「今月も在庫が足りない!」
「倉庫がパンパンで困っている…」
中小企業の現場でよく聞かれるこんな悩みを、実はExcelの基本機能だけで大きく改善できることをご存知でしょうか?
年商3億円規模のある卸売業A社で、受発注データの管理と在庫の可視化に取り組んだ好事例があります。
特別な投資や複雑なシステムは一切不要。
Excel(もしくは無料のGoogle スプレッドシート)のピボットテーブルと基本的な関数を活用するだけで、欠品率を15%から5%以下へと劇的に改善し、過剰在庫も30%削減することに成功しました。
でも……
- 在庫管理の改善は必要だとわかっているけれど、どこから手をつければいいのかわからない
- 高額な在庫管理システムを導入する予算はない
……という方々に、すぐに実践できる具体的な改善手法をステップバイステップでお伝えします。
ということで今回は、「忙しい現場を救う!簡単に始める受発注データ管理と在庫の見える化」というお話しをします。
Contents [hide]
- 事例の概要
- 改善前の状況
- データ活用による効率的な在庫管理の実現
- 改善後の成果
- データ活用で実現する売上向上とコスト削減の両立
- 取り組みの目的
- 目的 1:販売機会の損失を抑え、売上増加を目指す
- 目的 2:倉庫に滞留する余剰在庫を減らし、在庫コストを削減する
- 具体的な目標値
- 目標値 1:欠品率を月間5%以下に抑える
- 目標値 2:在庫回転率を4回以上に引き上げる
- 目標値 3:管理担当の集計作業時間を1/2に短縮
- 目標設定のポイント
- 在庫管理が経営を左右する理由
- 中小企業経営における在庫管理の重要性
- 旧来の管理方法が抱えていた3つの問題点
- 1つ目:手作業による入力ミスとデータの不正確さ
- 2つ目:集計作業の非効率性
- 3つ目:需要予測の難しさ
- 非効率な管理がもたらす悪循環
- 課題の特定とデータ活用の検討
- 本質的な課題その1:受発注データの可視化不足
- 本質的な課題その2:タイムリーな在庫数把握の難しさ
- データ活用の方向性:既存ツールの最大活用
- ピボットテーブルによる売上分析
- 自動警告システムの構築
- データの一元管理
- 期待される効果と懸念事項
- スモールステップで着実に進める改善
- ステップ1:商品マスター・顧客マスターの作成
- ステップ2:受注データと仕入れデータの連携フォーマット統一
- ステップ3:集計シートとピボットテーブルの導入
- ステップ4:在庫警告リストの設定
- ステップ5:クラウドストレージでのファイル共有
- データ活用がもたらした具体的な改善
- 欠品率の劇的な改善:機会損失の大幅削減
- コスト削減と資金効率の向上:数字で見る経営改善
- 業務効率化がもたらした時間の創出
- 予想外の副次的効果:社内コミュニケーションの活性化
- データ活用が切り開く新たな可能性
- データ活用がもたらした三つの価値
- 1つ目:可視化による意思決定の質の向上
- 2つ目:業務効率化による人的資源の最適配分
- 3つ目:組織全体の意思疎通の円滑化
- 今後の展望:さらなる進化への道筋
- マクロやRPAツールの活用
- 外部データとの連携
- AIを活用した需要予測の高度化
- 中小企業におけるデータ活用の可能性
- 継続的な改善の重要性
- 今回のまとめ
事例の概要
「在庫が足りない」
「でも倉庫は在庫でいっぱい」
このような一見矛盾する状況に悩まされていたのが、文具・事務用品の卸売業を営むA社でした。
創業30年を超えるA社は、年商3億円規模で地域の中小企業や学校を主要顧客とし、3,000点以上の商品を取り扱っています。
しかし、長年続けてきた受発注管理の方法が、事業の成長に伴って深刻な課題となっていました。
改善前の状況
A社の受発注管理は、FAXやメールで届く注文書を紙に印刷し、担当者がExcelに手入力する方式でした。
在庫数は倉庫担当者が目視で確認し、週1回程度更新する運用となっていました。
