第434話|無駄な在庫とサヨナラ! 受発注データを活かした手軽な在庫管理改革

第434話|無駄な在庫とサヨナラ! 受発注データを活かした手軽な在庫管理改革

「在庫管理で悩んでいるけど、高額なシステムを導入する余裕はない…」
「スタッフの経験と勘に頼った発注では限界がある…」

そんな中小企業の悩みを、身近なExcelとデータ活用で解決した事例をご紹介します。

日用雑貨の卸売業を営む「タナカ商事株式会社(仮名)」(従業員30名、年商5億円)が取り組んだ在庫管理改革と、ちょっとした成果をお伝えします。

特別な知識やスキルがなくても実践できる方法です。

Contents [hide]

事例の概要

 タナカ商事が抱えていた混沌とした在庫管理の現実

東京都内で日用雑貨の卸売業を営むタナカ商事株式会社(仮名)では、創業以来30年間、受発注データが紙の伝票やメールの履歴に散らばり、どの商品がいつどれだけ売れたのか一元的に把握できない状態が続いていました。

取扱商品は約3,000アイテムにも及び、5名の営業担当がそれぞれの顧客(約200社の小売店)からの注文を個別に管理していたため、全体像が見えない状況でした。

特に人気商品の食器用洗剤や掃除用品などは欠品が頻発し、月に平均15回以上の納期遅延が発生。

顧客からのクレームも増加し、販売機会の損失に直結していました。

一方で、季節商品や特定のメーカーの商品は倉庫に大量の在庫が眠っているのに、肝心の必要な商品が足りないという「在庫のミスマッチ」が日常的に発生していたのです。

「このままでは会社の信用問題になる」と危機感を抱いた営業部長の田中誠二さん(45歳)が中心となり、データ活用による在庫管理改革に着手することになりました。

 Excelデータ活用がもたらした劇的な改善

改革から6か月後、タナカ商事の在庫管理は劇的に変化しました。

Excelを活用して受発注履歴を一元管理することで、商品別・月別の売上傾向が明確に可視化されたのです。

特に効果があったのが、ピボットテーブルという便利な機能を使って在庫数と売上数を対比する分析手法でした。

これにより、いつ、どの商品が不足するかを事前に予測できるようになったのです。

「以前は経験と勘に頼っていた発注が、データに基づく科学的なものに変わりました」と田中部長は語ります。

その結果、過剰在庫を30%(金額にして約2,500万円相当)削減し、欠品率も25%から8%へと大幅に減少。

資金効率の改善と顧客満足度の向上という二つの大きな成果を同時に達成することができました。

在庫管理改革で目指したもの

 タナカ商事はなぜ在庫管理を改革する必要があったのか

社長の田中健太郎氏(58歳)は当時を振り返ります。

「当社は家族経営の中小企業なので、大手のような高額な在庫管理システムを導入する予算はありませんでした。でも、このままでは経営が危ういと感じていました」

在庫管理の改革には、明確な三つの目的がありました。

一つ目は在庫切れを防ぎ、売上機会のロスを減らすこと。

特に主力商品である洗剤や掃除用品などの日用消耗品は、小売店からの注文が途切れることがなく、確実な供給が求められていました。

二つ目は過剰在庫を削減し、倉庫コストとキャッシュフローを最適化すること。

タナカ商事は都内に自社倉庫(約500坪)を保有していましたが、スペースの約7割が在庫で埋まっており、新商品の取り扱いにも支障をきたしていました。

そして三つ目は、新たな高額システムの導入ではなく、Excelを中心とした既存ツールで管理フローを構築し、コストを最小限に抑えることでした。

「システム会社からの提案は最低でも500万円以上。当社の規模ではとても手が出ません」と田中社長は語ります。

 タナカ商事が設定した具体的な数値目標

改革を成功させるために、タナカ商事は具体的な数値目標を設定しました。

まず、欠品率を当時の25%から月間10%以下に抑えること。

次に、過剰在庫を20%削減し、余剰な倉庫スペースを有効活用すること。

そして、管理担当者の集計・分析にかかる時間を月間40時間から20時間以下に短縮することを目指しました。

「特に欠品率の改善は最優先事項でした。顧客である小売店からの信頼回復が急務でしたから」と営業部長の田中誠二氏は強調します。

これらの目標は、改革の進捗を測る明確な指標となりました。

タナカ商事の在庫管理の課題を深掘りする

 在庫管理の重要性

日用雑貨の卸売業を営むタナカ商事のような中小企業にとって、在庫管理は経営の根幹を支える重要な要素です。

「私たちの商品は単価が低く、利益率も5〜15%程度。だからこそ、在庫の回転率を上げて効率よく商品を供給することが生命線なんです」と経理担当の鈴木良子氏(38歳)は説明します。

