近年、データ活用の重要性は企業規模を問わず高まりを見せています。
しかし、小規模企業にとってはリソースや専門知識の不足が壁となり、大規模企業のような高度なデータ分析を行うのは容易ではありません。
それでも、データを活用することで効率的な業務改善や売上の回復が実現可能です。
今回紹介するのは、地方の小規模家電修理会社ABC修理センター(仮名)がWebアクセスログを活用し、業績回復を達成した事例を紹介します。
この事例は、Google Analyticsなどの基本的なツールを活用し、顧客行動を深く理解することでどのように成果を上げたのかを明らかにします。
同様のやり方で、何んとかなる、よくある鉄板の方法です。
Contents
背景と課題の明確化
背景
ABC修理センターは地方で40年以上にわたり家庭用家電の修理を手掛けてきた家族経営企業です。
お父さまが創業し、現在は長男(大手家電メーカーを早期退職)と親子2名で業務を回しています。
主な顧客層は地元住民であり、冷蔵庫や洗濯機といった大型家電の修理を中心に事業を展開していました。
しかし、近年では家電の低価格化や新製品への買い替え志向の高まりによる購入時の設置需要に対し、修理し長く使い続ける志向の減退により修理需要が減少傾向にありました。
課題の浮き彫り
売上の減少が続く中、特に次のような課題が顕在化していました。
新規顧客の減少
- 長年のお得意様であるリピーター顧客の利用はあるものの、新たな顧客の流入が大幅に減少。
- リピーター顧客の高齢化により、先細りが目に見えている。
集客スタイルの変化
- 従来のチラシ配布や口コミに頼る方法では限界がある。
- コロナ禍後に活性化したデジタル化した競合他社に太刀打ちできなくなっていました。
ウェブサイトの効果が不明確
- 競合他所を真似、自社のウェブサイトを立ち上げ運用しているものの、上手くいっているように見えない。
- そもそも、どの程度集客や売上に寄与しているのか分からない。
訴求力の弱いコンテンツ
- ウェブサイトが単なる企業概要の説明になっている。
- 提供サービスの内容や魅力がウェブ上で十分に説明されていない。
- 訪問者の行動を促進する仕掛けが不足していた。
要は、ウェブサイトを立ち上げ集客に活かそうにも、単に立ち上がっただけで上手く行っておりませんでした。
データ活用への期待
これらの課題に対し、ABC修理センターではデータを活用した解決策を模索し始めました。
既に取得できている、ウェブアクセスログの分析を通じて、次の3つのことを目指しました。
訪問者行動の把握
どのページがどれだけ訪問されているか、また、どこで離脱しているかを理解する。
改善ポイントの特定
訪問者の行動データを基に、サイト構成やコンテンツの改善につなげる。
売上向上
最終的にウェブサイトを通じた問い合わせや修理依頼の増加を目指す。
分析手法とその結果
使用したツールとデータの収集
ABC修理センターでは、ウェブサイト立ち上げ時に組み込んだ無料のGoogle Analyticsを主なツールとして、ウェブサイト訪問者に関する次の指標を確認しました。
- ページビュー数(PV数):各ページがどれだけ閲覧されたか。
- 平均滞在時間:各ページでの訪問者の滞在時間。
- 離脱率:どのページで訪問者がサイトを離れたか。
- コンバージョン率:問い合わせフォームへの遷移率。
さらに、無料のGoogle Search Consoleも利用し、検索キーワード分析を通じて、訪問者がどのような検索語句でウェブサイトを訪問しているかを特定しました。
分析結果の概要
分析の結果、次のようなことが分かりました。
料金ページの閲覧数が突出
ウェブサイト全体の閲覧数の中で、料金ページが最も多く訪問されていることが判明しました。
お問い合わせページへの遷移率が低い
料金ページから直接お問い合わせページへの遷移が少ないことが課題として浮き彫りになりました。
修理事例ページの滞在時間が長い
修理事例ページでは平均滞在時間が長く、訪問者が具体的な事例に興味を持っていることが分かりました。
検索キーワードに地域性が強い
“冷蔵庫 修理 [地域名]”や“洗濯機 修理 迅速”といった地域密着型のキーワードが多く使われていることが確認されました。
データから導き出した改善の方向性
以上の分析結果をもとに、次のような改善の方向性を確認しました。
料金ページからの導線改善
料金ページに「今すぐお問い合わせ」ボタンを設置し、スムーズにお問い合わせページへの遷移を促進。
修理事例ページの充実