しかし、受注データは入力されるものの、それを分析して在庫計画に活かすことができていませんでした。
どの商品がよく売れているのか、いつ需要が増えるのかといった情報は、ベテラン担当者の経験と勘に頼る状態でした。
その結果、人気商品の在庫切れが月に数回発生し、「申し訳ありません、在庫切れです」と顧客に謝る機会が増えていました。
一方で、需要予測が難しい商品については過剰に在庫を確保する傾向にあり、倉庫のスペースを圧迫。デッドストック化した商品も少なくありませんでした。
在庫の山に埋もれた倉庫内では、必要な商品を探すのにも時間がかかっていました。
データ活用による効率的な在庫管理の実現
この状況を改善するため、A社は受発注データの管理方法を見直すことにしました。
特別な投資は行わず、すでに使用していたExcelの機能を最大限に活用する方針を採用しました。
具体的には、受発注データをExcelの一つのファイルに集約し、ピボットテーブルを活用して商品ごとの売上傾向を可視化。
さらに、在庫数が一定レベルを下回った商品を自動的にリストアップする仕組みを構築しました。
改善後の成果
これにより、以下のような改善が実現しました。
まず、商品ごとの月別売上データが一目で把握できるようになり、適切な発注タイミングと数量の判断が可能になりました。
特に季節商品については、前年の売上データを参考に、需要増加の前に適切な在庫を確保できるようになっています。
在庫切れの警告機能により、人気商品の欠品も大幅に減少。顧客からの注文に対して「申し訳ありません」と謝る機会が激減し、売上機会の損失も防げるようになりました。
データの一元管理により、在庫状況の確認や売上集計にかかる時間も大幅に削減されました。
以前は週に数時間かかっていた作業が、今では数十分で完了します。
空いた時間は新規顧客の開拓や既存顧客へのフォローアップなど、より付加価値の高い業務に充てられるようになっています。
このように、特別なシステム投資をすることなく、既存のツールを工夫して活用するだけでも、大きな業務改善を実現できることが実証されました。
A社の事例は、中小企業における効率的な在庫管理の実現可能性を示す好例と言えるでしょう。
では、どのようなことを実施したのかを、解説していきます。
データ活用で実現する売上向上とコスト削減の両立
在庫管理の改善というと、ともすれば「コスト削減」だけに注目しがちです。
しかし、A社の取り組みがユニークだったのは、売上向上とコスト削減を同時に実現することを目指した点にありました。
このデータ活用プロジェクトの目的と具体的な目標値について見ていきましょう。
取り組みの目的
A社が在庫管理の改善に取り組むことになった直接のきっかけは、ある大口顧客からの指摘でした。
「御社の商品は品質も価格も満足しているのだが、納期が安定しない」
実際、人気商品の欠品による納期遅延が発生するたびに、営業担当者は謝罪に追われていました。
この状況を改善するため、A社は2つの明確な目的を設定しました。
目的 1:販売機会の損失を抑え、売上増加を目指す
在庫切れによる機会損失を減らすことで、既存顧客との取引を拡大し、新規顧客の開拓にもつなげることを目指しました。
特に、学校向けの文具や事務用品は季節性が強く、必要な時期に在庫がないと、その年の商機を逃してしまう可能性が高いという課題がありました。
目的 2:倉庫に滞留する余剰在庫を減らし、在庫コストを削減する
過剰在庫は単に保管スペースを圧迫するだけでなく、資金繰りにも悪影響を及ぼします。
在庫として寝かせている資金を、新商品の仕入れや営業活動の強化など、より生産的な用途に振り向けることを目指しました。
具体的な目標値
これらの目的を達成するため、A社は以下の3つの具体的な数値目標を設定しました。
目標値 1:欠品率を月間5%以下に抑える
これは注文を受けた商品のうち、在庫切れで即日出荷できない商品の割合を5%未満に抑えることを意味します。
