長い歴史の中で、人類は常に「どう決断すべきか」という問いに向き合ってきました。
古代には亀の甲羅を焼き、そのひび割れから神の意志を読み取る占いが政治や戦争の方針決定に用いられました。
それから時は経ち、現代のビジネスや政治の世界ではデータを活用した意思決定が主流となっています。
しかし、時代を超えても共通しているのは「確かなよりどころ」を求める人間の姿です。
今回は、「亀甲占いからデータサイエンスへ – 変わらない意思決定の本質とこれから」というお話しをします。
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はじめに
古代から現代に至るまで、人々が組織や社会を動かす重要な意思決定を下す過程は、一見すると大きく変化したように見えます。
かつては亀甲占いなどの神秘的な手法が存在し、国の命運を占う際にも広く用いられました。
現在では、ビッグデータやAIによる分析が経営や政治の場面で不可欠となっています。
しかし、こうした時代ごとの違いの奥底には、どの時代でも共通する「人間の不安」や「納得を得るための根拠への渇望」が見え隠れします。
古代の亀甲占いによる意思決定
占いの基本的手法と役割
亀甲占いは、中国をはじめとした古代国家で政や祭事などの重要な場面に用いられた占術の一つです。
例えば、殷王朝では戦争を始めるかどうかの判断や、次期王の選定など、国家の命運を左右する重要な決定に際して亀甲占いが行われました。
その具体的な方法は、亀の甲羅や牛の肩甲骨などを焼き、そこに入ったひび割れの形や走り方を読み解くことで神意を伺うというものでした。
儀式性の重要性
儀式という厳粛な場を設けることによって、多くの人が「これは特別な手続きなのだ」と認識しやすくなります。
たとえば、占いの前には数日間の断食や祈祷が行われ、特別な衣装を身につけた王や神官が立ち会うことで、その行為の重要性が視覚的にも強調されました。
解釈の多様性と政治利用
亀の甲羅に生じたひび割れという物理的な形状は、占いの結果を「見えるもの」として示します。
しかし、その意味づけが曖昧であるため、政治的に都合の良い解釈を行う余地が残されていました。
例えば、ある王朝では同じようなひび割れの模様であっても、平時には「安寧」の印として、戦時には「進軍」の合図として解釈されるなど、状況に応じて都合よく判断が下されることがありました。
現代の意思決定者による意思決定
データ分析と経営判断
現代においては、多くの企業がデータや分析ツールを駆使して経営戦略を立案し、投資判断やリスク評価を行っています。
例えば、あるグローバル小売チェーンでは、過去の売上データと気象情報、SNSの話題度などを組み合わせて需要予測を行い、各店舗の在庫最適化を図っています。
直感と創造性の価値
ある日本の製造業では、データ分析では市場性が低いと判断された製品を、現場責任者の直感的判断で開発を続行し、結果として大きなヒット商品となった例もあります。
このように、企業経営には創造性や柔軟性が必要とされる場面も多く、いかにデータから離れたところでアイデアを生み出せるかが競争力につながるケースもあります。
政治・行政における複雑性
政治や行政の領域でも、選挙結果の分析や世論調査などを活用しながら、政策立案や外交方針の決定が行われることが当たり前になりました。
例えば、ある地方自治体では、住民の年齢構成や所得層のデータを分析し、子育て支援策の優先順位を決定しています。
しかし、実際の政策決定では、数値では測れない地域コミュニティの要望や、議会との調整など、多様な要素を考慮する必要があります。
データ活用による意思決定
AIと機械学習の活用
近年のテクノロジーの急速な進歩に伴い、AIや機械学習によって膨大な量のデータを収集・処理・分析できるようになってきました。
例えば、ある金融機関では、顧客の取引履歴やSNSでの活動状況、位置情報などのビッグデータを分析し、不正取引の検知や与信判断の精度を大幅に向上させています。
技術的課題とバイアス
しかし、AIが使うアルゴリズムの多くは内部の処理が高度に複雑化しており、なぜそのような結果が出るのかがわかりにくい「ブラックボックス問題」に直面します。
ある採用システムでは、AIが応募者の選考を行う際に、特定の性別や出身大学に対して意図せぬバイアスをかけていたことが後から判明し、システムの改修を余儀なくされました。
3つの意思決定手法に共通するポイント
不確実性への対処
亀甲占いから現代の経営判断、そしてデータドリブンな意思決定に至るまで、いずれも大きな目的は「不確実性の中で、より良い選択をする」という点にあります。
例えば、古代中国の軍事遠征では亀甲占いの結果を軍の士気向上に活用し、現代の投資判断ではデータを参考にしながらも、最終的には人の判断で意思決定が行われています。
人間による解釈の重要性
どんなに優れた仕組みやテクノロジーがあっても、結果を「どう見るか」「どう活かすか」は人間に委ねられています。
実際、ある機械で起こった事故では、AIシステムに問題がなかったのにもかかわらず、その判断プロセスを人間が理解できなかったために、社会的な信頼を失ってしまった例もあります。
このように、技術的な精度だけでなく、人間による適切な解釈と説明が重要な役割を果たすのです。
まとめ
今回は、「亀甲占いからデータサイエンスへ – 変わらない意思決定の本質とこれから」というお話しをしました。
人類は、古代の亀甲占いに見られるような神秘的な方法から、経験豊富なリーダーの直感に基づく判断、そしてデータサイエンスを活用した現代的な意思決定に至るまで、不確実性とどう向き合うかという問いを繰り返し探求してきました。
最新のテクノロジーを使いこなすにはリテラシーや倫理観が求められますが、人間の思考力や想像力が十分に活かされなければ新たな発想や柔軟な対応力を失いかねません。
不確実性の中で個人や社会が納得を得られる結論を導くには、データと直感、客観と主観を両立させ、さらに多様な利害や価値観を調整できるスキルが不可欠です。