在庫切れが発生すれば即座に売上ダウンに直結し、一方で過剰在庫は資金繰りを圧迫します。

特にタナカ商事が扱う日用消耗品は、小売店の棚に常に並んでいることが期待される商品であり、納期遅延や欠品が続けば、取引先や顧客からの信頼低下を招き、長期的な取引関係にも悪影響を及ぼしかねません。

 タナカ商事の旧来の管理方法と問題点

タナカ商事の従来の在庫管理では、営業部(5名)、倉庫管理部(8名)、仕入れ部(3名)がそれぞれに独自のエクセルファイルやノートで個別管理していました。

「営業は営業、倉庫は倉庫で別々に動いていたので、情報がリアルタイムで共有されない状況でした」と倉庫管理責任者の佐藤健一氏(52歳)は振り返ります。

例えば、毎週月曜日に行われる在庫確認作業では、倉庫スタッフ2名が丸一日かけて棚卸を行い、その結果を手作業でエクセルに入力するという非効率なプロセスが続いていました。

受注数と在庫数をつき合わせる作業には膨大な時間がかかり、人為的なミスによる誤差も頻繁に発生。

「先月は発注ミスで約100万円の損失が出ました」と田中社長は嘆きます。

その結果、洗濯洗剤などの一部の高回転商品は常に在庫切れの危険があるのに、季節商品の虫除けスプレーなどは過剰に在庫があるという「もったいない」状態が常態化していたのです。

