第415話|大手スーパーを辞めて挑戦 ー 八百屋の未来を創るデータ活用術

第415話|大手スーパーを辞めて挑戦 ー 八百屋の未来を創るデータ活用術

「また今日も大根が品切れか…」

「この季節商品、売れ残りそうだなぁ」

毎日の商いの中で、こんな悩みを抱えていませんか?

住宅街の駅前で八百屋「よろずや青果店」(仮名)を営む田中誠一さん(仮名)も、同じ悩みを抱えていました。

大手スーパーの青果部門で15年。

その経験を活かして開業した個人店でしたが、売上が伸びる一方で、品切れと廃棄ロスの問題が深刻化。

そんな時、何気なく見たPOSレジの売上データが、転機となります。

「えっ、キャベツってこんなに売れてるの!?」

「この商品、意外な時間帯で動いてる…」

普段何気なく記録される売上データの中に、実は「お店の真実」が隠れていたのです。

特別な道具も必要ありません。 難しい分析手法も必要ありません。

毎日の売上データを、ちょっと違う角度で見てみるだけで、 お店の課題が見えてきます。

今回は、私が中小企業診断士として支援した、街の八百屋の商売とデータ活用を両立させた、田中さんのお店の取り組みをご紹介します。

「うちは小さな店だから…」

「パソコンは苦手だし…」

そんな声が聞こえてきそうですが、ご安心ください。 田中さんも、最初は素人でした。

日々の商いの中で少しずつ実践していったことを、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。

創業時のお話し 〜八百屋をあきらめない〜

「八百屋は斜陽産業です。それでも、まだ始めますか?」

2019年春、創業相談に訪れた金融機関で、田中誠一さんは静かにうなずきました。

「はい。むしろ、だからこそ始めたいんです」

日本の八百屋の数は、過去数十年で大幅に減少。

大手スーパーの攻勢や後継者不足で、毎年のように街から個人商店が消えていきます。

それでも田中さんには「捨てられない夢」がありました。

 スーパーで見た現実

15年間勤めた大手スーパーの青果部門。

バイヤーから売場責任者まで経験した田中さんは、「効率化」の光と影を誰よりも知っています。

「確かにスーパーは便利です。品揃えも豊富だし、価格も安定している。でも、何かが足りない。」

例えば、こんな光景が日常的でした。

お客様)「この小松菜、どう調理したらいいですか?」
店員)「すみません、よく分からなくて...」
お客様)「イチゴが硬いんですけど、これって甘いですか?」
店員)「申し訳ありません、試食ができないので...」
お客様)「この農薬の使用量は?」
店員)「産地名しか情報がなくて...」

