「また今日も、お昼のラッシュで大パニック…」
「夕方はガラガラなのに、人が余ってる?」
「パートさんから『シフトが不規則で困る』って言われちゃった…」
駅前で24席のカフェ「おひさまコーヒー」を営む田中さん(仮名)は、毎日のシフト管理に頭を悩ませていました。
売上は順調なのに、なぜかスタッフみんな、なんか疲れている。
このままじゃいけない。でも、どうすれば?
そんな時、何気なく見ていたPOSレジの画面に、思わぬ「発見」が。
「えっ、火曜日の15時って、こんなに暇だったの!?」
「水曜日の朝は、意外と混んでる…」
特別な分析ソフトも必要ありません。難しい計算も必要ありません。普段何気なく記録している売上データの中に、実は「シフト改善のヒント」が隠れていたのです。
今回は、私が中小企業診断士として支援した、小さなカフェが取り組んだ「データ活用」の事例を、できるだけ物語風でご紹介。
人手不足に悩む飲食店の皆様に、すぐに始められる改善のヒントをお伝えします。
「うちみたいな小さな店でも、できるのかな…」
そんな不安は無用です。田中さんも、最初は「データなんて」と思っていました。でも、始めてみたら意外と簡単。
しかも、こんな効果が……
- 人件費率が35%→30%に改善
- パートさんの定着率アップ
- お客様の待ち時間が半減
データ分析の経験がなくても大丈夫。
売上の数字を「違う角度」で見てみるだけで、新しい発見があります。
Contents
きっかけは「人が足りない」の一言
「田中さん、このシフトじゃ、もう限界です」
ベテランパートの山田さんから、そう告げられたのは2023年の春のこと。
駅前のカフェ「おひさまコーヒー」を営む田中誠一さん(42歳)は、その言葉に胸が詰まりました。
「確かに、このままじゃマズイ…」
お店の状況
【基本データ】 場所:東京都内の私鉄駅前 席数:24席(カウンター6席、テーブル18席) 営業時間:8:00-20:00 定休日:水曜日 スタッフ:社員2名、パート6名程度 客単価:850円
抱えていた3つの課題
課題1:時間帯による波が激しい
【特に困っていた時間帯】 朝8:00-10:00:出勤客の波 昼11:30-14:00:ランチの大混雑 夕方17:30-18:30:帰宅客の波
「一日の中でも、これだけ波があるんです。でも、その対応が後手後手に…」(パートさん談)
課題2:人員配置の難しさ
【シフトの課題】 ・朝と夕方は1人体制 ・昼休憩が取れない日も ・突然の欠勤に対応できない
「昼休憩の時間帯、キッチンもホールも大パニック。でも、他の時間は暇だったり。この差が激しすぎるんです」(パートさん談)
課題3:スタッフの不満が増加
【よく聞かれた声】 ・「シフトが不規則で生活が乱れる」 ・「忙しい時は忙しすぎる」 ・「暇な時間が苦痛」
限界を感じていた日常
ある平日の様子です。
朝8時
状況:出勤客の列 人員:早番1名 結果:待ち時間15-20分
昼12時
状況:ランチピーク 人員:3名体制 結果:オーダーミス続出
午後3時
状況:閑散 人員:2名体制 結果:スタッフの持て余し時間
夕方6時
状況:帰宅客の来店 人員:遅番1名 結果:オーダーストップも
転機は偶然から
課題は次々と表面化していきました。
- 人件費:売上の35%を超過
- 離職:半年で3名が退職
- 評判:SNSで待ち時間の苦情
田中さんは振り返ります。
「なんとなくシフトを組んで、忙しくなったら追加投入。暇になったら我慢。この場しのぎの対応を繰り返していました」
ある日、閉店後の売上集計中、POSレジの画面をぼんやり眺めていた田中さん。
「あれ?火曜日の15時って、こんなに…」
何気ない「気づき」が、改革の第一歩となります。
POSレジに眠る「お宝データ」
「こんな情報が、ずっと目の前にあったなんて…」
閉店後のカフェで、POSレジの画面を見つめる田中さん。
毎日何気なく見ていた数字の中に、思わぬ発見がありました。
データとの出会い
きっかけは、何気ない疑問からでした。
「火曜日の午後、いつも暇だなぁ…」
そう思ってPOSレジの売上データを見てみると…。
【火曜15時台の1時間データ】 来客数:平均4名 売上高:平均3,400円 客単価:850円
「えっ、こんなに少ないの!?」
普段はなんとなく「暇そう」と感じていた時間帯。
実際の数字を見ると、想像以上に客足が少ないことが分かりました。
POSデータの基本
以下、POSレジで確認できる基本情報です。
- 時間帯別の売上
- 商品別の販売数
- 来客数の推移
- 客単価の変化
小さな工夫から
まずは簡単なことから始めました。
時間帯別の記録
日々の動きを数字で押さえることから始めました。記録は簡単なメモ程度から。初めは完璧を目指さず、続けることを重視しました。
【記録項目】 ・1時間ごとの来客数 ・売上金額 ・客単価 ・天気
気づきのメモ
数字だけでなく、現場の「感覚」も大切にしました。「感覚」を「記録」に残すことで、後から振り返った時のヒントになります。