改善前の欠品率は約15%でしたので、かなり意欲的な目標設定となりました。
目標値 2:在庫回転率を4回以上に引き上げる
在庫回転率とは、一定期間内に在庫がどれだけ売上に転換されたかを示す指標です。
たとえば、年間売上高が3,000万円で、平均在庫額が1,000万円の場合、在庫回転率は3回となります。
A社は、この在庫回転率を現状の3回から4回以上に引き上げることを目指しました。
目標値 3:管理担当の集計作業時間を1/2に短縮
在庫管理の効率化は、単なる省力化が目的ではありません。
空いた時間を顧客対応や新規開拓などの付加価値の高い業務に振り向けることで、会社全体の生産性向上を目指しました。
目標設定のポイント
これらの目標値を設定する際、A社が特に注意を払ったのは「現場の実態に即した実現可能な数値」であることでした。
たとえば欠品率については、理想的には0%を目指したいところですが、在庫を過剰に持つことでかえってコストが増大するリスクを考慮し、現実的な5%という数値を設定しています。
また、これらの目標値は互いに関連し合っています。
たとえば、在庫回転率を上げすぎると欠品率が上昇するリスクがありますし、逆に欠品率を下げようとして過剰に在庫を持てば在庫回転率が低下します。
こうしたトレードオフを考慮しながら、バランスの取れた目標設定を行いました。
在庫管理が経営を左右する理由
在庫管理の改善に取り組む前に、A社は現状を分析し、在庫管理が経営に与える影響について深く理解することから始めました。
中小企業経営における在庫管理の重要性
在庫管理は、特にこのような中小企業において経営の根幹を支える重要な要素です。
その理由は、資金繰りとの密接な関係にあるからです。
たとえば、100万円の商品を仕入れた場合、その代金は通常、仕入れから1〜2ヶ月以内に支払う必要があります。
一方、その商品が売れて代金を回収できるまでにはさらに時間がかかります。
この仕入れ代金の支払いと売上代金の回収の間にあるタイムラグが、中小企業の資金繰りを圧迫する大きな要因となっています。
A社の場合、約3,000点の商品を扱っており、平均的な在庫金額は売上の約4ヶ月分に相当する1億円程度でした。
これは決して少なくない金額です。
この在庫として寝かせている資金を、たとえば新商品の仕入れや営業活動の強化、設備投資などに振り向けることができれば、事業の成長機会を広げることができます。
つまり、在庫管理の良し悪しは、単なる業務効率の問題ではなく、企業の成長可能性を左右する重要な経営課題なのです。
旧来の管理方法が抱えていた3つの問題点
A社の在庫管理における問題は、大きく分けて以下の3つに整理できました。
1つ目:手作業による入力ミスとデータの不正確さ
受注データは各営業担当者がExcelに手入力していましたが、商品コードの入力ミスや数量の誤記入などが日常的に発生していました。
特に繁忙期には入力自体が後回しになることもあり、実際の在庫状況とデータ上の数値に差異が生じることが頻繁にありました。
たとえば、ある営業担当者が商品コードを誤って入力したため、実際には在庫が十分にあった商品を「在庫なし」と顧客に回答してしまうということがありました。
逆に、在庫切れの商品を「在庫あり」として受注し、後になって納期遅延の謝罪をするというケースも発生していました。
2つ目:集計作業の非効率性
月末の在庫集計では、複数のExcelファイルから必要なデータを抽出し、手作業で転記・集計する必要がありました。
この作業には週に数時間を要し、担当者の大きな負担となっていました。
さらに、手作業による集計ミスも発生しやすく、正確な在庫把握を困難にしていました。
3つ目:需要予測の難しさ
過去の売上データは保存されているものの、それを効果的に分析・活用する仕組みがありませんでした。
特に季節商品については、前年のデータを参照しながら発注数を決定する必要がありますが、データが分散していて傾向を把握しにくい状態でした。