効率化の中で失われていく「対話」。 規模拡大の中で薄れていく「専門性」。

「このままでいいのだろうか」

その思いは、ある出来事をきっかけに決定的になります。

 転機となった一言

ある日の夕方、常連客の高齢のお客様から声をかけられました。

「田中さん、昔はねぇ、八百屋さんが目利きになってくれたのよ。今日はこれが美味しいって。で、それが本当に美味しかった」

「今は値段と見た目で選ぶしかない。でも、本当はそうじゃないのよね」

その言葉が、田中さんの背中を押しました。

 新しい八百屋の可能性

確かに、時代は変わりました。

でも、本当に必要なものは変わっていないのではないか。

  • 目利きのプロとしての専門性
  • 食の安全・安心への責任
  • 対話から生まれる信頼関係

むしろ、今だからこそ求められているもの。

それは、スーパーでの経験が教えてくれました。

同時に、時代の変化も見逃せません。

  • 食の安全への関心の高まり
  • 個食化による少量販売ニーズ
  • 調理方法を知りたい若い世代
  • コロナ以降の近所購買の定着

「伝統的な八百屋の良さと、現代のニーズに応える新しさ。その両立ができれば、まだまだ可能性はある」

そう考えた田中さんは、妻で栄養士の美咲さん(仮名)と二人三脚で準備を始めます。

 小さな一歩を踏み出す

開業資金は2,000万円。

店舗は駅前の元クリーニング店を改装。

仕入れルートは、スーパー時代の繋がりを活かして。

「よろずや青果店」は、そんな小さな一歩から始まりました。

でも、その一歩を踏み出したことで、思わぬ発見がありました。

それは、「データの力」でした…。

よろずや青果店の挑戦 〜こだわりの商いを形にする〜

「えっ!? 野菜を選ぶのに30分も?」

開店から2ヶ月。田中さんの仕入れ作業を見てびっくりしました。

「そりゃそうですよ。うちは『目利き』が命ですから」

毎朝4時半。市場で仕入れる野菜や果物は1品1品、手に取って確認します。

甘みの乗り具合、みずみずしさ、追熟の可能性…。

 小さな店の、大きな強み

■仕入れの基本方針
・契約農家(5軒)から旬の野菜を直接仕入れ
・市場では「本日のおすすめ品」を厳選
・規格外品は加工用として活用

スーパーでは実現できなかった「こだわり」。

それを形にするため、田中さんは3つの柱を立てました。

プロの目利きを活かす

  • 産地や収穫時期による味の違いを把握
  • 保管方法による鮮度の変化を予測
  • お客様の用途に合わせた提案

栄養士の知識を商品に

元保育園の管理栄養士だった美咲さんのアイデアで、新しい取り組みも。

人気メニューBEST3
①時短・一人暮らし応援セット
  - 少量パック野菜
  - カット済みサラダミックス
  - みそ汁セット

②栄養バランス野菜セット
  - 週替わり献立付き
  - 2-3人家族向け
  - 保存方法説明付き

③お手軽おばんざい
  - 規格外品を活用した惣菜
  - 1品200円均一
  - レシピカード付き

情報提供の徹底

商品POPの3つの約束
・産地・生産者情報
・栽培方法の説明
・おすすめの調理法

 お客様の声が教えてくれたこと

こだわりの商品と丁寧な接客。

その評判は徐々に広がり、開店から半年で固定客も増えてきました。

特に印象に残っている声を、田中さんは教えてくれました。

【30代主婦】
「スーパーだと不安だった野菜の目利き、
ここなら安心して任せられます」
【70代男性】
「妻が入院中で料理を始めたんです。
野菜の切り方から教えてもらって助かります」
【20代OL】
「インスタ見て来ました!
カット野菜セットがすごく便利です」