修理事例をさらに詳しくし、画像や費用の具体例を追加。「気になる方はこちら」ボタンを設置しお問い合わせページに誘導。
SEO(検索エンジン最適化)強化
地域密着型の検索キーワードを意識したコンテンツを追加し、Google検索などからの検索での露出を増加。
実施した施策とその効果
料金ページからの導線改善
分析結果を受けて、料金ページには「今すぐお問い合わせ」というボタンを目立つ位置に配置しました。
このボタンは、お問い合わせページへのリンクを直接設けることで、訪問者が簡単に行動を起こせるよう設計しました。
その結果、料金ページからのお問い合わせページへの遷移率が大幅に向上しました。
修理事例ページの充実
訪問者が具体的な事例に興味を持っていることを踏まえ、修理事例ページに以下のような改善を行いました。
- 修理前後の写真を追加し、視覚的に訴求。
- 各事例にかかった費用と修理期間を明記。
- 訪問者がよくある質問に簡単にアクセスできるリンクを配置。 これにより、修理事例ページの滞在時間がさらに延び、訪問者からの信頼度向上につながりました。
- 詳しく知りたい方のために、お問い合わせリンクを設置。
- 可能な限り、修理依頼者の声も掲載。
地域密着型のSEO強化
「冷蔵庫 修理 [地域名]」「洗濯機 修理 迅速」などの検索キーワードを意識し、ブログ記事やFAQページを新たに作成しました。
また、Googleビジネスプロフィール(旧称:Googleマイビジネス)を活用して地元の方が見つけやすくするようにしました。
その結果、検索エンジン経由の訪問者数が増加し、新規顧客獲得につながりました。
キャンペーンの実施
新規顧客向けに「初回修理20%オフ」のキャンペーンを実施し、これをウェブサイトとSNS広告で告知しました。
この施策は、お問い合わせ数のさらなる増加を促進しました。
効果の総括
これらの施策の実施後、次のような成果を得ることができました。
お問い合わせ数が前月比で50%増加
検索エンジン経由の訪問者数が1.8倍に増加
ウェブサイトを経由した売上が7.7倍
教訓と今後の展望
データ活用の重要性
今回の事例から、小規模企業でもデータを活用することで大きな成果を上げられることが分かりました。
特に、以下の点が重要な教訓として挙げられます。
安価な簡単なツールから始める
- 高額なツールや専門知識がなくても、基本的なアクセスログ分析で十分なインサイトが得られる。
- 今回のように、無料のツールのみで、データも集められますし、分析もできます。
具体的な行動につなげる分析
- 単にデータを集めるだけでなく、それを元に具体的な施策を講じることが成果につながる。
- 今回のデータ分析する前のように、データは溜まりっぱなしで、ほったらかしのケースは多々あります。その典型が、ウェブログと売上データです。
改善のサイクルを継続することの重要性
- 一度の分析で終わらせず、定期的なデータ確認と改善を行うことが鍵。
- 集計し見えてきたものをベースに施策を考えたら、即実行、即計測、即振返ります。いきなり上手くいくことはありません。先ずは、打席に立つことが重要です。
今後の方向性
さらなるデータ活用を進める上で、ABC修理センターが目指すべき方向性です。
さらなるデータの活用範囲の拡大
- ウェブのアクセスログだけでなく、他のデータにも範囲を拡大します。
- 例えば、顧客アンケートデータやソーシャルメディアなどです。
サービスの多角化
- 販売代理や家電の設置サービスなど、新たなニーズに対応するサービス展開を検討する。
- 高度化したデジタル家電を使いこなすための、レクチャーなど。
自動化と効率化の推進
- データ分析ツールの自動化や、AIを活用した需要予測モデルの導入。
- 要は、上手くいったやり方をテンプレート化し、できるだけ自動もしくは誰でも実施できりょうにするということです。
今回のまとめ
今回は、「小規模企業がデータ活用で生き残る! Webアクセスログ分析の実践事例」というお話しをしました。
データ活用は決して大企業だけの特権ではありません。限られたリソースでも、具体的な目標を持ち、段階的に進めることで十分な効果を得ることができます。
ABC修理センターの事例から、データ活用が小規模企業にとっても大きな効果をもたらすことが分かります。
基本的なアクセスログ分析から始め、具体的な改善施策を講じることで、短期間で売上や問い合わせ数の増加を実現しました。
データ活用の第一歩は、現状を知り、小さな改善を積み重ねることです。本記事が他の小規模企業にとって、データを活用した業績改善のヒントとなれば幸いです。