【チェックポイント】 ・特に混んだ時間 ・待ち時間発生 ・スタッフの忙しさ ・お客様の声
週単位での振り返り
1週間分のデータをもとに、短時間でポイントを確認。毎週月曜の朝15分、これだけの振り返りから始めました。
【確認事項】 ・パターンの確認 ・予想外の動き ・スタッフの意見 ・改善アイデア
このような小さな一歩から、データ活用は始まりました。「とにかくやってみる」その積み重ねが、後の大きな改善につながっていったのです。
「最初は面倒くさいと思いました。でも、自分の『感覚』が『数字』で確認できるようになって、仕事が楽しくなりましたね」(パート佐藤さん)
見えてきた3つのパターン
時間帯による波
【平日の時間帯別来客数(1時間あたり)】 8-9時:18人 9-10時:12人 10-11時:8人 11-12時:15人 12-13時:32人 ←ピーク 13-14時:28人 14-15時:10人 15-16時:6人 ←最少 16-17時:9人 17-18時:16人 18-19時:14人 19-20時:8人
「ランチタイムとそれ以外で、これほどの差が…」(田中店長)
曜日による違い
【曜日別の特徴】 月曜:朝が特に混む 火曜:午後が閑散 水曜:定休日 木曜:比較的安定 金曜:夕方が混む 土日:昼過ぎがピーク
「曜日ごとに、こんなにはっきりとしたパターンが!」(田中店長)
天候の影響
【天気による変化】 晴れ:通常営業 雨 :来客数15%減 雪 :来客数30%減
意外な発見も
データを見ていくと、私たちの「当たり前」が、実は思い込みだったことが分かってきました。
「混んでる」の誤解
「夕方はすごく忙しい!」
そう感じていた17-18時台。確かに、バタバタとした雰囲気は否めません。
【体感と実態の差】 夕方17-18時 ・体感:とても忙しい ・実態:1時間12名程度 ※ランチタイムの3分の1
でも、実際の数字を見ると意外な事実が。来客数はランチタイムの3分の1程度なんです。
なぜ、これほど忙しく感じていたのか?
理由を探ってみると……
- 1人勤務が多い時間帯
- テイクアウトの注文が集中
- レジ作業と接客が重なる
- 商品の補充なども必要
つまり、お客様の数は多くないものの、1人当たりの作業量が多いことが「忙しさ」の正体でした。
「暇」の再定義
「この時間帯、いつも暇だよね…」
スタッフの間で”持て余し時間“と呼ばれていた14-16時。
【閑散時間帯の活用】 14-16時 ・従来:スタッフが持て余し時間 ・発見:仕込み最適タイム
ところが、この時間帯こそ、実は「宝の時間」だったんです。
なぜなら……
- お客様が少ないので集中作業が可能
- 夕方の準備に最適な時間帯
- スタッフ間の引き継ぎにもベストタイミング
- 新メニューの練習もできる
「効率」の新発見
時間帯による売上の違いも、想像以上でした。
【時間帯別の売上効率】 朝:客単価が低め(400円) → コーヒーとパンがメイン 昼:客単価が高め(1,200円) → ランチセットが人気 夕:客単価が中程度(800円) → スイーツとドリンクが中心
この発見から……
- 朝:回転率重視の商品配置
- 昼:セット商品の品揃え強化
- 夕:テイクアウトメニューの充実
など、時間帯に合わせた戦略が見えてきました。
「数字って、こんなことまで教えてくれるんですね」
スタッフの一人がつぶやいた言葉が、印象的でした。
この「意外な発見」を活かすため、私たちは小さな工夫から始めることにしました…。
このように、データは私たちの「思い込み」を覆し、新しい視点を与えてくれました。
データを活用したシフト改革
「まずは、これを見てください」
月曜の朝礼で、田中さんがスタッフに見せたのは一枚の表でした。
新しいシフト計画の始まり
この理想の人員配置表をもとに、本当にこれでいいのかを考えていきます。
具体的な改善策:データから見えた「3つの改革」
時間帯別の適正人数
「人が足りない」という声の裏には、時間帯によって全く異なる課題が隠れていました。
「とにかく大変」という漠然とした悩みを、時間帯別に分解してみると、具体的な対策が見えてきました。
業務の再配分
売上データを基に、時間帯別の忙しさを「見える化」。それを基に業務を再設計しました。
シフトの組み方改革
データ分析から、「急な変更」にも対応できる柔軟なシフト体制の必要性が見えてきました。
以下、従来の問題点です。
- 前月末に一括作成→直前の変更が困難
- 急な変更が多発→代替要員が見つからない
- スタッフの希望が反映されにくい→モチベーション低下
3段階シフト管理の仕組みを導入しました。
この新しい仕組みを導入してことで、次のようになりました。
- スタッフの満足度向上
- シフト調整の手間が減少
- 緊急時の対応がスムーズに
現場からの声と具体的な変化
山田さん(パート・5年目)の声です。