 しかし、課題も見えてきた

売上は順調に伸び、評判も上々。

しかし、5ヶ月を過ぎたころから、新たな問題が浮上してきました。

■日々の悩み
・夕方の品切れが頻発
・季節商品の在庫が余る
・人気商品の発注量が読めない
・廃棄ロスが増加傾向

「『お客様の声』は聞こえてくる。でも『お店の実態』が見えない…」

毎日、直感で判断する発注量。スタッフの経験と勘に頼る在庫管理。

■数字で見る課題
・品切れ:平均20品目/日
・廃棄ロス:売上の約5%
・機会損失:推定月20万円

「このままじゃ、せっかくの『こだわり』も台無しだ」

そんな時、田中さんは何気なくPOSレジの画面を見ていました…。

POSレジに溜まるようなデータで何にかできないか、でも何をすればいいのか分からない……

ということで、データ活用の専門家であり中小企業診断士である私に、知り合いを通じて相談が来ました。

 データとの出会い

「えっ、こんな情報が入っていたの!?」

毎日何気なく記録していた売上データ。

その中に、思わぬ「お宝」が眠っていました。

POSレジで分かったこと
・商品別の売上推移
・時間帯別の販売数
・天候と売上の関係
・客層の変化

「これを活用すれば、もしかしたら…」

その「ひらめき」が、よろずや青果店を大きく変えることになります。

直面した壁 〜データとの出会い〜

「へぇ、キャベツって火曜日によく売れるんだ…」

ある日の夜、POSレジのデータと向き合っていた田中さん。

何気なく見ていた売上データの中に、思わぬ発見がありました。

「そういえば、近所の保育園、火曜日が野菜炒めの日なんだ」

 気づきのきっかけ

発見のきっかけは、単純な疑問からでした。

■悩んでいた3つの課題
・毎週金曜の大根が品切れ
・雨の日の売上変動が読めない
・季節商品の在庫が合わない

「どうにかしなきゃ」

そう思って見始めたPOSレジの画面。

最初は、ただの数字の羅列に見えました。

でも、よく見ると…。

【データの中の発見】
・大根は金曜午後3時までに売り切れ
・雨の日は葉物野菜の売上が1.5倍
・みかんは12月第2週がピーク

「もしかして、パターンがあるのかも?」

 手探りの分析開始

最初は、エクセルも使わず、メモ用紙に書き出すところから。

■始めた「小さな」工夫
・毎日の売上TOP10をメモ
・時間帯別の販売数をチェック
・天気と売上の関係をノート

すると、少しずつ「お店の実態」が見えてきました。

ここがポイントです。

エクセルだのツールだのと考えると荷が重くなります。

データ活用は、手書きのメモから始めても問題ありません。

 見えてきた3つのパターン

曜日による変化

月曜:節約志向の買い物が多い
火曜:近隣施設の大口購入
水曜:定休日
木曜:夕方の来客が多い
金曜:まとめ買いのピーク
土日:家族連れ中心

時間帯による変化

9-11時:シニア層、少量購入
11-14時:主婦層、計画購入
14-16時:比較的すいている
16-19時:帰宅途中の買い物

天候による変化

晴れ:通常パターン
雨:葉物・カット野菜増加
曇り:平均的な動き
台風前:まとめ買い急増

 予想外の発見も

データを見ていくと、思わぬ発見もありました。

「売れ筋」の思い込み

人気だと思っていた大玉トマト
実は、中玉の方が売上2倍

「定番」の誤算

きゅうりは安定商品のはず
実は、季節で売上が3倍の差

「常連」の習慣

午前中のシニア客
実は、野菜より果物を購入

 変化の兆し

単純なメモ書きから始めた「データ観察」。

1ヶ月ほど続けていると、スタッフからも変化の声が。

パート藤井さん(58歳)
「最近、在庫の並び替えが楽になった。
 売れる商品が分かってきたから」
パート山田さん(65歳)
「お客様の『いつもの』が
 なんとなく予測できるように」

 次の課題

しかし、新たな課題も見えてきました。

記録の手間

  • 毎日のメモ作成が大変
  • 紙のメモは検索できない
  • 傾向を把握しにくい

情報の共有

  • スタッフ全員で共有したい
  • 目で見て分かる形にしたい
  • 誰でも使える仕組みに

活用方法

  • データをどう発注に活かす?
  • 在庫管理にどう組み込む?
  • 無駄な作業は省きたい

「もっと簡単に、もっと活用できないか…」

そんな感想を抱き、田中さんは次のステップに進みました。

 データ初心者の心得

■データ活用の3つの基本
・小さく始める
・続けられる方法を選ぶ
・目的を絞り込む

Point!