その結果、ベテラン担当者の経験と勘に頼った発注が行われ、時には過剰発注や発注漏れが発生していました。
たとえば、学校向けの定規セットは毎年4月に需要が集中しますが、発注のタイミングが遅れて品切れを起こすこともありました。
非効率な管理がもたらす悪循環
これらの問題は、単独で存在するのではなく、互いに関連し合って悪循環を形成していました。
正確なデータが取れないため、適切な需要予測ができません。
需要予測が難しいため、「念のため」に余分に在庫を確保する傾向が生まれます。
過剰在庫は倉庫スペースを圧迫し、在庫管理をさらに難しくします。在庫管理が難しくなると、データの正確性がさらに低下する…という具合です。
この悪循環を断ち切るためには、まず正確なデータを効率的に収集・分析できる仕組みを整備する必要がありました。
課題の特定とデータ活用の検討
在庫管理の問題点が明らかになった後、A社は具体的な改善策を検討するフェーズに入りました。
このとき重要だったのは、「何が本質的な課題なのか」を見極めることでした。
表面的な問題に対処するだけでは、根本的な解決につながりません。
そこでA社は、データの観点から課題を整理し、活用方法を検討していきました。
本質的な課題その1:受発注データの可視化不足
A社が直面していた最も大きな課題は、「データはあるのに、活用できていない」という状況でした。
毎日の受発注データは確かにExcelに入力されていましたが、それは単なる記録として保存されているだけで、実際の意思決定には活かされていませんでした。
例えば、ある営業担当者は「この商品は毎月コンスタントに出ているから、在庫は多めに持っておいた方がいい」と考えていました。
しかし、実際のデータを分析してみると、その商品の需要は季節によって大きく変動しており、一定ではありませんでした。
この「思い込み」による在庫管理が、過剰在庫の一因となっていたのです。
データを可視化することで、以下のような情報を明確に把握することになりました。
- 商品ごとの月別売上推移
- 季節変動の有無とその度合い
- 顧客層による需要の違い
- 類似商品間の需要の関係性
本質的な課題その2:タイムリーな在庫数把握の難しさ
2つ目の重要な課題は、在庫数のリアルタイムな把握が困難だったことです。
倉庫担当者と営業担当者の情報連携は週1回程度のミーティングが中心で、その間に発生した変化への対応が遅れがちでした。
この遅れが引き起こす問題は、単なる業務の非効率だけではありません。
たとえば、ある商品の在庫が減少傾向にあることに気づくのが遅れ、発注のタイミングを逃してしまうと、その後1〜2週間は欠品状態が続いてしまいます。
この間に発生する販売機会の損失は、決して小さくありません。
特に以下のような状況で、タイムリーな情報把握が求められていました。
- 季節商品の需要急増期
- 大口注文への対応
- 仕入先の在庫状況の変化
- 類似商品の品切れによる代替需要の発生
データ活用の方向性:既存ツールの最大活用
これらの課題に対して、A社は「できるだけ既存のツールを活用する」という方針を採用しました。
新しいシステムの導入は、コストだけでなく、習熟に時間がかかるというデメリットもあります。
そこで、普段から使用しているExcelの機能を最大限に活用することにしました。
具体的には、次のような活用方法を検討しました。
ピボットテーブルによる売上分析
すでに入力されている受発注データを、ピボットテーブルを使って多角的に分析できるようにします。
商品別、顧客別、月別など、様々な切り口での分析が可能になります。
これにより、「思い込み」ではなく、実データに基づいた在庫計画が立てられるようになります。
自動警告システムの構築
在庫数が一定レベルを下回った商品を自動的に検出し、警告を表示する仕組みを作ります。
これには、ExcelのSUMIF関数やVLOOKUP関数、条件付き書式などの基本的な機能を組み合わせて使用します。
データの一元管理