「以前は『次は何をすれば…』と常に考えていて疲れていましたが、今は次の動きが明確で余裕を持って仕事ができます」
以下、具体的な変化です。
【業務効率の向上】 ・準備時間:30分短縮 ・休憩取得率:65%→95% ・残業時間:月平均5時間減少
ただ、新たな課題も……
【実際に起きた事例】 ・土曜の雨天時に予想以上の来客→近隣イベントの屋内移動による ・シフト確定後の体調不良続出→インフルエンザの流行 ・季節メニュー投入時の人員不足→予想以上の人気による
変化の実感 〜数字と声が教える成功のポイント〜
改善効果(定量的)
データに基づくシフト管理を始めて3ヶ月。数字に表れた変化は予想以上でした。
人件費は売上比35%から30%へと改善。月額にして約15万円の削減効果が出ました。これは、繁忙時間帯への適切な人員配置と、閑散時間帯の効率的な人員活用が功を奏した結果です。
特に大きな変化が見られたのは休憩取得率。65%から95%まで改善し、特にピーク時の休憩が確実に取れるようになりました。これは作業の優先順位付けと、シフト間の引き継ぎがスムーズになったことが要因です。
残業時間も一人あたり月平均15時間から10時間へと削減。早め早めの準備と効率的な時間配分により、5時間の削減を実現できました。
数字以上に大きな効果は、スタッフの「ゆとり」が生まれたこと。心に余裕ができたことで、接客の質も自然と向上していきました。
想定以上の効果
スタッフの意識変化
佐藤さん(パート・2年目)の声です。
「数字を意識するようになってから、自分なりに工夫するようになりました。例えば、天気予報をチェックして、雨の日は傘立ての準備を早めにするなど」
【具体的な変化例】 ・売上データの自主的な分析 ・次回のシフトへの提案 ・新メニューのアイデア提供
チーム全体の成長
田中店長の声です。
「個々の意識が変わることで、チーム全体の雰囲気も良くなってきました。特に、スタッフ同士のフォロー体制が自然とできてきたのは大きな変化です」
成功のカギとなった情報共有の取り組み
データ活用の成功には、2つの重要な取り組みがありました。
情報共有の仕組み化
朝礼を15分間の「情報共有タイム」として再構築。売上目標(3分)、注意点(5分)、引き継ぎ(7分)と、時間を区切って実施しました。
長すぎず短すぎない15分という時間設定が、スタッフの集中力維持と記憶定着に効果的でした。特に、立ったままの気軽な雰囲気を大切にしたことで、全員が発言しやすい環境が生まれました。
スタッフ参加型の改善
毎週水曜の15時から1時間、定例ミーティングを実施。比較的お客様の少ない時間帯を選び、パートタイムのスタッフも参加しやすい環境を整えました。
出席できないスタッフのために、ボードを設置して事前に意見を書き込めるようにしました。また、前回の改善案の効果確認を必ず行い、PDCAサイクルを回すことで、提案が実際の改善につながる実感を共有できました。
これらの取り組みにより、月平均15件の改善提案が集まり、そのうち約70%が実際に実施されています。形式的な会議ではなく、全員が参加する「対話の場」を作ることで、自然と改善のサイクルが回り始めました。
今後の課題と対策案
改善の成果が見えてきた一方で、まだ取り組むべき課題も見えてきました。
大きな課題は「季節変動への対応」と「人材育成」の2点です。
季節変動については、特に夏季繁忙期の対応が急務です。7-8月は来客数が30%増加するため、人員を20%増やす計画を立てています。そのために、研修生の早期育成と応援体制の確立を進めています。また、突発的な雨天時の対応として、オンコール体制の整備と近隣店舗との協力体制も構築中です。
人材育成では、より長期的な視点での体制作りを目指しています。3ヶ月でスキル習得ができる新人研修プログラムを整備し、その後のマルチスキル習得計画へとつなげていきます。また、次世代のリーダー育成も平行して進め、持続可能な店舗運営を実現したいと考えています。
これらの課題に対しても、データを活用しながら、一つずつ解決していく予定です。
今回のまとめ
今回は、「小さなカフェの『売上データ』で実現した ムリ・ムダのないシフト作り」というお話しをしました。
「人手不足」「シフト管理」の課題に対して、POSレジの売上データを活用した改善事例をご紹介しました。特別な分析ツールは使わず、普段何気なく記録している売上データを少し違う角度で見ることで、大きな改善につながりました。
実際に3ヶ月の取り組みで、人件費率が5%減少し、休憩取得率は95%まで改善。さらに、スタッフの自主性が高まり、チーム全体の雰囲気も大きく変わりました。
重要なのは、データはあくまでも「判断の道具」だということ。数字に振り回されるのではなく、現場の声に耳を傾けながら、バランスの取れた改善を進めることが成功のポイントでした。
小さな一歩から始めた取り組みが、結果として大きな変化をもたらした事例として、皆様の店舗運営のヒントになれば幸いです。