  • 完璧を目指さないこと。
  • まずは「気づき」を大切に。

実践編 〜売上データの活用法〜

「まずは、これだけ見てみませんか?」

新しく入ったパートさんに、田中さんが見せたのは、A4用紙1枚の表でした。

■今日のチェックポイント
①昨日のTOP5商品の在庫状況
②明日の天気予報と仕入れ調整
③週末に向けた注目商品

「特別なことは何もありません。この3つを見るだけで、お店の『今』が分かってきますよ」

 シンプルなことから始める

データ活用と聞くと難しく感じるかもしれません。

でも、田中さんが実践したのは、とてもシンプルな方法です。

次の「3つの表」を作りました。

  • 商品ランキング表
  • 時間帯別の動き
  • 週間カレンダー

商品ランキング表

■作り方
①POSレジの売上データを見る
②商品別の売上を並べ替え
③TOP20まで書き出す
※毎日5分で完了

■活用方法
・定番商品の把握
・季節変化の確認
・仕入れ量の調整

時間帯別の動き

■作り方
①時間帯を4つに区分
 (朝・昼・夕方前・夕方)
②各時間の売上パターンをメモ
③特徴的な動きをチェック
※週1回15分で更新

■活用方法
・品出しのタイミング
・スタッフの配置
・セール時間の設定

週間カレンダー

■作り方
①1週間の予定表を作成
②天気予報をチェック
③地域の行事をメモ
※前週末に10分で作成

■活用方法
・仕入れ量の調整
・特売品の設定
・スタッフシフト

 活用の実際

これらの表を使って、具体的にどう活用するのか。

実例を見ていきましょう。

【事例1:品切れ対策】

Before:金曜の大根が毎週品切れ

対策:
①時間帯別の販売数チェック
②金曜は通常の1.5倍仕入れ
③午後2時に在庫確認

After:
・品切れがほぼ解消
・廃棄も出ていない

【事例2:天候対応】

Before:雨の日は売上が読めない

対策:
①天気と売上の関係をメモ
②雨の日の人気商品リスト作成
③傾向に合わせた仕入れ調整

After:
・葉物野菜の廃棄半減
・カット野菜の売上1.5倍

【事例3:季節商品管理】

Before:みかんの在庫が余る

対策:
①昨年の売上データ確認
②週単位での販売計画
③ピーク時期の特定

After:
・在庫回転率が改善
・値引きロスが減少

 商品管理の新しい形

データを見始めて3ヶ月。

田中さんは商品を4つのグループに分類するようになりました。

■商品グループと管理方針

【Aランク:必須商品】
・キャベツ、玉ねぎなど
・毎日の売上確実
・在庫切れ厳禁
→毎日チェック

【Bランク:定番商品】
・にんじん、じゃがいもなど
・安定した売上
・適正在庫維持
→2日に1回チェック

【Cランク:季節商品】
・トマト、なすなど
・季節で変動大
・こまめな調整
→週1回見直し

【Dランク:特殊商品】
・珍しい果物、特売品など
・売上予測難
・少量仕入れ
→都度判断

 具体的な運用方法

「理屈は分かった。でも、実際どうするの?」

具体的な手順をご紹介します。

1日の流れ

朝:
・前日TOP5の在庫確認
・天気予報チェック
・仕入れ量の最終調整

昼:
・時間帯別の売上確認
・Aランク商品の在庫確認
・品出しタイミングの調整

夕方:
・夕方向け在庫の確認
・翌日の仕入れメモ
・天気予報の再確認

閉店後:
・その日のTOP10記録
・特徴的な動きをメモ
・翌日の準備

週間の管理

月曜:週間計画の確認
火曜:Bランク商品チェック
水曜:定休日
木曜:週末在庫の準備
金曜:特売品の設定
土日:繁忙期対応

 スタッフとの共有

データは「見える化」して初めて活きてきます。

田中さんは、以下の方法で情報共有を図っています。

■共有の3つの工夫

1. 朝礼での確認
・本日のTOP5
・注目ポイント
・天候の影響

2. バックヤードの掲示
・週間カレンダー
・商品ランキング
・時間帯別の動き

3. 夕方ミーティング
・翌日の準備
・気づきの共有
・改善ポイント

 続けるためのコツ

■田中さんの3つの心得

1. シンプルに保つ
・必要最小限の項目
・手書きでもOK
・分かりやすさ重視

2. 全員で共有
・スタッフの意見を聞く
・改善点を話し合う
・成果を共有

3. 柔軟に改善
・やりづらい部分は変える
・効果が薄ければ中止
・現場の声を大切に

だんだんややこしくなってきているように見えますし、ここまでできるのか、と思った方もいることでしょう。

大丈夫です。最初はシンプルなことから始めます。

徐々に田中さんのお店のような感じになってきます。徐々にです。

 エクセルがなくても大丈夫!

