるかを確認します。

 Step 3. 分析結果の解釈と報告

仮説検証の結果を解釈し、ビジネスの意思決定に役立つ形で報告することが、診断的分析の最終ステップです。

結果の解釈

  • 分析結果が示す意味を深く理解します。
  • 単なる数字の羅列ではなく、ビジネス上のインサイトを得るほど深堀りします。
  • 例えば、「価格設定の変更が特定の顧客層に大きな影響を与えている」など、結果を具体的に解釈します。

レポート作成

  • 結果をビジネス関係者に伝えるために、わかりやすいレポートを作成します。
  • 図表やグラフを活用し、結果を視覚的に伝えやすくすることが重要です。

アクションプランの提案

  • 分析結果に基づいて、具体的なアクションプランを提案します。
  • 例えば、「価格戦略の見直しを行い、特定の商品カテゴリーの価格を再設定する」といった、次に取るべき施策を提示します。

このプロセスでは、分析結果をどのように解釈し、伝えるかが鍵となります。そして、単なる結果ではなく必ずアクションまで提示しましょう。

ビジネス応用事例

診断的分析(Diagnostic Analytics)は、単にデータを理解するだけでなく、ビジネスにおける意思決定に直接役立つ洞察を得るための強力なツールです。

診断的分析が実際のビジネスシーンでどのように活用され、具体的な成果を生み出したのか、いくつかの事例を通じて紹介します。

 事例1. 顧客離反の原因分析

あるEコマース企業では、顧客の離反率が増加していることが問題となっていました。

記述的分析により、特定の期間に顧客がサイトを利用しなくなる傾向があることはわかりましたが、その原因は明らかではありませんでした。

そこで診断的分析を実施し、以下のステップを踏んで原因を特定しました。

データ収集と前処理

  • 顧客の購買履歴、サイト利用状況、カスタマーサポートへの問い合わせ履歴など、多岐にわたるデータを収集しました。
  • 特に、離反顧客と継続顧客の違いに注目しました。

相関分析と因果推論

  • 相関分析により、特定の商品の購入後に離反率が高まることが判明しました。
  • さらに、因果推論を適用して、特定のプロモーションが期待した効果を上げず、逆に顧客の不満を引き起こしていた可能性が示されました。

結果の解釈と対策

  • 分析の結果を基に、プロモーション内容を見直し、顧客サポートの対応を強化することで、離反率の改善に成功しました。
  • この結果、離反率は3ヶ月で20%減少し、顧客のロイヤルティが向上しました。

 事例2. 生産工程のボトルネック分析

製造業において、生産ラインの効率化は競争力向上の鍵となります。

ある自動車部品メーカーでは、生産速度が予想よりも遅く、納期に遅れが生じていました。

診断的分析を用いて、どの工程がボトルネックとなっているかを特定することが求められました。

データ収集と前処理

  • 各工程の生産速度、機器の稼働時間、メンテナンス履歴などのデータを収集しました。
  • 特に、異常が発生している可能性のあるデータに注目しました。

サブグループ分析

  • 生産工程を細かく分け、それぞれの工程での生産速度を比較しました。
  • 特定の時間帯やシフトで生産速度が著しく低下していることが明らかになりました。

因果分析と改善提案

  • さらに分析を進めると、特定の機器が頻繁に停止していることがボトルネックの原因であることが判明しました。
  • この機器のメンテナンスサイクルを短縮し、オペレーターのトレーニングを強化することで、生産速度の回復が実現しました。
  • 結果として、納期遵守率が15%向上し、コスト削減にも繋がりました。

 事例3. マーケティングキャンペーンの効果検証

ある大手小売業では、新製品の発売に伴い大規模なマーケティングキャンペーンを展開しましたが、売上が期待を下回る結果となりました。

そこで、診断的分析を用いてキャンペーンの効果を再検証しました。

データ収集と前処理

  • キャンペーンに参加した顧客の購買データ、広告接触履歴、SNSでの反応など、さまざまなデータを統合しました。

多変量回帰分析

  • 複数の要因を考慮し、どの要因が売上に最も影響を与えたかを分析しました。
  • その結果、特定の広告チャネルが目標とするターゲット層に届いていなかったことが判明しました。

結果の解釈とアクションプラン

  • 分析結果に基づき、ターゲティング戦略を見直し、特定のチャネルへの投資を削減することで、より効果的なマーケティング施策を展開しました。
  • この結果、次のキャンペーンでは売上が30%増加し、ROIも向上しました。

今回のまとめ

今回は、「診断的分析で『なぜ』を解き明かす! 次の一手に向けたデータの深掘り」というお話しをしました。

診断的分析は、ビジネスの問題を根本から解決し、データに基づいた意思決定を支える重要な手法です。

これにより、過去のデータから「なぜ?」を明らかにし、再発防止や戦略立案に繋がる具体的な洞察を得ることができます。

組織全体でデータの重要性を認識し、診断的分析を活用する文化を醸成することで、より良い意思決定が可能になります。

さらに、AIや機械学習の導入、クロスファンクショナルなチームの構築によって、分析の精度と効果を高めることができます。

診断的分析の限界を認識しつつ、未来志向の分析手法と組み合わせることで、より包括的なビジネス戦略を構築できるでしょう。

データを活用し、未来を見据えた意思決定を行うことで、ビジネスの成功をさらに確実なものにしていきましょう。