複数のExcelファイルに分散していたデータを一つのファイルに統合し、誰でも必要な情報にアクセスできるようにします。
これにより、情報の更新漏れや齟齬を防ぐことができます。
期待される効果と懸念事項
このようなデータ活用により、次のような効果を期待しました。
- 売上傾向の可視化による適切な発注計画の立案
- 在庫切れの予防と過剰在庫の抑制
- 情報共有の円滑化による業務効率の向上
一方で、次のような懸念がありました。
- データ入力の負担が増えないか
- 新しい運用方法に現場がスムーズに適応できるか
- Excelファイルが重くなりすぎないか
スモールステップで着実に進める改善
在庫管理の改善は、一朝一夕には実現できません。
特に既存の業務を止めることなく改善を進めていく必要がある現場では、段階的なアプローチが重要です。
A社では、以下の5つのステップで改善を進めていきました。
ステップ1:商品マスター・顧客マスターの作成
最初のステップとして、すべての基準となる「マスターデータ」の整備から着手しました。
これは、後続の作業をスムーズに進めるための土台となる重要な工程です。
商品マスターには、商品コード、商品名、仕入先、標準発注ロット、最小在庫数などの基本情報を入力しました。
特に注意を払ったのは、商品名の表記ゆれの統一です。
例えば、「ボールペン(黒)」「黒ボールペン」「BP黒」など、これまで担当者によってバラバラだった表記を「ボールペン 黒」に統一することで、後の集計作業がしやすくなりました。
顧客マスターについても同様に、会社名、担当者名、配送先情報などを整理しました。
特に、学校や官公庁など、季節的な需要がある顧客については、過去の発注パターンも併せて記録することで、需要予測に活用できるようにしました。
ステップ2:受注データと仕入れデータの連携フォーマット統一
次に、日々発生する受注データと仕入れデータを記録するフォーマットを整備しました。
これまでは担当者ごとに少しずつ異なるフォーマットを使用していましたが、これを完全に統一することにしました。
基本項目として以下を設定しました。
- 発注日/受注日
- 商品コード(商品マスターと連携)
- 数量
- 単価
- 顧客コード(顧客マスターと連携)
- 納期指定の有無
- 備考(特記事項)
この統一フォーマットの導入時には、現場から「入力項目が増えて手間が増えるのでは?」という懸念の声が上がりました。
しかし、商品コードを入力すると商品名が自動入力される仕組みを実装するなど、入力の手間を極力減らす工夫を行いました。
ステップ3:集計シートとピボットテーブルの導入
データの入力フォーマットが整ったところで、それらを分析するための集計シートを作成しました。
ここでのポイントは、誰でも簡単に必要な情報を取り出せる仕組みを作ることでした。
ピボットテーブルを活用することで、以下のような分析が容易になりました。
- 商品別の月次売上推移
- 顧客別の商品カテゴリ購入傾向
- 季節別の売れ筋商品ランキング
- 仕入先別の発注金額推移
特に効果的だったのは、前年同月比での売上推移を可視化できるようになったことです。
これにより、季節商品の需要予測の精度が大きく向上しました。
ステップ4:在庫警告リストの設定
在庫数が一定レベルを下回った商品を自動的に検出する仕組みとして、在庫警告リストを構築しました。
このリストは、ExcelのSUMIF関数とVLOOKUP関数を組み合わせて作成しています。
具体的には、以下の3段階で警告を設定しました。
- 黄色警告:標準在庫数の70%を下回った場合
- オレンジ警告:標準在庫数の40%を下回った場合
- 赤色警告:標準在庫数の20%を下回った場合
この警告システムは、単純な在庫数だけでなく、直近の出荷ペースも考慮に入れて判定を行います。
たとえば、通常はそれほど動きのない商品でも、急に出荷ペースが上がった場合には早めに警告が表示されるようになっています。
ステップ5:クラウドストレージでのファイル共有