  • 手書きでも十分効果あり!
  • 大切なのは「継続」と「活用」
  • 慣れてきたら少しずつデジタル化

変化の実感 〜数字と声が教えてくれたこと〜

「田中さん、最近お店の雰囲気が変わりましたね」

データ活用を始めて3ヶ月。

常連のお客様からそんな声をかけられました。

「どう変わりました?」

「なんていうか…欲しい物が、いつでもある感じ?」

田中さんは思わず笑みがこぼれました。

地道な取り組みが、少しずつ形になってきたのです。

 数字で見る変化

まずは、具体的な成果を数字で見てみましょう。

■3ヶ月後の変化
(データ活用前との比較)

【廃棄ロス】
Before:売上の5.2%
After:3.8%
削減額:月約8万円

【品切れ回数】
Before:20品目/日
After:8品目/日
改善率:60%

【労働時間】
Before:13時間/日
After:11.5時間/日
削減時間:月約45時間

【売上高】
Before:100(指数)
After:105
※利益率も2ポイント改善

 現場の声

数字以上に大切なのは、現場で感じる変化です。

スタッフの声を聞いてみました。

パート藤井さん(58歳)

「前は毎日、在庫確認に追われていました。
今は『次に何が必要か』が分かるので、
先回りした準備ができます。

特に助かるのは、天気予報との連動。
雨の日は葉物が売れる、晴れの日は
果物が動く、といった感覚が
自然と身についてきました」

パート山田さん(65歳)

「お客様との会話に余裕が出ました。
在庫の心配が減った分、調理方法や
保存方法のアドバイスに時間が
取れるようになりましたね。

特に、『今週のおすすめ』は
お客様との良い話題になります」

 お客様の反応

お客様からも、うれしい声が届くようになりました。

【30代主婦】
「夕方に来ても品揃えが充実。
特に葉物が切れていないのが助かります」

【70代男性】
「今日のおすすめ、いつも参考にしてます。
季節の変わり目も、何を買えばいいか
分かりやすい」
【20代OL】
「カット野菜、品切れが減りましたよね。
仕事帰りに寄るのが習慣になりました」

 予想外の効果

データ活用を始めて、思わぬ効果も現れてきました。

スタッフの成長

■変化のポイント
・数字への関心が高まる
・先を読んだ行動が増える
・お客様との会話が深まる

「なぜ」を考えるクセが
自然と身についてきた

お客様との関係深化

■会話の変化
・季節の話題が増える
・調理方法の相談が増える
・リピーター化が進む

データを基にした
コミュニケーションの充実

仕入先との関係改善

■取引の変化
・発注の安定化
・納品時間の調整
・情報交換の活性化

信頼関係の構築に
データが役立っている

 新たな課題

一方で、新しい課題(理想と現実のギャップ)も見えてきました。

さらなる効率化への期待

■検討中の取り組み
・スマホでの情報共有
・自動発注の一部導入
・データのグラフ化

季節変動への対応

■準備すべきこと
・年間データの蓄積
・イベントカレンダー作成
・気象データとの連動

商品開発への活用

■アイデア段階
・客層別の需要分析
・新商品の売れ行き予測
・カット野菜の品目拡大

ネガティブな課題ではなく、未来に向けたワクワクする課題です。

 田中さんの新たな「夢」

データ活用を通じて、田中さんの中に新しい夢が芽生えてきました。

「個人商店だからこそできる、きめ細かなサービス。それを、データの力でさらに磨いていきたい」

■次の目標
・廃棄ロス2%台へ
・品切れゼロの実現
・新規サービスの開発

で、どうなった?