「倉庫の一角には、2年前のお中元シーズンの石鹸セットが100箱以上眠っていました」と佐藤氏は打ち明けます。

課題の特定とデータ活用の検討

 課題1:タイムリーな在庫状況の把握不足

入出庫のタイミングが統一されておらず、最新のデータを常に反映できていない状況がありました。

このため、実際の在庫状況と記録上の数値に乖離が生じ、正確な在庫管理ができない原因となっていました。

 課題2:売れ筋・死に筋商品の見極めができない

商品の人気度や売れ行きの判断が、経験や勘に頼っており、客観的なデータに基づいた分析ができていませんでした。

このため、実際には売れ行きが悪い商品に在庫を抱え続けるという非効率な状態が続いていました。

 課題3:在庫管理の属人化

担当者ごとに集計や管理の方法が異なり、特定の社員が不在の際には他のメンバーが代替できないという問題がありました。

これにより、業務の継続性や効率性が損なわれていました。

 データ活用の方向性

これらの課題を解決するために、Excelで受発注データを一元管理し、売上高や発注数、在庫数をピボットテーブルで可視化する方針を立てました。

さらに、マクロや関数を駆使して在庫警告リストなどのアラート機能を追加することも検討しました。

また、商品マスターや顧客マスターを整備し、クラウドでの共有環境を構築することで、常に最新のデータを全社員が参照できる仕組みづくりを目指しました。

データ活用による在庫管理改革の実践

 STEP 1 – 商品マスター・顧客マスターの整備

まず最初のステップとして、商品コード、商品名、仕入先情報、標準在庫量などをExcelで体系的に整理した商品マスターを作成しました。

同時に、顧客情報もフォーマットを統一し、受発注履歴と紐づけられるようにしました。

このマスターデータの整備により、以降のデータ分析の基盤が構築されました。

 STEP 2 – データ入力ルールとファイル管理体制の確立

受注が入ったら即座にExcel(またはクラウドシート)に反映するというルールを全社に周知徹底しました。

また、仕入れのタイミングや在庫の変動も都度記録し、常に最新状態を共有する体制を確立。

これにより、リアルタイムのデータ更新が可能になりました。

 STEP 3 – ピボットテーブルによる売上&在庫分析

Excelのピボットテーブル機能を活用して、商品別・月別の売上動向を可視化し、売れ筋商品と不人気商品を明確に把握できるようにしました。

さらに、在庫数と需要予測を組み合わせることで、各時期にどれだけの在庫が必要かを科学的に試算できるようになりました。

 STEP 4 – 在庫警告リストの作成

ExcelのマクロやIF関数などを駆使して、「在庫数 < 安全在庫数」という条件に該当する商品を自動的にリストアップする仕組みを構築しました。

さらに、このリストを担当者へメールで自動通知する仕組みも導入し、早期の対応が可能になりました。

 STEP 5 – 定期的なデータレビューと改善

毎月または毎週、ピボットテーブルによる分析結果をチーム全体でレビューし、仕入れ計画に反映する習慣を確立しました。

また、余剰在庫が目立つ商品については仕入れ数の調整や、販促キャンペーンの実施も積極的に検討するようになりました。

データ活用がもたらした具体的な改善

 欠品の大幅減少

在庫切れが起きそうなタイミングを事前に把握できるようになったことで、売上機会の損失を大幅に低減することができました。

また、顧客からの納期クレームも減少し、取引先からの信頼度が向上しました。

具体的には、欠品率が従来の25%から8%まで減少し、目標の10%以下を達成することができました。

 過剰在庫の削減

倉庫スペースを圧迫していた余剰在庫が整理され、コスト削減に成功しました。

実際に過剰在庫は目標の20%を上回る30%の削減を達成し、倉庫内の空きスペースを他の用途に活用できるようになりました。

また、在庫回転率の向上によりキャッシュフローが改善し、資金繰りにもプラスの効果をもたらしました。

 業務効率の向上

ピボットテーブルによる自動集計の導入により、従来は丸一日かかっていた月次集計作業が1時間程度で完了するようになり、管理工数が大幅に削減されました。

また、クラウドを活用したデータ共有により、営業担当・在庫担当・経営層など、全社で同じデータをリアルタイムに把握できるようになり、意思決定のスピードと質が向上しました。

さらなるデータ活用の可能性

 小さな一歩が大きな変革に

Excel×無料クラウドストレージという比較的シンプルなツールで受発注データをまとめるという小さな一歩が、在庫最適化という大きな成果につながりました。

適正在庫の確保は売上増とコスト削減の両面で効果を発揮し、企業の成長に直結することが実証されました。

 より高度なデータ活用へ

この成功体験を基盤として、さらに高度なデータ活用も視野に入れています。

例えば、過去の売上動向と季節要因やイベント情報を組み合わせた、より精緻な需要予測の実現を検討中です。

また、AIツールを活用し、在庫不足を自動で察知して仕入れ先への発注計画を提案する仕組みの構築も将来的な目標としています。

事業規模の拡大に合わせて、最終的には自社に最適化された本格的な在庫管理システムへの移行も検討していますが、現状のExcelベースの仕組みが、そうした将来への「橋渡し」として大きな役割を果たしていることは間違いありません。

Excelデータ活用のポイント

 必要最小限のデータから始める

「最初は欲張らないことが重要です」とタナカ商事の改革を主導した田中誠二部長は強調します。

完璧なデータベースを目指すのではなく、タナカ商事では最初の1ヶ月は必要最小限の5項目(商品コード、商品名、在庫数、月間平均売上数、発注点)だけをエクセルで管理しました。

「データ収集の負担が大きすぎると、特に年配のスタッフから不満が出ますし、継続も難しくなります」と田中部長。

シンプルな構造から始めて、3ヶ月目に利益率や季節指数などを追加し、徐々に拡張していったことが成功のポイントだったといいます。

 定期的な入力習慣の確立

「当初は毎日17時に全員でデータ更新する時間を設けました」と倉庫管理責任者の佐藤氏。

どんなに優れた分析ツールも、元となるデータが正確でなければ意味がありません。

タナカ商事では、最初の2週間は管理職が率先して17時のデータ更新タイムに参加し、全社を挙げての取り組みであることを示しました。

今では日次での定期的なデータ更新の習慣が組織全体に定着し、「データ無しでは意思決定できない文化が生まれました」と田中社長は胸を張ります。

 ビジュアル化の力を活用する

「私自身はパソコンが苦手な方ですが、グラフになると売れ筋商品が一目瞭然で分かるようになりました」と田中社長。

数字の羅列だけでは傾向や問題点を把握するのが難しいものです。

タナカ商事では、月1回の全体会議で必ず「データダッシュボード」と呼ばれるグラフとピボットテーブルをプロジェクターで映し出し、全員で在庫状況を確認しています。

「特に経営層への報告には、シンプルで分かりやすいビジュアル表現が効果的です」と経理担当の鈴木氏は言います。

 小さな成功体験の積み重ね

タナカ商事では、最初に売上の30%を占める主力の洗剤カテゴリーに特化して改革を始めました。

「一度にすべてを変えようとするのではなく、まず目に見える効果が出やすい分野から始めました」と田中部長。

1ヶ月で洗剤の欠品がゼロになるという小さな成功を経験したことで、「他の商品カテゴリーでもやってみよう」という前向きな声が社内から自然と上がったそうです。

この小さな成功体験の積み重ねが、データ活用の文化を全社に広げる原動力になりました。

今回のまとめ

今回は、「無駄な在庫とサヨナラ! 受発注データを活かした手軽な在庫管理改革」というお話しをしました。

紹介したタナカ商事(仮名)の取り組みからも分かるように、特別な知識やスキルがなくても、まずは小さく始めて確実に継続することが成功の秘訣です。

最初はExcelレベルで十分です。

Excelレベルのデータ活用すらままならない状態の企業が、高価なAIツールやDXシステムなどのための投資で、上手くいきそうな気がしません。

1キロメートル走れる自信のない人が、素敵なシューズを履けばフルマラソンを素敵な結果を手にすると勘違いするぐらいのことです。

みなみな様の企業におけるデータ活用の第一歩となれば幸いです。