最後に、作成したExcelファイルを関係者全員で共有できるようにするため、Google Driveを活用した共有の仕組みを整えました。
これにより、以下のような運用が可能になりました。
- 営業担当者は外出先からでもリアルタイムで在庫状況を確認できる
- 倉庫担当者は入出荷のたびにデータを更新できる
- 経営層は必要なときに売上状況を確認できる
ただし、複数人での同時編集によるデータの不整合を防ぐため、編集権限は必要最小限の担当者のみに付与し、それ以外のメンバーは閲覧のみ可能という設定にしました。
この5つのステップは、約2ヶ月かけて段階的に実施されました。各ステップで発生した問題点は、週1回のミーティングで共有・解決していきました。
データ活用がもたらした具体的な改善
在庫管理の改善プロジェクトを開始してから半年が経過した時点で、A社では具体的な成果の評価を行いました。
欠品率の劇的な改善:機会損失の大幅削減
最も顕著な成果が見られたのは、欠品率の改善でした。
プロジェクト開始前は月平均15%あった欠品率が、半年後には4.2%まで低下しました。これは当初の目標である5%を上回る成果です。
特に効果が大きかったのは、季節商品における欠品の減少です。
たとえば、前年は4月の新学期シーズンに学校向け文具セットの在庫切れが発生し、約200万円の受注を逃していましたが、今年は在庫警告システムの活用により、適切なタイミングで発注を行うことができました。
データに基づいて需要を予測し、発注のタイミングを最適化したことで、このような機会損失を防ぐことができたのです。
また、ある商品の在庫切れが予測された際に、類似商品の在庫状況も併せて確認できるようになったことで、代替提案がスムーズになりました。
これにより、たとえ第一希望の商品が品切れでも、顧客に満足いただける代替案を提示できるケースが増えています。
コスト削減と資金効率の向上:数字で見る経営改善
在庫の適正化による効果は、コスト面でも顕著に表れました。
倉庫に滞留していた過剰在庫は、金額ベースで約30%削減することができました。
具体的には、平均在庫金額が1億円から7,000万円程度まで減少し、これにより年間の保管コストも約150万円削減することができました。
在庫回転率も大きく改善しました。
プロジェクト開始前は年3回だった在庫回転率が、半年後には4.2回まで向上しています。これは当初の目標である4回を上回る成果です。
在庫回転率の向上は、単なる数字の改善以上の意味を持ちます。
回転率が上がることで資金の流動性が高まり、その結果、新商品の仕入れや営業活動への投資など、より戦略的な資金活用が可能になったのです。
業務効率化がもたらした時間の創出
データの一元管理と自動集計の仕組みにより、在庫管理に関わる作業時間も大幅に削減されました。
以前は週に4〜5時間かかっていた在庫状況の確認と集計作業が、現在では30分程度で完了するようになっています。
これは当初の目標であった「作業時間の半減」を大きく上回る成果です。
特筆すべきは、この時間の創出が単なる省力化に留まらず、より価値の高い業務への転換を可能にしたことです。
たとえば、ある営業担当者は空いた時間を活用して新規顧客の開拓に注力し、半年間で10社の新規取引を獲得することができました。
また、商品部門では、データ分析に基づいて新商品の企画提案を行うなど、より戦略的な業務にリソースを振り向けることが可能になっています。
予想外の副次的効果:社内コミュニケーションの活性化
データの可視化がもたらした効果は、数字で測れる改善だけではありませんでした。
たとえば、在庫状況や売上傾向が誰でも簡単に確認できるようになったことで、部門間のコミュニケーションが活性化されました。
営業担当者と倉庫担当者の間では、データに基づいた建設的な議論が増えています。
たとえば……
- この商品の動きが急に良くなっているから、在庫を増やした方がいいのでは?
- この商品は季節的な需要増加の時期だけど、去年の在庫は足りていたかな?