夕暮れ時のよろずや青果店。
レジ横には「本日のおすすめ」の手書きPOP。
その横には、シンプルな売上データのグラフ。

「この組み合わせが、うちの特徴かもしれませんね」

田中さんは、そう笑顔で話します。

 データは「判断の道具」

半年間のデータ活用を経て、田中さんは一つの結論に達しました。

「データは、あくまでも『道具』なんです」

■データ活用の本質

×:データに振り回される
×:数字だけを追いかける
×:効率だけを求める

〇:判断の後押し
〇:経験値の裏付け
〇:お客様理解の手段

 データと経験の嬉しいコラボレーション

プロの目利き

■市場での仕入れ
データ:売れ筋商品の把握
経験:味と品質の判断
↓
両方を活かした仕入れ

お客様との会話

■接客時の工夫
データ:商品提案の根拠
経験:個別ニーズの把握
↓
より深い信頼関係

季節感の演出

■売場づくり
データ:売れ筋の把握
経験:旬の表現方法
↓
魅力的な売場作り

 個店だからできること

機動力を活かす

■すぐできる対応
・売れ行きに応じた仕入れ調整
・天候による品揃えの変更
・お客様の声の即日反映

チェーン店にはできない
スピーディな判断が強み

専門性を深める

■知識と経験の蓄積
・産地との直接対話
・調理方法の研究
・保存方法の工夫

データで裏付けられた
専門知識が説得力に

関係性を築く

■つながりの価値
・お客様との対話
・生産者との交流
・地域との連携

数字では測れない
価値を大切にする

 田中さんが描くこれからの八百屋像

データ活用を通じて見えてきた、データを活かした新しい八百屋の姿があります。

【商品】
・定番品の安定供給
・旬の商品の提案
・オリジナル商品の開発

【サービス】
・レシピ提案の充実
・保存方法のアドバイス
・産地情報の発信

【運営】
・効率的な在庫管理
・ムダのない仕入れ
・的確な売場作り

最後に、同じように悩む個人商店の方々へ、田中さんからメッセージです。

「特別なことは何もしていません。
 毎日の小さな気づきを
 大切にしただけです。

 難しく考えず、
 できることから始める。
 それが一番の成功の秘訣かも
 しれません。

 この記事を読んでくださった方の
 お店にも、きっと活かせる
 『当たり前の情報』が
 眠っているはずです。

 ぜひ、自分のお店なりの
 データ活用を
 見つけてください」

よろずや青果店のここ最近の動きです。

  • 若手スタッフの採用
  • SNSでの情報発信
  • 料理教室の開催

変化を恐れず、伝統を守りながら、新しい挑戦を続けています。

 データ活用の3つの心得

シンプルに始める

  • 必要最小限の項目から
  • できることから少しずつ
  • 無理なく続けられる方法で

現場感覚を大切に

  • データは判断材料の一つ
  • 経験則との組み合わせ
  • お客様の声に耳を傾ける

進化を続ける

  • 小さな改善の積み重ね
  • 新しい発見を大切に
  • チャレンジ精神を忘れずに

今回のまとめ

データ活用というと、「難しそう」「うちには関係ない」そんな印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

しかし、ご紹介した田中さんの取り組みは、特別なものではありませんでした。

POSレジの売上データを眺めることから始まった小さな気づきが、やがて店舗全体の改善へとつながっていきました。

手書きのメモから始めた記録は、廃棄ロスの削減や品切れの改善といった具体的な成果を生み出しました。

しかし、それ以上に大切な変化がありました。スタッフが自主的に考えるようになり、お客様との会話が深まり、仕入先との関係も良くなったのです。

田中さんが繰り返し述べていたように、データはあくまでも「道具」です。

大切なのは、お客様の笑顔や、スタッフとの会話、商品へのこだわり。データは、それらをより良くするための補助線なのです。

皆様の店舗にも、きっと活用できる「当たり前の情報」が眠っているはずです。

その可能性に気づくきっかけになれば幸いです。