……といった具合です。
また、経営層にとっても、リアルタイムで在庫状況や売上傾向を把握できるようになったことで、より迅速な意思決定が可能になりました。
たとえば、ある商品カテゴリーの売上が急増していることにいち早く気づき、関連商品の仕入れを強化するといった判断を素早く下せるようになっています。
このように、A社の在庫管理改善プロジェクトは、当初の目標を上回る成果を上げることができました。
データ活用が切り開く新たな可能性
プロジェクト開始から半年が経過し、A社の在庫管理は大きく改善されました。
データ活用がもたらした三つの価値
A社の取り組みを通じて、在庫管理におけるデータ活用が三つの重要な価値を生み出すことが明らかになりました。
1つ目:可視化による意思決定の質の向上
これまで担当者の経験と勘に頼っていた在庫管理が、データに基づく客観的な判断へと進化しました。
たとえば、ある商品の売上が急増した際、以前であれば「一時的な需要増加かもしれない」と慎重になりがちでしたが、今では過去のデータパターンと照らし合わせることで、より確信を持った判断が可能になっています。
2つ目:業務効率化による人的資源の最適配分
在庫管理業務の効率化により生まれた時間を、営業活動や商品企画など、より価値の高い業務に振り向けることができるようになりました。
これは単なるコスト削減以上の価値を企業にもたらしています。
3つ目:組織全体の意思疎通の円滑化
データの一元管理により、誰もが同じ情報を共有できるようになったことで、部門間の協力体制が強化されました。
これにより、問題の早期発見や迅速な対応が可能になっています。
今後の展望:さらなる進化への道筋
A社では、今回の成功を踏まえて、さらなる改善に向けた検討を始めています。
具体的には、次のような展開を視野に入れています。
マクロやRPAツールの活用
まず検討されているのが、マクロやRPAツールの活用です。
現在、仕入れ先への発注は手作業で行っていますが、これを自動化することで、さらなる業務効率化が期待できます。
在庫が一定水準を下回った商品を自動的にリストアップし、発注書を作成するといった仕組みの構築を計画しています。
外部データとの連携
また、外部データとの連携も検討課題です。
たとえば、気象データや地域のイベント情報など、需要に影響を与える可能性のある外部要因を考慮に入れることで、より精度の高い需要予測が可能になると考えられます。
学校向け商品であれば、学校行事カレンダーとの連携も有効かもしれません。
AIを活用した需要予測の高度化
さらに長期的な視点では、AIを活用した需要予測の高度化も視野に入れています。
過去の売上データだけでなく、SNSでの言及数や検索トレンドなども考慮に入れた、より精緻な予測モデルの構築を目指しています。
中小企業におけるデータ活用の可能性
A社の事例は、中小企業におけるデータ活用の可能性を示す好例と言えるでしょう。
特に重要なのは、必ずしも高額なシステム投資を必要としないという点です。
既存のツールを工夫して活用することで、十分な効果を得ることができました。
ただし、データ活用の成功には、いくつかの重要な要素があることも明らかになっています。一つは、経営層の理解と支援です。
A社の場合、社長自身がデータの重要性を理解し、現場の取り組みを後押ししました。
また、現場の協力も不可欠です。データ入力の正確性を高めるため、担当者全員がその重要性を理解し、協力する体制が整っていました。
継続的な改善の重要性
在庫管理の改善は、決してゴールのない取り組みです。
市場環境の変化や技術の進歩に応じて、常に新たな課題が生まれてきます。
重要なのは、その時々の状況に応じて柔軟に対応しながら、継続的な改善を進めていくことです。
A社の事例は、中小企業がデータを活用して業務改善を実現できることを示しています。
高度なシステムや専門的な知識がなくても、既存のツールを工夫して活用することで、大きな成果を上げることができるのです。
今回のまとめ
今回は、「忙しい現場を救う! 簡単に始める受発注データ管理と在庫の見える化」というお話しをしました。
受発注データの管理と在庫の見える化は、中小企業の経営改善において重要な課題です。
A社の事例は、特別なシステム投資をせずとも、Excelの基本機能を効果的に活用することで大きな成果を上げられることを示しています。
データの一元管理とピボットテーブルによる分析により、欠品率は15%から4.2%に改善し、過剰在庫は30%削減されました。
さらに、在庫管理業務の効率化により創出された時間を、営業活動や商品企画などの付加価値の高い業務に振り向けることができました。
今後は、RPA導入やAIによる需要予測など、さらなる進化の可能性も見えています。
この取り組みは、データ活用が中小企業の競争力強化に直結することを実証する好例と言えるでしょう。